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「AI監獄ウイグル」ジェフリー・ケイン

2022/12/28公開 更新
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「AI監獄ウイグル」ジェフリー・ケイン


【私の評価】★★★★☆(86点)


要約と感想レビュー

スカイネット個人認識・評価システム

第二次大戦中、ドイツのナチス政権は、占領地のユダヤ人に黄色いダビデの星のマークを着用することを義務づけていました。ユダヤ人は最終的には強制収容所で虐殺されることになりました。この本ではアメリカ人ジャーナリストである著者が、168人のウイグル人に取材した結果、今、ウイグルではスカイネット(天網)と言われる個人認識・評価システムでウイグル人の信用度が評価されていることがわかります。ウイグル人は中国共産党から、デジタル上でマークを付けられ、仮に「信用できない」と評価さると強制収容されるのです。


2013年頃からウイグル族は、失業中か、海外に住む家族がいるかといった情報をもとに、信用度が評価され、「信用できない」と判定された場合、ガソリンを購入できなくなる程度でした。ところが最近では、監視カメラの映像、裁判記録、内通者の密告データが加わり、その大量のデータがAIによって処理され、「予測的取締りプログラム」に基づき「信用できない」と判定されると、強制収容所に送られるようになったというのです。大学院生の証言では、2016年に警察署に呼び出され、DNA採取、採血されただけでなく、彼女の声でスカイネット(天網)は彼女を認識し、「社会ランキング:信用できない」という表示が出て、勾留センターで暴行を受けたという。


・認識ソフトウエアによって声が識別された。スカイネットは彼女を見つけた(p53)


ウイグル人の家庭に漢人が同居

新疆ウイグル自治区では、2016年から学校、警察署、スポーツセンターが勾留施設へと改修され、全住民の最大10%が身柄を拘束されているという。さらにウイグルでは近所の10件の家を監視するよう任命された地域自警団の役員が、「不規則なこと」がないかチェックすることまでしているのです。


2017年には、100万人の共産党幹部をウイグル人の家庭に配置する「家族になる運動」(結対認親)がスタートし、ウイグル人の家庭に漢人が寝食をともにしながら住民を監視しはじめたという。もちろん、拒否すれば、その家族は強制収容所送りになるのです。中国共産党はウイグル人テロリストを、徹底的に監視・選別し、少しでも疑いがあれば身柄を押さえる方針であることがわかります。


・2017年以降、推定180万人・・・が、「思想ウイルス」や「テロリスト思考」をもっていると中国政府から糾弾され、地域全体にある何百もの強制収容所に連行された(p19)


疑いがあれば強制収容所で拘束

中国共産党は、脅威のホットリストのなかで民主化運動家、台湾支持者、チベット族、気功集団・法輪功、イスラム教徒のウイグル人テロリストを"5つの毒"として列挙しいます。そのウイグル人を中国共産党は、犯罪者と同じように指紋、DNA、音声を採取し、少しでも疑いがあれば、強制収容所で拘束しているのです。ここからは推測になりますが、現在、中国では臓器移植がオンタイムでできることを考えれば、ウイグル人や法輪功などの"5つの毒"は臓器移植のドナーとして、いつでも誰でも臓器を提供させられている可能性もあるのです。


最近では海外のウイグル族を脅して中国に呼び戻し、強制収容所に連行しているという話もあります。中国共産党という組織は、文化大革命で自国民を数千万人殺したり、天安門事件で大学生を虐殺したり、インドとの国境で棍棒で殺し合い、ゼロコロナ政策で外出を認めないなど日本の常識が通用しない国であることを頭に置かないとなりません。今、目の前で静かにホロコーストに近いことが組織的に行われているという現実を、私たちは認識しなくてはならないのでしょう。ケインさん、良い本をありがとうございました。



この本で私が共感した名言

・職場に向かう道中、あなたは10カ所以上の「コンビニ交番(便民警務站)」と呼ばれる検問所を通過することになる(p21)


・ウイグル族の出生率は急激に下っている・・・避妊、中絶や不妊手術、子宮内避妊具(IUD)挿入のための医療処置を強制してきた(p324)


・エジプトと中国の治安当局が情報交換に合意してから・・・エジプトにいた7000~8000人のウイグルジンのうち9割が中国に戻った(p45)


・2016年・・・スパイは世界各地へと出向き、ウイグル族の共同体に入り込み、現地当局にウイグル人を中国に送り返すよう説得した(帰国したウイグルジンは投獄された)(p133)


・2019年8月、トルコ当局はウイグルジンの一家族を国外に追放し、彼らが市民権をもつタジキスタンに移送したのだ。タジキスタンの空港に到着するなり、一家の身柄は中国当局に引き渡された(p307)


▼引用は、この本からです
「AI監獄ウイグル」ジェフリー・ケイン
ジェフリー・ケイン、新潮社


【私の評価】★★★★☆(86点)


目次

プロローグ その暗黒郷を〝状況〟と呼ぶ
第1章 中国の新たな征服地
第2章 国全体を監視装置に
第3章 ウイグル出身の賢い少女
第4章 中国テック企業の台頭
第5章 ディープ・ニューラル・ネットワーク
第6章「中国を倒せ! 」「共産党を倒せ! 」
第7章 習近平主席の〝非対称〟の戦略
第8章 対テロ戦争のための諜報員
第9章「政府はわたしたちを信用していない」
第10章 AIと監視装置の融合
第11章 このうえなく親切なガーさん
第12章 すべてを見通す眼
第13章 収監、強制収容所へ
第14章 強制収容者たちの日常
第15章 ビッグ・ブレイン
第16章 ここで死ぬかもしれない
第17章 心の牢獄
第18章 新しい冷戦
第19章 大いなる断絶
第20章 安全な場所など存在しない
エピローグ パノプティコンを止めろ



著者経歴

ジェフリー・ケイン (Geoffrey Cain)・・・アメリカ人の調査報道ジャーナリスト/テックライター。アジアと中東地域を取材し、エコノミスト誌、タイム誌、ウォール・ストリート・ジャーナル紙など多数の雑誌・新聞に寄稿。2020年発表のデビュー作『サムスンの台頭』[未訳]はフィナンシャル・タイムズ紙とマッキンゼー社が主催するビジネス本大賞候補に選ばれた。現在はトルコ・イスタンブールに在住。本書執筆のために168人のウイグル人の難民、技術労働者、政府関係者、研究者、学者、活動家、亡命準備中の元中国人スパイなどにインタビュー取材を行った。Twitter:@geoffrey_cain


ウイグル問題関係書籍

「AI監獄ウイグル」ジェフリー・ケイン
中国の移植犯罪 国家による臓器狩り」 デービッド・マタス、トルステン・トレイ
ウイグル人に何が起きているのか 民族迫害の起源と現在」福島 香織
在日ウイグル人が明かす ウイグル・ジェノサイド― 東トルキスタンの真実」ムカイダイス
命がけの証言」清水 ともみ
ウイグル大虐殺からの生還 再教育収容所地獄の2年間」グルバハール・ハイティワジ
重要証人: ウイグルの強制収容所を逃れて」アレクサンドラ・カヴェーリウス


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