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大野耐一氏に学んだこと「なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか」若松義人

2018/03/08公開 更新
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なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか (PHP新書)


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

仕事は部下との知恵比べ

トヨタ生産方式の父である大野耐一氏のもとで学んだ若松さんの一冊です。トヨタ生産方式といえば、改善活動、ジャストンタイム、かんばん方式などが思い浮かびます。しかし、この本を読んでわかるのは、トヨタでさえ、現場に新しい方法を導入するのは難しいということです。大野さんでさえ、信頼関係を構築してから、現場に提案していたというのです。


例えば、大野耐一氏は「部下を率いていくとき、仕事の面では厳しくやっていかにゃいかんが、基本的には、指示とか指導とかじゃなく、部下との知恵比べだ」と言っていたというのです。大野氏でさえ、部下に命令するだけでなく、「一緒に考える」ことが大切だと考えていたのです。いわんや普通の会社で、いきなりトヨタ方式と言われても、現場がついてくるとは限らないということなのでしょう。人間の心とは、簡単に変わらないのです。


・大野氏でさえ、おかしな点をすぐに指摘したりはしない。指摘するのは、まず現場を熟知し、信頼関係を築いたあとなのだ。権限を手にし、指示、命令して従わせるだけでは、いい仕事はできないのである(p23)


困らせて良い知恵を出させる

部下を困らせて良い知恵を出させるというのがトヨタ流です。ときには、あまりに高いハードルに「できません」「勘弁してください」と拒否する部下もいるでしょう。そうした部下に、カツを入れ、それに部下が耐えるだけの信頼関係を作っていなければ、トヨタ生産方式もここまでにはなっていなかったのでしょう。例えば、大野耐一氏にある課長が『できない』と言ったとき、大野さんは『お前には多くの部下がいる。人間は真剣になれば、どれくらい知恵が出るかわからん。なのにお前は部下たちの知恵をまったく無視して、できませんとはなにごとだ』と激怒したというのです。


また、新しいやり方を導入するときには、シフトの交代時間に工場を訪ねて、リラックスした雰囲気で現場の課長たちとあれこれ話をしたり、自分の考えを伝え、課長たちの意見も十分に聞くという。これを繰り返しながら、新しいやり方の導入方法を改善し、根回ししておくのです。自然と理解と納得が得られ、人間関係も築くことができるやり方を考えているのです。


・「現場を見ておったら、なにかやってやれ」は、大野氏の言葉だ。そうすると、「あの人は、いいことを考えてくれる」となり・・現場のほうから声がかかるようになる(p156)


現場が受け入れやすい方法

初めはどこの現場も同じなのだと思いました。新しい方法に反発する人がいるのは当然のことでしょう。そうすれば、自分を信頼してもらえるのか。どうすれば、現場が受け入れやすい方法になるのか。そうしたことも改善して、取り組んでいかなくてはならないのです。


だから、問題点を指摘して「改善しろ」「なんとかしろ」と指示して、現場が動かなければ、「言ってダメなら、自分で直せ」ばいいのです。そして、仮に改悪になったら、もう一度直すのです。そうすると改善になることもよくあるという。そこでやっと信頼してもらえるのです。


信頼関係構築の知恵こそが、トヨタ式のポイントなのかもしれません。若松さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・トヨタ流の基本は「人の知恵を信じる」こと、「人の知恵を活かす」こと(p5)


・トヨタ流に「カタログエンジニアになるな」という言い方がある。・・機械に職場のさまざまな知恵をつけ、カタログ以上の使い方をし、カタログ以上のモノをつくって、初めて仕事をしたことになる(p121)


・トヨタ生産方式を実践している企業でも、よく「業者に頼むと価格もスペースも10倍になる」という。(p129)


・生産現場に「自律神経」を通わせるのが、「かんばん」だ・・上がいちいち指示を出さなくとも現場の自主判断機能が働くようにする。こうした微調整機能がしっかりしていれば、変化への対応も簡単にできる(p49)


・安定を停滞ととらえる(p98)


・非常時のみバックアップ拠点を動かすところもあるが・・それでは不安」なのだ。日頃から稼働させているからこそ、緊急時に顧客に迷惑をかけずにすむ(p104)


・大野耐一氏がある企業の工場を見にいったときの話だ。倉庫にたくさんの在庫があり、生産ラインの脇にも多くの仕掛品が置いてあった。大野氏は、工場長にこう質問した。「あれはみんなが一生懸命働いておったらできちゃったのか、それともあんたが作らせたのか。どっちなんですか」(p142)


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【私の評価】★★★★☆(83点)


目次

第1章 平伏させず心服させる―人づくりは信頼改善である
第2章 人と環境を同時に育てる―人づくりはシステム改善である
第3章 小さなミスに大きく学ばせる―人づくりは問題改善である
第4章 ケタの違う発想を引き出す―人づくりは発想改善である
第5章 呼びつける前に現場に出向く―人づくりは現場改善である
第6章 自分の部下を会社の財産に育てる―人づくりは自分改善である



著者経歴

若松義人(わかまつ よしひと)・・・1937年宮城県生まれ。トヨタ自動車工業に入社後、生産、原価、購買の各部門で、大野耐一氏のもと「トヨタ生産方式」の実践、改善、普及に努める。1984年以降は農業機械メーカーや住宅メーカーなどでもトヨタ方式の導入と実践にあたった。1991年韓国大宇自動車顧問。1992年カルマン株式会社設立。現在同社代表取締役社長。西安交通大学客員教授


大野耐一関連書籍

「トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして」大野耐一
「なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか」若松義人
「トヨタ現場の「オヤジ」たち」野地 秩嘉


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