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「新設コンクリート革命」熱血ドボ研2030

2022/04/15公開 更新
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「新設コンクリート革命」熱血ドボ研2030


【私の評価】★★★☆☆(77点)


要約と感想レビュー

 コンクリートは丈夫というイメージの人が多いかもしれませんが、最近、10年もせずに亀甲状ヒビが発生するアルカリシリカ反応(ASR)が多発しているという。原因は凍結防止剤として「塩」を大量に散布するようになったためです。「塩」がASRを加速し、寒い地方では橋や柱が30年ももたずに建て替えなくてはならない事態となり、大きな問題となっているのす。


 日本ではアルカリシリカ反応(ASR)を防止するために反応性の少ない良質な骨材を使うことにしています。ところが従来は問題ないとされていた骨材でも、「塩」が大量に散布されるようになったことでアルカリシリカ反応(ASR)が発生する場合があるというのですから、業界としても困っているわけです。


 海外ではASRを抑えるため、火力発電所からの石炭灰(フライアッシュ)や高炉スラグ微粉末といってた混和材が当たり前のように使われているのですが、日本では特にフライアッシュが流通していないので、日本のコンクリートはASRへの耐性が低いということなのでしょう。


・ASRを抑えるための具体的な方法は、フライアッシュや高炉スラグ微粉末といった混和材の積極的な活用が挙げられる(p29)


 興味深かったのは、山口県で開発されたコンクリートの施工状況把握チェックシートです。書いてある内容は、型枠面は湿らせる、バイブレーターの10cm挿入、落下高さは1.5m以下など教科書的なものです。これまではコンクリートにひび割れなどが生じると、建設会社と生コン会社はお互い相手の責任だと主張しあって、結局、水掛け論で終わることが多かったらしい。


 それがチェックシートで具体的にやるべきことを明確化したことで、建設会社の現場と生コン会社で議論が起きて、意思疎通が深くなり、実際にコンクリートの品質も向上したというのです。逆に言うと、多くの現場ではなあなあで生コンを受け入れ、これくらいは大丈夫かといた判断でコンクリートの打設が行われているということなのかもしれません。当たり前のことを当たり前にするというのは、実は大変なことなのです。


 ましてや、コンクリートのASRによるひび割れは10年後に発生したりしますので、凍害と間違われたりして、うやむやになってしまうのは当然でしょう。この本ではそうした目立たないASRの被害について、明確に指摘しているのは画期的なのかもしれません。


・2001年に国交省が出した通達・・・これまで半ば定性的であった出来栄えの評価が、「重要な構造物ではひび割れ幅0.2mm以上のひび割れについては記録をとること」といった通達によって、「0.2mm以上のひび割れはアウト」と、さも定量的に査定しているがごとく審判されるようになった(p134)


 私はアメリカに長期滞在したことがあるので知っているのですが、アメリカではコスト削減と品質向上のためにフライアッシュや高炉スラグが当たり前のようにセメントに混合されています。フライアッシュをコンクリートに混合することでASRを予防できることは業界の常識だし、セメントと置き換えることでコスト削減にもなるのです。


 ところが、なぜか日本ではフライアッシュだけが流通していないのです。日本ではフライアッシュが流通していないだけでなく、フライアッシュセメントがアメリカと反対に高価格となっていることも不思議なことです。フライアッシュをセメントに混合しないことで、日本のコンクリートはASRでの寿命が短くなり、コスト削減もできていない日本のセメント業界はどうなっているのでしょうか。この本にその答えはありませんでしたので、もう少し調べたいと思います。


 熱血ドボ研2030さん、良い本をありがとうございました。



この本で私が共感した名言

・道路橋には、凍害や凍結防止剤による塩害、凍結防止剤によるアルカリが追加供給されて、化学法で「無害」であった骨材が異常膨張するアルカリシリカ反応(ASR)や床版の砂利化という新たな劣化が発生しているのである(p183)


・日本初のフライアッシュRC床版(2015年3月)(p103)


・フライアッシュに含まれる未然カーボンは、減水剤を吸着する性質を持っている・・・未然カーボンの量は、発電所によっても異なるし、石炭の産地によっても異なる・・ゆえに、フライアッシュの製造場所・種類ごとに配合を大幅に調整しなくてはいけなかった・・・フライアッシュコンクリートの使用に反対した(p128)


・「こんな高温のセメントを使ったら、構造物にひびが入ってしまう」・・・温度の低いセメントを持ってくるように再度配送させた・・・生コンを荷下ろしする際には、スランプや空気量が確認される。最近では、単位水量を確認する場合もあるが、これらが、許容範囲を超えると生コンは返品となる。しかし、温度が高いからといって返品されることは普通ない(p149)


▼引用は、この本からです
「新設コンクリート革命」熱血ドボ研2030
熱血ドボ研2030、日経BP


【私の評価】★★★☆☆(77点)


目次

1部 今こそ新設にこだわりを!
 1.転換期となった東日本大震災
 2.先人に学ぶ品質・耐久性確保の視点
 3.「品質と性能」確保への挑戦
2部 東北・山口から上がる革命ののろし
 1.東北被災地から生まれた新潮流
 2.全ての始まり「山口県の品質確保システム」
3部 トップエンジニアが語るコンクリートの「最先端」
 1.劣化する構造物を造っていませんか?
 2.設計・施工から検証する「技術の進歩」
 3.生産性向上を目指した戦略的な"賢い"インフラマネジメント
 4.最新技術を現場へ翻訳
4部 2030年に向けて、革命の先は?
 1.解決すべきはコンクリートの問題だけではない!
 2.コンクリートの品質・耐久性確保の取り組みを総括


著者経歴

 熱血ドボ研2030・・・ 日本大学 岩城一郎教授、東京大学教授 石田 哲也、横浜国立大学教授 細田 暁他。名前の由来は、土木(ドボク)について熱く語り、研究し、実践するグループ。


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