【書評】なぜ精神科では5分しか患者を診ないのか?「精神科医の本音」益田 裕介
2025/04/17公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
なぜ精神科では5分しか患者を診ないのか?
この本の「つかみ」となる問いは、「なぜ精神科の医師は5分しか患者を診てくれないのか?」でしょう。
その答えは、精神科の診療報酬が、初診の場合は「60分以上で5400円」、再診の場合は「5分~30分で3300円、30分以上は4000円と決まっているからです。つまり、医師の立場から見れば、長時間診察しても収入が増えるわけではないし、5分の診察で十分という制度設計になっているのです。
さらに精神科の患者数に比べて医師の数が少なく、多数の患者さんを診察するために、診察時間は短くせざるをえないという。ちなみに、日本で精神科の患者数は400万人以上で、それに対する精神科医の数は1万5000人程度と少ないのです。
精神科クリニックでは一般的に「再診料+通院精神療法+処方箋料」で、患者1人当たり1500円の負担で、病院には5000円程度が入ります。1日40人を診れば、売上は1日20万円。月に20日働けば月400万円、年4800万円となります。事務職への給与、家賃、経費を引くと粗利は年3000万円程度になるという。
患者さんにはまず初診の予約をしてもらう・・1ヶ月程度お待ちいただくことが多いです。これは単純に、患者さんに対して、精神科医が少なすぎるからです(p167)
精神科医の仕事はハード
しかし、精神科医の仕事はハードです。開業医の場合、1日8時間、週5日、ひたすら患者さんの話を聞くことになります。患者さんはつらい気持ちを訴えるので、ときに医師も苦しさを感じることがあるという。
さらに、逆恨みする患者、暴力を振るう患者、病院のものを破壊する患者、盗む患者、消火器を振り回す患者、トイレでリストカットする患者などいろいろな患者の相手をすることになるのです。
実際、精神科医が心身を病んでしまったり、患者との訴訟に疲れ果てて自主廃業する精神科クリニックもあるという。そんな精神科クリニックを運営する著者は、「相手の感情に飲み込まれないこと」を意識しながら仕事をしているというのです。
私がいつも意識しているのは、「相手の感情に飲み込まれないこと」「正しい優先順位をつけること」です(p45)
治療の基本は休むこと
実際の診療では、軽い適用障害の場合、ストレスから離れることで症状が回復するという。治療の基本は休むことで、しっかりと寝て、のんびり過ごして、しっかりと食べることなのです。
もう少し重い「うつ病」の場合も、基本はストレスのもとになった問題を解決していくことが治療になります。不安障害などの合併症がある場合や、うつ病の疑いが強い場合には、抗うつ剤を使うという。
著者のイメージでは、うつ病の3分の1は薬がなくても回復し、3分の1は薬があった方が改善が早く、残りの3分の1は薬が効かず、治療に時間がかかるという。
その他には、作業療法士が座談会やワークショップ、運動、料理などのレクリエーションを行う「デイケア」や保険外ですが、1時間前後で1万円ぐらいで対話形式の「カウンセリング」を行っているという。
精神疾患は、不運の掛け算によって起きる(p141)
医師のプロフィール欄を確認
信頼できるお医者さんを選ぶために著者のお勧めは、プロフィール欄に「精神保健指定医」「精神科専門医」といった認定表記がされていること。また、クリニックに家族を連れていって先生の治療の姿勢を観察することです。
基本的に精神科でも治療は標準化されており、先生によって治療に差はありません。精神科では先生と患者の対話となるので、人間として合う合わないのほうが大きいのかもしれません。
精神科の基本情報を知るためには良い本だと思いました。益田さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・「うつ病」であれば、5年以内の再発率が40%と言われています(p81)
・うつ病の患者さんの中にも、少し心身の調子が戻ってきたとき、重度のうつ病から中程度のうつに回復したときに、自殺してしまう方がいます(p82)
・カミングアウトの是非・・「基本的にはむやみに言わない方がいいよ。率先してしゃべる必要はないし、言うとしても用心して相手を選んだ方がいいよ」と伝えています(p140)
・会社側にも、「籍を置いておかれると、復職時にどう扱ったらいいかわからない」・・「パワハラがあったことをもみ消したい」などの理由で、「辞めてほしい」と迫る企業は存在します(p130)
▼引用は、この本からです
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益田 裕介 (著)、SBクリエイティブ
【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
第1章 精神科医の本音とは
第2章 精神科医をどう選ぶか
第3章 精神科診療の実態
第4章 医師が言わない薬物療法・精神療法の現実
第5章 患者に伝えたい本当のところ
第6章 病院・クリニックの現実
終章 これからの精神科医療
著者経歴
益田 裕介(ますだ ゆうすけ)・・・早稲田メンタルクリニック院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックを開業。一般向けに、わかりやすく、精神科診療について解説するYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」を運営。
精神科関連書籍
「だいじょぶだぁ~不登校・うつを経験した精神科医の読む薬」平光源
「心がほぐれる1分習慣」西上貴志
「穏やかに生きる術」精神科医Tomy
「「愛」という名のやさしい暴力」斎藤 学
「精神科医の本音」益田 裕介
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