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「戦争と平和」百田 尚樹

2019/08/20公開 更新
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戦争と平和 (新潮新書)


【私の評価】★★★★★(91点)


要約と感想レビュー

日本は戦争に向いていない

日本のゼロ戦と特攻隊員の物語「永遠の0(ゼロ)」を書くにあたり日本軍と大東亜戦争を調査して何がわかったのか、百田さんが解説してくれる一冊です。百田さんの結論は、「日本は戦争に向いていない民族である」ということです。なぜかといえば、日本の兵器、戦略、戦術が「戦争に勝つ」という目的にフォーカスされていない。これでは他国との戦争に勝てないと実感したのです。


そもそも日本国憲法の中には「緊急事態条項」がありません。世界の国々では、戦争や大災害のように国家存亡の危機が発生した場合に憲法や法律の平時通りの運用を一時的に停止するという緊急事態に関する条項がないのです。太平洋戦争のとき、ゼロ戦を作っていた三菱重工ではゼロ戦を牛で運んでいました。戦争末期となり、牛が手に入らなくなり、闇市で手配したら、地元の警察に捕まって起訴されたという笑い話があるくらいなのです。


やくみつる氏はテレビで、「中国領になってもいいから、戦いたくない。中国領で生きていく」という発言していました。森永卓郎氏はテレビで「とんでもない奴が攻めてきたら、黙って殺されちぇばいいんだと思うんです。世界の歴史の中で、昔は日本という国があって、戦争をしなくて制度を守るんだって言い続けて、ああそんな良い民族が居たんだなあと思えばいいじゃないですか」と発言していました。「安全法制整備法案」が国会で話題になっている時に、SEALsの集会に参加した若者が「もし中国が戦争を仕掛けてくるというのであれば、僕は彼らと酒を飲んで遊んで仲良くなり、戦争の抑止力になってやります」というようなことを発言していました。


世界の戦争では、敗者は皆殺しとなることが多いのですが、日本ではそういうことはほぼありませんでした。だから日本人はいつの間には「徹底して守りを固めないと、殺される」という思想を持たなくなったというのが著者の仮説なのです。


「日本人は戦争に向いていない民族であった」・・これが日本人の本来の姿なのかもしれないという不思議な安心感を覚えました(p4)

ゼロ戦は防御力がゼロ

多くの「日本人は戦争に向いていない民族」の事例を挙げていますので、一部だけご紹介しましょう。ゼロ戦は戦闘力抜群でも、防御力がゼロでした。貴重なベテランパイロットを使い捨てにしていました。アメリカのグラマンF4Fには水上に不時着したことも考えて救助要請用無線、救命用のゴムボートや救急セット、海水を真水に変える装置、釣竿まで用意されていたという。アメリカの戦艦には、必ずダメージコントロールのための要員や士官が搭乗していました。ところが、日本海軍には被害対策要員は乗っていなかったのです。


アメリカでは、パイロット一人を育成するのに、どれだけのお金と時間がかかっているのかを考えます。だから、パイロットを助けるのに多くのコストをかけても十分に見合う、というのがアメリカの考え方なのです。現在も、尖閣諸島周辺に自衛隊機が毎日のようにスクランブル発進していますが、四機一組で対応しているという。理由は、一機が撃墜された場合、残る三機が反撃できるようにするためです。つまりまず日本の自衛隊機が撃たれることが前提になっているのです。搭乗員を使い捨てていた神風特攻隊の思想と、それほど変わっていないのです。


さらには陸軍、海軍、役所が縦割り行政でバラバラ。年功序列で能力のない人でも司令官に抜擢される。人の技量に頼り自動小銃を開発しない。弾を連射するから無駄弾が多くなるといった懸念から「そんなものを作るよりも兵士の技量を高めればいいじゃないか」という思考だったという。


政府、官僚、マスコミにスパイが浸透。現代社会とあまり変わらないのです。完璧な人がいないように、完璧な国家も存在しません。だが、良くない点については明確に自覚し、改善を考えることが 大事なのでしょう。


悪いことは想定しない、考えない・・・ある種、日本人の伝統的ともいえる思考法が、ゼロ戦の設計思想にも表れている・・・なぜ防御力がないのか。それは撃たれることを想定していないからです(p32)

安全法制整備法案に反対した中国と韓国

百田さんが言いたいのは、日本人は何も変わっていない、ということです。最悪を想定しない日本人は、他国の攻撃を想定していません。憲法も自衛隊もこのままでいい。政府、官僚、マスコミにスパイが浸透していても何もできない。昔も今も状況は変わっていないのです。


「安全法制整備法案」では、日本の多くのメディアが反対しました。テレビ報道においては、ほぼ「反対一色」でした。また多くのジャーナリスト、学者、文化人、タレント、市民団体たちも反対しました。しかし当時いくつかの報道機関が行った世論調査では、過半数の人々が「賛成」でした。そして、「安全法制整備法案」に反対した国が世界で二つありました。それは中国と韓国だったのです。


日本には、「軍隊を持てば戦争になる」という人がいます。自衛隊を軍隊として認めようという発言に対して、「極右だ」「軍国主義だ」と非難する人がいます(p179)

最悪を想定しない日本人

百田さんは、国を守る力のない国家は、ヨーロッパの列強に国土を奪われ、虐殺され、奴隷にされたことを指摘します。南北アメリカ大陸でもインディアンたちは大量に虐殺され、現在もチベットやウイグルは国土と主権を奪われ、多数の民衆が虐殺されているのです。


20世紀後半以降、軍事力で領土を増やしてきた中国とロシアのウクライナ侵攻で、軍隊を持っていても、小国では大国に対抗できないことがわかります。そのために考え出されたのが、「集団安全保障」という概念であり、それに反対してきた人たちはどう反論するのでしょうか。


ちょっと暗い気分になる本でしたが、ロシアのウクライナ侵攻で、それが現実であることを多くの日本人が気づいたはずです。私たちは自分にできることをやるしかないのでしょう。百田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・戦争という極限状況下においては、その民族あるいは国家の持つ長所と短所が最も極端な形で現れる(p12)


・ゼロ戦と戦って、穴だらけにされてガダルカナル飛行場に戻ってきたグラマンF4Fの写真が残っています。まさに蜂の巣状態です。これを「グラマンF4Fがこてんぱんにやられた証」と見るべきでしょうか。いやむしろ、ここまで穴だらけにされても戻ってきている点に注目すべきでしょう(p24)


戦争と平和 (新潮新書)
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百田 尚樹
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【私の評価】★★★★★(91点)


目次

第一章 ゼロ戦とグラマン
第二章 『永遠の0』は戦争賛美小説か
第三章 護憲派に告ぐ



著者経歴

百田 尚樹(ひゃくた なおき)・・・1956年大阪市生まれ。同志社大学中退。放送作家として「探偵!ナイトスクープ」等の番組構成を手掛ける。2006年『永遠の0』で作家デビュー。他の著書に『海賊とよばれた男』(第十回本屋大賞受賞)等多数。


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