【書評】「20社のV字回復でわかる「危機の乗り越え方」図鑑」杉浦 泰
2025/11/07公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
まずは赤字体質の脱却
タイトルどおり過去の経営危機に陥った20社の復活の道のりを説明した一冊です。
共通しているのは、まず赤字体質の解消です。赤字が続くと運営資金が枯渇して、倒産する可能性があるからです。対策としては、借金の借り換え、不良店舗の閉鎖、人員削減などです。IBMは間接部門を中心に人員を削減し、赤字を脱却しています。USJでは資本注入と借金借り換えで借入金の負担を半分以下に減らしています。
無印良品では不良店舗の閉鎖し、アイリスオーヤマは大阪本社を廃止し、宮城県の工場に拠点を集約しています。
止血が完了した後、ガースナー氏はIBMのビジネスを「ハードからサービス」に転換させることを決断します・・サービスの比率はわずか6%(p23)
危機でも社内の抵抗が強い
興味深いのは、会社存亡の危機なのに社内の抵抗があるという事実です。写真現像機を作っていたノーリツ鋼機では、写真現像機事業の縮小に猛烈な抵抗があったという。
無印良品ではPOS導入を怠り、売上高・在庫・商品開発コストさえ把握しておらず、それでも現場は従来どおりの仕事に固執したのです。
アドビではフォトショップやイラストレーターなど、月額課金のサブスクに移行し、業績を伸ばしましたが、サブスク化に社内から反対意見があったという。
逆に考えれば、そんな社員ばかりだから危機に陥ったというのが本質なのかもしれません。
社員の抵抗に対し、良品計画の出した答えは「MUJIGRAM」というマニュアルを作成し、あらゆる業務を明文化することでした・・レジ対応から在庫管理まで・・経験主義的な風潮を一掃(p59)
企業は人材しだい
業績V字回復の処方箋は、それぞれの企業で違います。一つ共通点があるとすれば、新しい施策を実行できる人材がいるということです。
IBMは元マッキンゼーのルイス・ガースナーを招聘しています。USJに出資したゴールドマン・サックスは、P&Gでマーケティングを担当していた森岡毅氏を招聘しています。
1980年代に業績が悪化したオムロンでは、創業者の立石氏が全社をに細分化し、独立した事業部制に変えています。権限と責任を持って会社を良い方向に変えるのだ、という意思と能力を持った人材が必要なのでしょう。
(ユニクロの)柳井氏は「特定品目を大量に発注する(1アイテム数万~数十万点単位)」ことで、(中国の)現地の一流工場との契約にこぎつけました・・POSを駆使して売れ筋商品を把握するとともに、、過剰な在庫を発生させないように値下げを行って売り切る体制を構築したのです(p185)
経営事例に学ぶ
知らない情報もあり、面白く読みました。
例えば、2009年カルビーの17工場の稼働率は60%くらいだったので、じゃがいもを大量調達して稼働率を上げ、ポテトチップスを値下げしてシェアを拡大したこと。
サイバーエージェントの離職率が2003年に約30%で、「終身雇用制度の導入」と新卒採用者初任給を34万円にして、2010年には約10%に下がったこと。(それでも離職率は高い)
「血球計数装置」を製造しているシスメックスは1991年にイギリスの販売代理店を買収し、1993年にアメリカの代理店を買収し、装置を売るだけでなく、試薬や消耗品やサービスで儲ける仕組みを作ったこと。
ハーバードの経営事例(ケーススタディ)も似ていると思いますが、実際、授業で検討するならもっと詳細なデータがないと 本物感がないかもしれません。同じような本を探してみたいと思います。杉浦さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・日本マクドナルド・・チキンナゲットの原料である鶏肉について、取引先である中国の食品業者が期限を偽っていた・・15億人にまで達した年間来店者数は、偽装問題発覚直後には12億人・・2014年12月期と2015年12月期にはそれぞれ赤字を計上(p126)
・アイリスオーヤマが危機を突破するために選んだ道は「問屋との決別」でした・・「生産者→小売→最終消費者」という商流の構築にチャレンジしたのです(p294)
・東宝は1957年に清水雅氏が同社の社長に就任してから、不動産業への転身を本格化します・・1970年代以降は、製作に関わる部門を子会社として独立・・映画事業においては「配給」では収益が見込めたため、ここに特化して継続しています(p241)
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杉浦 泰 (著)、日経BP
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
1 「戦略ミス」「脆弱体制」「機能不全」による危機の乗り越え方
IBM―「ものづくりの会社」から「サービスの会社」に生まれ変わって危機突破
サイバーエージェント―急成長によって生じた「矛盾」と「人材流出」を乗り越えて危機突破
良品計画―成功体験に縛られた組織文化を一新して危機突破
カルビー―徹底した数値経営で危機突破
オムロン―業績好調の陰で忍び寄る下克上の波を耐え抜いて危機突破
2 「災害」「トラブル」「不可抗力」による危機の乗り越え方
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン―「ニーズ軽視の経営」と大災害を、財務と執念で危機突破
日本マクドナルド―地に落ちた信用に、「原点回帰」で危機突破
ウェザーニューズ―不可抗力の危機に当事者意識をもって挑んで危機突破
伊勢丹―「行動と価値観の変化」を正しく捉え、リスクをとって危機突破
森ビル―愚直なコミュニケーションを貫いて危機突破
3 「市場崩壊」「顧客消失」「時代錯誤」による危機の乗り越え方
ファーストリテイリング―危機があったから今がある!?田舎の後継ぎ息子が起こした危機突破
ゼネラル・エレクトリック―イノベーションを追求して危機突破、しかし...
ノーリツ鋼機―市場環境の激変に、事業を総入れ替えして危機突破
パルコ―「誰に何を売るのか?」を考え抜いて危機突破
東宝―前途多難な本業に、安定の副業を組み合わせて危機突破
4 「ライバル」「競合他社」「業界ルール」による危機の乗り越え方
Apple―周囲からの厳しい評価に因縁のライバルの助けを借りて危機突破
Adobe―Appleに2度も目をつけられるが、水面下で強みを伸ばして危機突破
シスメックス―価格圧力に苦しむも顧客価値を再定義して危機突破
アイリスオーヤマ―価格圧力と不況に直面し、「業界の常識」を書き換えて危機突破
P&G―15年越しの黒字化を実現して危機突破
著者経歴
杉浦泰(すぎうら ゆたか)・・・社史研究家。1990年生まれ、神戸大学大学院経営学研究科を修了後、みさき投資を経て、ウェブエンジニアとして勤務。そのかたわら、2011年から社史研究を開始。個人でウェブサイト「The社史」を運営している
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