「おとなの教養 私たちはどこから来て、どこへ行くのか?」池上 彰
2018/08/27公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
池上さんが東京工業大学で一般教養を教えることになりました。その内容は、宗教、宇宙、人類の旅路、人間と病気、経済学、歴史、日本と日本人です。通常、一般教養(リベラルアーツ)とは、ギリシャ・ローマ時代に源流を持ち、ヨーロッパの大学で教えられていた七科目です。具体的には1文法、2修辞学、3倫理学、4算術、5幾何学、6天文学、7音楽です。
仮に私が理系の新入社員に教えるなら財務、統計、QC、プレゼン・ディベート(人間関係含む)、歴史、経済、英語でしょう。池上さんの話の中で私が印象的だったのは、宗教のところでしょうか。中東から始まったユダヤ教、キリスト教、イスラム教が世界の三大宗教です。中東情勢が緊迫化する中、これらの宗教の歴史をしっておくことは必須なのでしょう。過去には宗教から戦争になった事例もあるのです。
池上さんは、視野の狭い戦前の師範学校の先生たちが、教え子たちに「戦争に行って、見事に死んでこい」と教えていたと批判しています。確かに、目的を達成するために死ぬのなら意味がありますが、ばんざい突撃で機関銃で殺されるのは、相手の銃弾を減らすことしか効果がないことになります。合理的な作戦とは言えないのでしょう。一般教養とはつまり、こうした過去の歴史を学ぶということだと思いました。
・今から2000年ほど前のことです。当時、パレスチナのあたりはローマ帝国の属領でした。イエスの死刑を決めたのはユダヤ人自治組織である最高法院です。しかし最高法院自体には、死刑執行の権限はありません。そこでイエスをローマ帝国の総督に引き渡して、死刑の執行をさせたのです(p49)
池上さんは、日本というのは文科系と理科系がはっきり分かれてしまって、理系は非常に視野の狭い専門性に特化しているので視野が狭いと言います。理系の私に言わせれば、文科系の視野が広いわけではなく、普通の人は誰でも視野が狭いのです。文科系、理科系にかぎらず自分で学ぶことがなければ、視野が狭いままでしょう。理系が視野が狭いと表現するなら、専門のない文科系は視野がないと表現すべきではないでしょうか。
池上さんは、コペルニクスの地動説に賛同したブルーノというイタリアの哲学者が、投獄された末に火あぶりの刑になったことを紹介しています。理系のガリレオは、文系のキリスト教信者から宗教裁判にかけられ、地動説を捨てるように命じられたのです。
池上さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・理系の専門的な学問をひたすら学ぶので、どうしても視野が狭くなってしまう・・・歴史のことをまったく知らなかったりする(p16)
・初期のキリスト教においては、十字架はシンボルとして使われていません。魚の絵がシンボルでした(p53)
・キリスト教と同じように、イスラム教も唯一絶対の神を全面的に信頼して、神の教えを守ることで救われるという考え方をします(p60)
・第一次世界大戦はなぜ終わったのか。実は敵味方、みんなスペイン風邪にかかってバタバタと倒れてしまい、戦争を続けることができなくなってしまったからです。第一次世界大戦の戦死者の数よりも、スペイン風邪で死んだ人のほうがはるかに多かったのです(p136)
・資本主義のもとでは、好況と不況を繰り返します・・・マルクスは景気が悪いとき、とりわけ恐慌のときに、労働者は職にあぶれ悲惨な生活を強いられると指摘していますが、ケインズは、その不況を克服するような政策を政府が実施すれば、失業者の増加を食い止めることができると考えました(p162)
・政府の規制はできるかぎり撤廃したほうが、経済はうまくいくというのがフリードマンに代表される新自由主義の考え方です(p170)
・新自由主義を推進してきたアメリカでは、大きな格差が生まれ、格差是正を求める運動も起こりました・・その意味では、新自由主義は「勝ち組の論理」と言うこともできるかもしれません(p173)
▼引用は下記の書籍からです。
NHK出版
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【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
序 章 私たちはどこから来て、どこへ行くのか?――現代の教養七科目
第一章 宗教――唯一絶対の神はどこから生まれたのか?
第二章 宇宙――ヒッグス粒子が解き明かす私たちの起源
第三章 人類の旅路――私たちは突然変異から生まれた
第四章 人間と病気――世界を震撼させたウイルスの正体
第五章 経済学――歴史を変えた四つの理論とは?
第六章 歴史――過去はたえず書き換えられる
第七章 日本と日本人――いつ、どのようにして生まれたのか?
著者略歴
池上 彰(いけがみ あきら)・・・1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業。NHKで記者やキャスターを歴任後、フリージャーナリストとして多方面で活躍。2012年より東京工業大学リベラルアーツセンター教授。
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