「プロジェクトゼロ戦」日下 公人, 三野 正洋
2022/04/16公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(75点)
要約と感想レビュー
軍事研究者ともいえるお二人がゼロ戦をネタに雑談した一冊です。太平洋戦争で日本はアメリカに惨敗してしまいましたが、ゼロ戦だけは日本の技術の結晶として突き抜けた特別な存在として輝いています。実際、太平洋戦争の初期にはゼロ戦は、敵の戦闘機をバタバタと撃墜できたのです。
ただ、アメリカもゼロ戦の強さを知り、ドッグファイトを避けるようになり、昭和18年には1000馬力のゼロ戦に対し、2000馬力のF6Fヘルキャットが導入されるとゼロ戦が活躍できなくなっていきました。ゼロ戦がドッグファイトが強いとわかると、アメリカは高空から降下して攻撃し、そのまま高速で逃げるという一撃離脱法を取るようになったのです。ゼロ戦はそれに対し戦法を変えるでもなく、馬力の大きいエンジンに変えるわけでもなく戦果は減っていったのです。
著者は、日本の何も変えられない状況について、陸海軍がこういう戦闘機を作ろうとか、これはやめてこっちを重点にやろうという大方針を示すことができなかったことが諸悪の根源としています。担当者の意見をなんでもかんでも詰め込んで、一本化できていないのです。
・海軍に改良のためのコンセプトがない・・・零戦をこのように改善せよとか、次の飛行機はこういうものにするとか・・・堀越さんはこの仕事だけに従事しなさい」とか、そういう命令を海軍はまったく出していない(日下)(p160)
ここからはグチのようになるのですが、日本の陸海軍の悪いところを列挙してみましょう。
アメリカの戦闘機の機関銃はすべて12.7ミリ。ゼロ戦の機関銃は7.7、12.7、20ミリの三種類で整備と照準に熟練が必要になった。複数の担当者がそれぞればらばらに自分の都合を主張した結果、あれもこれも積み込まされてしまった結果だという。
アメリカのパイロットは6週間戦闘の後、1週間の休暇で、休暇明けに2週間の習熟訓練を受け、再び6週間戦闘。日本のパイロットは休みなし。現場から「飛行機にパイロットを二人つけてくれれば、交代で戦闘できる」と提案があったのに、それさえ採用されなかった。
欧米では戦果をあげるパイロットを昇進させていた。日本では士官学校を卒業していなければ、出世しないので、未熟な士官学校出の指揮官が、経験豊かなパイロットを率いて出撃するという愚行が繰り返し行われていた。
こうして見ていくと現代の硬直化した日本の組織の問題とあまり変わらないな、と思ってしまうところが恐ろしいところです。人のメンツを潰さないようにしながら、責任問題とならないよう前例周到でミスをしない人が出世するという昔のJALのような構造なのです。
・上が馬鹿ではどうしようもない・・・あれもこれもと詰め込む武装方式はおかしいものだ・・・海軍の担当者がばらばらでそれぞれが自分の都合ばかり言っている・・・重点を絞る命令を出すと、命令者には責任がかかるから逃げる(日下)(p136)
日本は素晴らしい国だと思いますが、戦前の陸海軍の戦歴を見ていくと、過度の年功序列、学歴重視はいかがなものかと感じました。人が方針を決めるのであって、人事がいいかげんだと、方針もいいかげんになってしまうのです。
このように、過去の歴史を振り返り、今の日本を考えるのは面白いと感じました。一時が万事であり、その国力や国民性が軍事力にも影響するという点が面白いのです。日下さん、三野さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・アメリカやイギリス、ドイツ、ソ連を凌駕していたと断言できる兵器は・・ゼロ戦、偵察機の彩雲、97式、100式司令部偵察機だけ(三野)(p31)
・ゼロ戦・・・機銃はスイスのエリコン社のライセンス生産だし、照準器はアメリカのライセンス・・プロペラも、アメリカの指導を受け特許を買って造っている(日下)(p56)
・工作機械をドイツかスイスからただちに購入すべきだったと思うが、そういう発想はなかった(川西航空機にはその発想があったが)(日下)(p86)
・当時の空港や基地は草ぼうぼうだったが、あれを全部コンクリートにすればよかった・・・おかげで着陸時に転覆事故でたくさんの人が死んでいる(日下)(p218)
・どうしてアメリカの電波技術がそんなに進歩・・・ラジオ放送があったからである・・・プロ野球の存在が大きい・・大正時代に早大や慶大の総長のところに押しかけて、「学生が野球をするとは何事か。禁止せよ」と書いた新聞の罪は大きいと考えている(日下)(p100)
・日本の特攻隊は3000人が死んだが、日本に爆撃に来たB29の搭乗員も3000人が犠牲になっている(日下)(p199)
【私の評価】★★★☆☆(75点)
目次
第1章 ゼロ・ファイターの登場
第2章 勝機をつかむコンセプト革命
第3章 ハードを活かす運用術
第4章 グランドデザインの選択
第5章 ものづくりの中の人間性
第6章 プロジェクトとシステム発想
第7章 個性という戦力
第8章 改良と柔軟性
第9章 戦略としての環境整備
第10章 勝つためのインフラ
著者経歴
日下公人(くさか きみひと)・・・東京財団会長。1930年兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行入行。業務開発第一部長、取締役を経て、社団法人ソフト化経済センター理事長
三野正洋(みの まさひろ)・・・軍事・現代史研究者。特に戦史、戦略戦術論、兵器の比較研究に独自の領域を切り拓いて知られる。1942年千葉県生まれ。日本大学生産工学部教養・基礎科学教室専任講師(物理)
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