「この国の希望のかたち 新日本文明の可能性」伊勢 雅臣
2021/04/15公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
日本的な共同体の再構築
グローバル企業の現役経営者である著者が考える日本の将来は、グローバルではなく日本的なものです。明治維新や太平洋戦争敗戦により日本は急速に欧米化してきましたが、失った日本的なものこそが大事なのであり、著者は日本の再構築を目指しているのです。
それは家族や近所付き合いといった心の支えとなる共同体の再構築と、結婚しやすい社会の創造です。従来日本の特徴であった、家を中心とした共同体や地域の人々の交流を復活させるのです。
現代の若者が明日の収入にも不安を抱き、結婚もできずに寂しくワンルームマンションに住み、一人でコンビニ弁当を食べ、職場では仲間との付き合いも希薄・・・人々は家族や地域の共同体から引き離されてしまいました(p28)
日本的な共同体の再構築
これまでの世界を一つの社会とみなすグローバル化についても、簡単に輸出制限が行われる国際情勢を考えれば、できるだけ日本国内で完結するほうが望ましいとしています。特にエネルギーと食料の自給率を高めておかないと、外国による輸入制限や経済封鎖に対応ができなくなってしまうのです。
もちろん経済性も両立させる必要がありますが、軍事独裁政権など価値観を共有できない国が存在することも考慮しながら、より安定した経済構造を作る必要があるのでしょう。
例えば、日本は食料の六割を海外から輸入していますが、これは牛乳やパンや肉など日本人の食生活が欧米流に変わったことに原因があります。
日本人にパンを食べさせようと給食をパン食にしてしまったツケを払っているのです。減反により日本の農地の四分の一を遊ばせていることも問題でしょう。
エネルギー自給率はわずか9.8%・・・食料自給率はカロリーベースでは40%を切っています・・価格さえ安ければ、エネルギーも食料でも輸入に頼れば良いという、グローバル化の最先端・・・国内の農林水産業は衰退し、高齢化・・(p42)
日本的な共同体の再構築
著者の将来イメージは、日本より人口の少ないドイツです。ドイツの人口は8290万人と、日本の三分の二ほどですので、一人あたりの生産性を20%上げれば、将来人口が20%減っても、ドイツと同程度となります。そのためには効率的に稼ぐことと、女性の収入を増やすこと。そして誰もが結婚しやすく結婚したくなる社会を作ることです。
日本のサービス産業の労働生産性はアメリカに比べて、50.7%の水準と聞くと問題が多いように感じますが、日本的なものを残しつつ、生産性を高め、稼ぐ力を高めることが大事なのでしょう。伊勢さん,良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・マイナンバー制度・・・デジタル庁・・・泰平の時にはなかなか変革を進められず、危機に瀕すると一気に走り出す、というのは明治維新にかけても見られましたが、我々日本人の国民性のようです(p13)
・古代文明が発祥したチグリス・ユーフラテス川、ナイル川、インダス川、黄河の流域はいずれも砂漠化しています・・・古代文明はいずれも自然との和を持たず、それゆえ持続可能ではなかったのです(p56)
・少子化の原因のうち、夫婦出生力(結婚した夫婦が産む子供の数)の低下は約一割に過ぎず、残りの九割は未婚化によってもたらされている(p98)
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
序章 グレート・リセットの時
第1章 近代物質文明の行き詰まり
第2章 縄文文明が示す持続可能性の原則
第3章 新日本文明における人口と国土のかたち
第4章 新日本文明における農林水産業の再生
第5章 新日本文明が切り拓く未来
著者経歴
伊勢 雅臣(いせ まさおみ)・・・経営学博士、「国際派日本人養成講座」編集長。1953年東京生まれ。東京工業大学社会工学科卒。大手製造企業に就職。米国カリフォルニア大学バークレー校経営学修士(MBA)、経営学博士(Ph.D.)を取得。生産技術部長、事業本部長、常務執行役員などを歴任。2010年よりイタリア現地法人社長、2014年より米国現地法人社長。ビジネスの傍ら1997年にメールマガジン「国際派日本人養成講座」を創刊、以後23年にわたり編集長として発信を続け、現在の読者4万人。筑波大学・日本語日本文化学類・非常勤講師。公益社団法人国民文化研究会理事も務める。
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