「失敗学実践講義」畑村 洋太郎
2018/10/09公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(91点)
要約と感想レビュー
「失敗学会」を立ち上げた東京大学の畑村先生の一冊です。「失敗学会」だけあって、こんな大切なポイントがあったのか!という学びがいっぱいありました。そもそも人の注意力には限界があるわけで、現実には過去に経験した事故や失敗とほぼ同じものが、30年後に再び繰り返されるということが多いのです。事故は繰り返されるものですが、それを予防しようとするためには、相当の努力が必要なのでしょう。
面白いところはマスコミは批判していたが、現場はしっかりやっていたという事例です。例えば、三菱重工業の豪華客船が3度も火災をおこしましたが、この本では作業員の全員退避を確認してからの消化作業を評価しています。また、日本のロケット技術についても予算や実験回数、失敗確率から見れば、よくやっていると評価しています。
例えば、日本のロケットの打ち上げは10分の1程度の予算しかかけておらず、しかもロケットの打ち上げ回数もわずか数十回程度であり、比較が難しいのです。それでいて世界のトップレベルのロケット技術に押し上げたことは、客観的に見れば十分評価に値することだというのです。感覚ではなく事実とデータ分析で判断するのが、理系らしいところなのでしょう。
・ダイヤモンド・プリンセス号の火災事故の場合、突発事故であるにもかかわらず、約1000人の作業員は直後に全員無事に退避しています・・・バーコードで人の出入りをすべて管理していた・・「船内に誰も残っていないのを確認してからすぐに消火活動を開始しよう」という判断を下すことができたのです(p222)
システム開発のトラブルについては、みずほ銀行の場合、まったく別の新しいシステムをつくるべきであったと提言しています。また、みずほ証券のトラブルも、証券会社のシステムと東証のシステムをつないだうえでの検証作業を提案していたようですが、実現せず、トラブルに至ったと書いています。
現場においては、「失敗学会」は必須と感じました。30年毎に同じようなトラブルが起こるという法則を考えれば、30年前のトラブルを調べると面白いかもしれませんね。畑村さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・「現地」「現物」「現人」が理解の基本(p266)
・マニュアルは変えるためにある・・・マニュアルを肥大化させない・・一番のおすすめは、マニュアルを使う人自身が自分で考えてマニュアルをつくっていくことです(p107)
・世の中には「バカと専門家は細かいことを言いたがる」という大法則がある(p170)
・2003年5月末の宮城地震の際には、このうち東北新幹線の橋脚が30本程度損傷しました。JR東日本はこれを機に高架橋の安全対策を見直し、8万2000本の約5分の1に当たる1万5000本あまりの橋脚に対し、鉄板を巻いてその内側にコンクリートを注入して強化・・ところが、こうした大切な知識が、残念なことにJR西日本には一切伝わっていませんでした(p138)
▼引用は下記の書籍からです。
講談社
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【私の評価】★★★★★(91点)
目次
第1講 想定され得ることは必ず起こる(六本木ヒルズの大型回転ドア事故)
第2講 人の注意力には限界がある(日本航空の連続トラブル)
第3講 追いつかなかった企業改革のスピード(JR福知山線脱線事故)
第4講 ゼロからつくり直すことの大切さ(金融システムの失敗)
第5講 見たくないものは見えない(リコール隠し)
第6講 起こる前に起こった後のことを考える(火災に学ぶ)
第7講 それぞれの立場から見える風景(JCO臨界事故)
第8講 トップの孤独(ロケットの打ち上げ失敗)
第9講 「現地」「現物」「現人」が理解の基本(JR羽越線脱線事故)
おわりに
補 講 文庫増補版 終章(日本航空の破綻・トヨタのリコール)
著者経歴
畑村洋太郎(はたむら ようたろう)・・・1941年東京生まれ。東京大学工学部機械工学科修士課程修了。東京大学大学院工学系研究科教授、工学院大学グローバルエンジニアリング学部特別専任教授を歴任。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。'02年にNPO法人「失敗学会」を、'07年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる
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