「危険不可視社会」畑村 洋太郎
2010/11/01公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(73点)
要約と感想レビュー
現代社会は、昔に比べてシステムが巨大化し、さらに制御もパソコンが行う時代となっています。エレベータや自動車といった自動機械があちこちにある現代社会は、見えない危険社会といえるのでしょう。
この本では、防火シャッターの危険、エレベーターや、回転扉、さらには家の中で火を使う製品の危険性を教えてくれます。便利さを追求するなかで、どうしても危険が内在化してしまうので、これを避ける配慮が必要なのです。
例えば、公園の遊具は劣化がひどくて、一歩間違えれば凶器になる状態まで、平気でそのまま放置されていることがあります。これは、メンテナンスに関する意識が最も低いことによるものです。
また、機械式駐車場での死亡事故でよくありがちなのは、自動車のキーなどを落として本来は入ってはいけない場所に入らざるを得なくなり、危険な状態で自分ないし誰かが機械の操作を行い、どこかに挟まれるというパターンがあります。危険が見えないのです。
・上から下に降りてくる防火シャッターは以前から誤作動による挟まれ死亡事故が後を絶ちませんでした。・・・実際の重さは200キロ以上ありますから、挟まれれば大人でも逃げられないし、とくに子どもの場合は確実に致命傷を負います。(p31)
私には、ボーイングとエアバスの設計思想が違うので、パイロットはどちらかしか運転しないというところが、印象に残りました。同じような設備なら、ミスが減るわけです。日本の場合は異動があり人が変わりますが、できるだけ設備は同一にし、設計思想も統一したほうがいいのです。
また一般的に、世の中には時間の壁があるという。自分がミスをしたときには記憶が長続きしますが、それでも「三月」もすればだんだん忘れ、「三年」もたてばほぼ完全に忘れてしまいます。、組織の場合は、途中で人間の入れ替わりがあり、そのため大きな事故やトラブルの記憶は、「30年」もすると減衰してだんだんと消えていくというのです。
危険を全くなくすことはできないのでしょうが、最悪の場合を想定してやっていくしかないようです。なんとか先人の知恵を維持して、後進につなげていきたいものです。畑村さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・パナソニックでは・・・この問題をきっかけに、「安全を絶対に約束できないものはつくるべきではない」という理由で、屋内で直火を使う製品づくりからの完全撤退を決めた(p76)
・未熟な技術者が下手に触ると思わぬトラブルになるというなら、大きな問題がないかぎりはロジックを変えずにいまあるものをそのまま使い続けるというのも一つの対処法です。・・・私は「封印技術」といっています。(p68)
・サイドドアビーム・・・これを入れると製造コストが上がるので、輸出用の自動車にはすべてに入れていたのに、国内向けの自動車のほうにはわざと入れずに販売していたことがあった(p100)
・ボイラーが長らく安全率を「5」に取っていたように、何が起こるかわからない状況で致命的な事故やトラブルを絶対に起こさせないようにするには、原子力でもこれくらい手厚い対策で防護をすることが必要ではないでしょうか(p138)
・1981年の法改正では耐震基準が強化されましたが、厳しくなった条件をクリアした新しい建物は大地震の揺れに持ちこたえることができた(p173)
【私の評価】★★★☆☆(73点)
目次
序 危険を可視化するということ
第1章 制御安全の落とし穴
第2章 制御システムの暴走
第3章 「つくる側」と「使う側」の間
第4章 人も凶器
第5章 原発が信用されない理由
第6章 子どもから危険を奪う社会
第7章 規制・基準で安全は担保されるのか
第8章 安全社会の危険
著者経歴
畑村洋太郎(はたむら ようたろう)・・・1941年東京生まれ。東京大学工学部機械工学科修士課程修了。東京大学大学院工学系研究科教授、工学院大学グローバルエンジニアリング学部特別専任教授を歴任。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。'02年にNPO法人「失敗学会」を、'07年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる
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