「組織の盛衰―何が企業の命運を決めるのか」堺屋 太一
2006/09/19公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
サラリーマンをしていると、いろいろと悩むことがあると思います。それは人事であったり、評価であったり、組織の壁であったりするわけです。そうして悩んだ末に自分の行動を決めるわけですが、その判断に必要なのが人間がつくる組織というものの「組織観」ではないかと思うのです。
この本は元通産省の役人であり、日本帝国陸海軍に詳しい堺屋さんが、組織の硬直化の本質をずばり指摘しています。腐敗した組織の状態を、『共同体化』と表現しています。つまり、仲間の利益を優先する集団という意味です。共同体化した組織では、極力競争を排除します。そのために年功序列や、キャリア制度が発達します。そのほうがお互い、ギスギスせずに人生をまっとうできるからです。
・共同体化した組織では、構成員の目は内志向となり、共同体内部だけの多数意見(有力意見)が正義正解になる。敢えて創造性を発揮するものはいなくなり、たまに現れると異端者として中枢から外されてしまう。(p64)
戦前の陸海軍では士官学校や兵学校での卒業成績が、将軍になるまで順番どおりという、年功序列制度が生まれました。とにかく組織内で波風を立てなければ出世できますので、予算は平等、人員配置も文句のでないようにしようとするのです。このように、大きく古い組織は共同体化しやすいのですが、それを防ぐには、定期的に組織に揺さぶりをかける必要があります。著者は、官僚組織については政治家に、そして、大企業においては社外取締役などにその揺さぶる役割を期待しているのです。
・史上の名君の中には、帝王位に就くまでは阿呆を装い、前任者とその側近のいいなりになっていたが、一旦帝王位に就くやガラリと豹変、バリバリと改革人事を行なったという人物も多い。(p159)
組織とそこに働く人の傾向を理解したうえで、潰されるリスクをとりながら新しい仕事に挑戦していくのか、リスクを取らずに偉くなってから大きな改革で勝負するのか、それとも一生なにもしないのか、自分で決めるのが大切なのではないでしょうか。ここで、松下幸之助の言葉を思い出しました。「冷静に判断し、そっと情を添えよ」壁を乗り越えるための、一つの答えではないでしょうか。通産省で堺屋太一さんが乗り越えられなかった壁について書いた自省の書と理解しました。
大きな目的を達成するために組織ができたはずなのに、なぜか組織が大きくなると本来の目的を失ってしまう。そうした組織の問題をこの本を読んで意識することで、少しでも硬直化した組織に揺さぶりを与えることのできる人が増えてもらいたいと考えました。組織の一員ならば、必読の一冊と言うことで、★4つとします。
この本で私が共感した名言
・ある中央官庁の課長が、「俺が握っている予算は三千億円、年収二億や三億の資産家とは訳が違う」といったことがある。一旦権限の愉しさを知った者なら、この心境はわかるはずだ。(p99)
・参謀は創造力に富んだ企画好きでなければならないが、それがトップまたは中央管理機構に拒絶された時には、固執しない発想の軽さが必要なのだ。(p149)
・無謀な白兵銃剣戦術を推進した辻政信などは、どんどん出世する。共同体化した組織では、失敗の責任は追及されず、馬力と迎合だけが評価されるのである。(p60)
・個の優秀さも、組織の共同体化が進むとむしろマイナスに働く。各部分組織の構成員が有能であればあるほど、その部分組織の目的だけを追求して譲らないので、総合調整がますます困難になるからだ。各課長が全て有能で、上手に理屈をつけ熱心に要求してくると、どれも削れない。(p67)
・実際、「才ある者は徳がない、徳ある者は才がない」というのは、人事における不滅の公理である。才があって仕事をすれば必ず周囲と摩擦を起こして 徳望は傷が付く。逆に仕事さえせず才能を発揮しなければ、大抵の人は「良い人」、つまり徳人であり得る。(p322)
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【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第1章 巨大組織の生成から崩壊まで
第2章 組織とは何か
第3章 組織管理の機能と適材
第4章 組織の「死に至る病」
第5章 社会が変わる、組織が変わる
第6章 これからの組織
著者経歴
堺屋 太一(さかいや たいち)・・・1935年生まれ。大学卒業後、通産省入省。日本万国博覧会、沖縄海洋博、サンシャイン計画を企画、推進。1978年退官。執筆、講演活動を行っている。
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