「ウイグル人に何が起きているのか 民族迫害の起源と現在」福島 香織
2021/05/27公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(88点)
要約と感想レビュー
新疆ウイグル自治区は収容所
日本のマスコミは高橋洋一氏の「さざ波」発言や東京オリンピックを中止しろ報道ばかりで、ウイグルについては全く報道しないところが日本らしいと思いながら手にした一冊です。新疆ウイグル自治区ではホテル、スーパー、地下道、ショッピングモールも、バザールも必ず出入口でX線による安全検査と金属探知ゲートによるチェックが求められ、その近くには、防爆用の盾をもった警官が控えているという。監視カメラもあちこちに設置されており、タクシーのなかにも公安のマークのついた監視カメラが設定されているというのです。
2021年3月にEUと英国、米国、カナダは、ウイグル族の人権侵害しているとして、ウイグル自治区公安トップの陳明国らと組織に対し、渡航禁止、資産凍結の制裁を課しています。今月には、ペロシ米国下院議長がウイグル問題を取り上げた議会両院公聴会で、来年2月の北京冬季オリンピックの外交ボイコットを呼びかけたというニュースもありました。日本ではあまり報道されませんが、今、新疆ウイグル自治区はどうなっているのでしょうか。
驚くべきことは、新疆ウイグル自治区は文化大革命時代のように文化と習慣を制限され、常時監視された収容所のようになっているということです。その徹底した管理と抑圧は、チベット弾圧で成果を出した陳全国が2016年新疆ウイグル自治区の書紀に就任して加速したという。著者が現地で確認した新疆ウイグル自治区の状況は次のとおりです。
スマホには監視アプリ導入が義務。アプリが導入されていないと収容所行き。
12歳から65歳までの新疆住民は血液、DNA、虹彩、指紋情報を健康診断の名目で強制採取。
毎年100人単位で資産家が拘束され、すべての資産を中国共産党に没収される。
通勤は同じところを通らないと、テロを計画しているのではないかと、職務質問される。
留学生はウイグル自治区にいる家族を人質にして帰国させ、収容所で再教育する。
新疆ウイグル自治区全体では10人に1人が収容所に収容されているという。2016年~2018年の著名ウイグル人だけでも身柄拘束者、逮捕者、受刑者、行方不明者は338人に上がり、本当は資産の没収が目的らしいのです。実際新疆ウイグル自治区では、100万元以上の預貯金がある資産家は経営者が集中的に拘束され、その資産がすべて当局によって差し押さえられているというのです。
100万人のウイグル人が"再教育施設"に入れられ、その子供たちが強制的に連れ去られ、福祉の名のもとに公営孤児院に入所させられていること。脱過激化条例施行に基づき、ほとんどのウイグル人がちがパスポートを回収され、原則当局が保管することになったことを考えれば、今、静かにホロコーストと同じことがウイグルで起きているのです。
・ムスリムの習慣にのっとった結婚や葬儀や子供の教育を行ったり、豚肉を食べることを拒否したり、ベールを被ったり髭を蓄えたりすれば、過激化しているとのレッテルを貼られ、再教育施設送りになり、財産を没収される(p68)
中国では簡単に臓器移植のドナーが見つかる
最後に、最も恐ろしいのは、中国では簡単に臓器移植のドナーが見つかるということです。人口が多いからと思ったら、実は中国のドナー登録件数はせいぜい40万人。英米だと、このドナー登録数から移植手術ができる数は最大年間50人くらいだという。ところが中国での臓器移植は年間1.6万例実施されているのです。逆に計算すると、1億人のドナーが必要となりますが、それは現実的ではない。
人の寿命は100年ですから、自然死ではなくいつでも臓器提供のために殺すことができる100万人がいるとすれば、実現可能です。私にはこの臓器移植に必要な「100万人」と新疆ウイグルの再教育施設に拘束されている「100万人」がぴったり合うことが恐ろしく感じるのです。新疆ウイグル自治区の住民は血液、DNA情報を健康診断の名目で強制採取されていることを知るべきです。私は新疆ウイグル自治区とは年1.6万人分の臓器を生産する工場であり、現代のアウシュビッツではないのかと思いました。
駅前で拡声器を持っている日本共産党の方は、ぜひ新疆ウイグル自治区に行ってみて、正しい共産党のあり方を仲間として教えてきていただきたいものです。すぐ収容所の中を見学できるでしょう。福島さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・海外留学生の呼び戻しを行った。素直に戻ってきそうにない場合は、「帰国しなければ母親を再教育施設に送る」と脅す・・あるいは両親を脅して留学中の息子や娘にウソの連絡を入れさせた(p70)
・携帯電話には監視アプリのダウンロードを強制・・・持ち主が普段と違う通勤路を通るだけで、警官からその理由を問われたことがある、という報告もある(p78)
・中国の移植手術件数は順調に伸びており、2017年で1.6万例と発表されている。だが、中国のドナー登録件数は2018年まででせいぜい37.5万人。英米の統計方法だと、このドナー登録数から適合者が見つかり、手術が実現できる数は26~52人くらいのはずだといわれている(p99)
【私の評価】★★★★☆(88点)
目次
序 章 カシュガル探訪――21世紀で最も残酷な監獄社会
第一章 「再教育施設」の悪夢――犯罪者にされる人々
第二章 民族迫害の起源
第三章 世界の大変局時代における鍵――米中そして日本
著者経歴
福島香織(ふくしま かおり)・・・奈良県生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社大阪本社に入社。1998年に上海・復旦大学に1年間、語学留学。2001年に香港支局長、2002年春より2008年秋まで中国総局特派員として北京に駐在。2009年11月末に退社後、フリー記者として取材、執筆を開始する。
ウイグル問題関係書籍
「AI監獄ウイグル」ジェフリー・ケイン
「中国の移植犯罪 国家による臓器狩り」 デービッド・マタス、トルステン・トレイ
「ウイグル人に何が起きているのか 民族迫害の起源と現在」福島 香織
「在日ウイグル人が明かす ウイグル・ジェノサイド― 東トルキスタンの真実」ムカイダイス
「命がけの証言」清水 ともみ
「ウイグル大虐殺からの生還 再教育収容所地獄の2年間」グルバハール・ハイティワジ
「重要証人: ウイグルの強制収容所を逃れて」アレクサンドラ・カヴェーリウス
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