【書評】「逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知」楠木 建、杉浦 泰
2025/10/24公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
逆・タイムマシン経営論とは
「逆・タイムマシン経営論」とは、過去の経営手法の結果を分析することです。結果を分析することで、経営者が誤りやすいトラップ(罠)が見える化されるのです。
1990年代に世界の自動車メーカーが、「生産台数年400万台でなければ生き残れない!」と合併・買収に動いた時期があります。その結果は、皆さんご存知のとおり、ダイムラークライスラーは分裂し、GMは経営破綻しての再生途上であり、フォードも赤字になるなど業績低迷に苦しんでいます。
結局、生産台数年400万台にこだわらず、独自路線を維持したトヨタやホンダがシェアを拡大することになったのです。
ダイムラークライスラーはすでになく、GMは破綻からの再生途上、フォードも低迷する業績に苦しんでいました(p6)
飛び道具トラップとは
同じように1990年代には、管理部門の業務効率化のためにERPを導入が流行しました。ところが、ERPを導入するものの業務にERPを合わせるためのカスタマイズで予算超過、業務効率化も限定的という事例が多発しました。
本来は、ERPで業務効率化つまり人員削減が目的ですので、「ERPに業務を合わせて」管理部門の人員を削減すべきなのです。こうした流行りのツール(道具)を導入して効果がないことを、「飛び道具トラップ」と表現しています。
つまり、成功事例からツール(道具)が過大評価され、手段の目的化つまり、目的が忘れられ、ツール(道具)を導入することだけが目的になってしまうのです。
オラクルが推奨したように「ERPに業務を合わせる」という選択肢をとるべきでしょう。その結果として、人員削減という結果になる(p42)
一歩引いて考えてみる
サブスクも流行っていますが、元はアドビが、2013年にサブスクに完全に移行し、業績拡大したことにはじまります。当時は、アドビは画像処理ソフトPhotoshopとIllustratorをセットで約30万円で売っていたものを月額980円から利用できるようにしたのです。
同じようにサブスクで月額料金化する動きが多いのですが、うまくいく事例とうまくいかない事例もあります。著者は一歩引いて考えれば、そもそもアドビには画像処理という強いソフトがあったわけで、商品に魅力がなければ、サブスクはうまくいかないのです。
一歩引いて考えれば、3Dプリンターは量産には向いていません(p138)
人口減は諸悪の根源ではない
著者は過去50年間、「日本的経営」は、常に「崩壊」してきたという。ところが、いまだに「日本的経営」は崩壊しきっていないのです。これは一歩引いて考えれば、「日本的経営」があるのではなく、国際競争力を持った企業もあれば、停滞している企業もあるわけで、「日本的経営」というレッテルがズレているというわけです。
同じように、過去には日本の人口増が「諸悪の根源」と言われていました。日本から海外に移住することを推奨していた時代があるのです。ところが今は、人口減が「諸悪の根源」と言われ、労働力不足の日本に外国人を受け入れることが議論されています。
では、人口減を一歩引いて考えれば、本質は人手不足こそ「働き方改革」のチャンスであり、生産性を向上させるチャンスであると著者は主張するのです。
確かに、寒くなると氷河期到来と騒ぎ、暖かくなると地球温暖化と騒ぐ人がいるのと同じだと思いました。一歩引いて考えれば、未来の子どもたちに笑われない選択ができるのかもしれません。
楠木さん, 杉浦さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・商社業界は・・手数料ビジネスで稼いだバブル崩壊前の時代(商社1.0)から、2000年代以降、資源を中心とした投資ビジネスへと比重をシフト、純益規模は一気に膨れ上った(商社2.0)。しかし、その後、資源価格の下落が続き、各社とも減損を計上・・・今後は資源から非資源の時代だ、と言っているだけ(p150)
・サイゼリアのキャッシュレスへの構え・・・2019年・・サイゼリヤは一歩引いたスタンスを維持していました・・(決済額)の3%を(手数料として)支払って、5%収入が増えればそれでいいですから。だからそのタイミングがいつ来るか(p95)
・1995年にソニーの社長に就任した出井伸之氏は「社会にインターネットという名の隕石が落ちた、それが平成だったように思う」(週刊東洋経済2018年5月12日)と振り返り(p117)
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楠木 建 (著), 杉浦 泰 (著)、日経BP
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
第1部 飛び道具トラップ
第2部 激動期トラップ
第3部 遠近歪曲トラップ
著者経歴
楠木建(くすのき けん)・・・1964(昭和39)年東京都に生まれ、幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院国際企業戦略研究家(ICS)教授。一橋大学商学部卒、1989年同大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年から現職。専門は競争戦略とイノベーション
杉浦泰(すぎうら ゆたか)・・・社史研究家。1990年生まれ、神戸大学大学院経営学研究科を修了後、みさき投資を経て、ウェブエンジニアとして勤務。そのかたわら、2011年から社史研究を開始。個人でウェブサイト「The社史」を運営している
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