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【書評】「「ずっと、ここで働きたい」と言われる会社」渡部 哲也

2025/12/08公開 更新
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「「ずっと、ここで働きたい」と言われる会社」渡部 哲也


【私の評価】★★★★☆(86点)


要約と感想レビュー


原価40%障がい者が作るレストラン

宮城県仙台市に有機野菜を使った手作り料理を、障害のあるスタッフが提供してくれるお店「六丁目農園」があります。


それも、お昼2500円のランチだけで、材料費40%、人件費40%で営業し、利益が出ているという。材料費の40%は地元の有機野菜を作る農家に還元され、人件費40%は障害のあるスタッフに還元されているということです。


その店には常連客が連日押し寄せ、1日に150人限定なので予約が取れません。予約の取れたお客さんも「なんとなくいやされる」「スタッフがイキイキと働いている」と、口コミで集客できているのです。


もちろん、居ぬき物件を店舗としたこと、宣伝広告費がほぼゼロであること、従業員の約7割が障がい者で補助金が出ていることもあります。しかし、経営が順調なのは「スタッフの幸せ」を経営の目標にしていることがすべてだと著者はいうのです。


現在、関連会社を含め・・・私の目指す目標は、あくまで「スタッフの幸せ」です(p42)

障がい者が働く場を作るという志

どういった経緯で、このようなユニークなお店を作ることになったのか、著者の半生をたどっていきましょう。


著者が高校3年時に、父の会社が100億円近くの負債を抱えて倒産。著者は、「いつか父の敵をとる」と誓ったのです。営業マンになったり、起業したり、16種類もの仕事に挑戦しましたが、いずれもうまくいきませんでした。


著者は41歳で17回目の挑戦として、当時ブームだったたい焼き屋をオープンするのです。著者には、事故で障害を持つ義弟がいました。そこで、たい焼き屋で雇うことにしたのです。


発達障害のため、止めどなく話し続ける障がい者に戸惑いながらも、著者は障がい者の話を聞いていました。その障がい者が、たい焼きを焼くことに興味を持っているようなので、焼く作業をお願いすると、時間はかかったもののイキイキと働くようになったのです。


著者はそれまで金儲けのことしか考えてこなかったのですが、働いている人たちの幸せを考えれば、イキイキと働いてくれて、結果、利益は出るのではないか。障がい者が働く場を作り、経済的自立をサポートし、障がい者にいきがいを提供するというコンセプトのお店を作ることを決断するのです。


地元で職のない人の雇用の場をつくりたい・・私が生きてきてはじめて持った志から生まれたのが、「六丁目農園」でした(p34)

現場スタッフの抵抗で崩壊寸前

「有機野菜と手づくり」と「障害者の経済的自立」というコンセプトで「六丁目農園」が完成しました。


ところが、オープンしてみると昼の営業が終わると夜の営業のための準備でスタッフは休憩もなく働きっぱなし。段取りがうまくいかず、なかなか料理が出なかったり、お店は大混乱でした。そこで夜の営業をは辞めることを2日目に決断しますが、問題は出続けます。


福祉関係者の間からは、「障がい者を長い時間こき使っている」と批判されました。


調理スタッフからは「機械を使えば、負担は減る」などとスタッフ増員とメニュー改善の嘆願書が出され、店長は辞めるといい出し、説得してなんとか営業を続けたのです。


著者は、スタッフの話を聞きながらも、「障がい者が社会に出て自立して生きていくための挑戦なんだ」「手づくりにこだわるレストランだから価値がある」と説得し続けました。


混乱が収まってきたのは、「手づくりっていいよね」というお客さまの声や、「給料をもらってありがたい」という障がい者スタッフの声が聞かれるようになった約1か月後からだという。抵抗勢力だった健常者スタッフも「社長の言っていることは、もしかして正しいのかもしれない」という雰囲気になったのです。


社外の評判や自分の目指しているところを意識的にスタッフに聞かせる・・・こういったことが間違いなくスタッフのやりがいにつながっていくのです(p48)

現代版「仙台四郎」

「いや~、本当にいい店だね」というお客様の声を聞くうちに、いつの間にかスタッフが、来店数や利益を意識するようになったという。


スタッフはお店を繁盛させるために、安くてフレッシュな野菜を仕入れようと、自ら朝早く農家に買い出しに行くようになり、逆に農家から規格外野菜を持ち込んでくれるようになったのです。


開業後に、著者が無理をしてもボーナスを出そうとしたとき、スタッフは「いまはいいです。店が大変なときですから。いまは会社に力をつけましょう」と、ボーナスを返してきたという。


「ここはこうすべきだ」という提案も出てきますので、まずはスタッフの意見を採用して、問題があれば調整するようにして、スタッフ主導の職場としているという。


仮にこの仕事が合わないのではないか、苦手なようだ、と判断した場合、辞めてもらうのではなく「こんな仕事をしてみたらどうだろう?」と、配置転換をすすめているそうです。


1人ひとりの個性に合わせた職場、環境をつくることで、その人のいきがいを与えることができると著者は考えているのです。


著者はかつて、父の敵をとることだけを目標に、おカネを稼ぐことだけ考えていましたが、儲かりませんでした。「人の幸せこそすべて」を目標にしたら、周りから応援され、スタッフが自ら動き出し、儲かるようになったというわけです。


仙台には「仙台四郎」という伝説があります。江戸から明治時代に、障がい者の四郎を大切にした店が繁盛したという実話です。現在も「仙台四郎」の写真を貼っている店がありますが、「六丁目農園」は現代の「仙台四郎」の物語なのです。


渡部 さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・できないから辞めさせると、自分もいつかは首を切られるのではという不安感が増し、安心して働けなくなる(p93)


・人を雇用するということは、その人の人生にかかわること・・雇用する側には、それだけの責任がある(p67)


・私は、こうした規格外の野菜を「朝どり野菜」といった名前をつけブランディングしたり、それを瓶やきれいな袋に入れて加工し、飲食店に卸したり、販売することにした(p146)


・私が目指す産業の六次化は、あくまで地元の生産者を守るためのもの・・生産者を出発点として、二次、三次につなげていくことが、お互いの利益につながり、地域の活性化、ひいては貢献にもつながっていく(p166)


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渡部 哲也 (著)、大和出版


【私の評価】★★★★☆(86点)


目次


第1章 大切なのは結果よりやりがい―社員が幸せなら業績は後からついてくる
第2章 期待値は上げずに可能性を探る―適職を見つけるために経営者がすべきこと
第3章 あえて負荷を与えてみる―それぞれのステージを上げるために
第4章 やみくもな拡大路線に走らない―オンリーワンを目指した会社づくり
第5章 オーダーメイド経営でみんなが幸せになる―お互いが必要とされる関係になるために


著者経歴


渡部哲也(わたなべ てつや)・・・1968年(昭和43年)仙台市生まれ。現在は、飲食店を中心に障害者の戦力化を計り、経済的自立を支援する障害福祉サービス事業を行う「株式会社アップルファーム」代表のほか、「東北復興プロジェクト」の代表理事も務める。自身が経営する「六丁目農園」は6次産業化のビジネスモデルとして注目され、毎日超満員の繁盛レストランとして地元仙台に多くのファンを持つ


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