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「ウイグル大虐殺からの生還 再教育収容所地獄の2年間」グルバハール・ハイティワジ

2021/12/13公開 更新
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「ウイグル大虐殺からの生還 再教育収容所地獄の2年間」グルバハール・ハイティワジ


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

 中国の政治局常務委員であった張高麗との不倫関係を告白した女子テニス選手彭帥(ペン・シューアイ)と、連絡が取れなくなったという事件を聞いて手にした一冊です。中国では都合の悪い人は、すぐに逮捕されて行方不明になってしまいます。ウイグルでは百万人規模の収容所が建設され、中国の説明では再教育や職業訓練が行われているというのですが、実際にはどうだったのでしょうか。


 著者は、夫がフランスに亡命したことから、娘たちと2006年フランスに移住しました。それから10年後、娘はフランスで結婚。その3ヶ月後、なぜか元の職場から退職の手続きのために帰国してほしいという連絡が来たのです。手続きだけならと懐かしい故郷に帰国したら、すぐに著者は警察に連行されてしまいます。取り調べでは、娘がフランスで中国のウイグル弾圧を抗議するデモに参加している写真を見せられ、「娘はテロリストだな」と取り調べを受けます。その後、著者は7年の再教育の判決を受けてしまうのです。


・おまえたちは犯罪者だ。犯した罪を自白さえすれば、党に許してもらえる。そうしたら解放してやる」と日がな一日、聞かされる(p119)


 2年以上の職業教育訓練センターという名の収容所で、終わりのない尋問と暴力、薬の入った食事により衰弱していく著者はついに敗北します。著者は中国当局の言われるがままに、娘をテロリストと証言し、娘の反中国運動をやめるように「フランスウイグル協会はテロリストです。新疆ウイグル自治区は中国のおかげで発展しています。中国を批判するのはやめて。ウイグルについてSNSの投稿はすべて削除して。」と説得する側になってしまったのです。


 著者は拘束されたまま胸を張って死んでいくのと、自分の嘘にまみれ、家族のがっかりした視線にさらされて恥を感じながら生きていくのと、どちらがよいのだろうと著者は悩み、最後は敗北しました。中国当局に従うことで自由と暴力を受けないという安心の一方で、友人からスパイや裏切り者と見られることに悩むことになったのです。「中国政府を批判したりするのはやめて。私と再開したいなら、全部削除するのよ」と自分の家族を脅すことに、どうしたら正気を失わずにいられるのだろう?と著者は悩むのです。


 中国共産党は、このように家族を拘束し、暴力と薬によって海外のウイグル人を脅しています。特に従順な学生が、中国のためにスパイ行為をしてしまうという。もしその学生が拒否したとしても、中国の情報機関は学生の家族が監視下にあるという事実を突きつけ脅し続けるのです。私たちがよく目にする中国当局と同じ主張をする中国人は、そうせざるをえない理由があるということなのです。


・「泣くんじゃないぞ!もし泣いたら、もう面会は許されないからな!・・・母と妹が来る直前にそう警告した監視員の荒い声を思い出した(p100)


 この本を読んでわかることは、外国にいる中国人は諜報機関の指示どおり、動かざるをえないということです。工作活動に協力すればお金をもらえるし、拒否すれば中国にいる家族の身の安全は保障されないとすれば、拒否できる人はいないでしょう。東京オリンピック中止を叫んでいたマスコミにしても、中国の報復が怖いので中国の冬季オリンピックボイコットを主張することはないのです。中国を批判しないかぎり、利益は保障されるのです。


 強制収容所にいるウイグル人は、「職業教育訓練センターでの生活はとても幸せです。ここでは仕事を学び、じゅうぶんな食事をとらせてもらっているからです。」と言わされるという。それはすべて「でたらめ」ばかりなのです。ウイグル人はテロリストなので、職業教育訓練センターという強制収容所では自己批判しなければならないのです。


 女子テニス選手彭帥(ペン・シューアイ)は著者と同じ状況にあり、自分と親族の安全も考えれば中国当局の考えるとおりの演技をすることになるのでしょう。極端に言えば、中国人全員が中国共産党に自分と家族の命を人質に取られているようなものですので、仕方がないのでしょう。恐ろしいことです。ハイティワジさん、良い本をありがとうございました。



この本で私が共感した名言

・謎の薬によってしだいに記憶が失われ、懸念が生じるほどの無気力状態におちいってしまう。女性たちは月経を失うと同時に時間の感覚も失ってしまう(p158)


・夜に聞こえてくる女性たちの叫び声やいきなり飛んでくる平手打ち(p102)


・大規模な公衆衛生プログラムを実行するという名目で、新疆ウイグル自治区当局は何百万人もの住民からDNA、指紋、虹彩、血液の情報の収集を始めていた(p121)


・集団結婚式・・こうした結婚は収容所に代わるものなのだろうか・・・親族の「罪」をあがなうための交換条件にされているのだろうか(p123)


▼引用は、この本からです
「ウイグル大虐殺からの生還 再教育収容所地獄の2年間」
グルバハール・ハイティワジ , ロゼン・モルガ 、河出書房新社


【私の評価】★★★★☆(83点)



著者経歴

 グルバハール・ハイティワジ( Gulbahar Haitiwaji)・・・1966年、中国の新疆ウイグル自治区グルジャ生まれ。ウルムチ石油大学在学中に知り合った男性と結婚。単身でフランスに政治亡命した夫のあとを追う形で、娘ふたりとともにパリ西郊に移り住むが、2016年に帰国を促す電話により、ウイグルに帰る。その後すぐに留置場、そして再教育収容所に送られる。強要された自白と陳述により2019年に完全に解放された。その間、グルバハールの長女が母親を解放するためにフランス外務省やメディアに働きかけを始めたことから、フランス人ジャーナリストで『ル・フィガロ』紙の特派員として上海に滞在もしていた著者ロゼン・モルガがこの家族を知り、グルバハールの解放が実現すると、長女を通訳として話を聞くことになり、本書が完成した。


 ロゼン・モルガ・・・フランスのジャーナリスト。『フィガロ』誌の上海特派員として、中国に1年半滞在した。本書の序文とエピローグを執筆。


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