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「生命保険の不都合な真実」柴田秀並

2024/09/17公開 更新
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「生命保険の不都合な真実」柴田秀並


【私の評価】★★★★☆(82点)


要約と感想レビュー

外貨建て一時払い保険の闇

2017年と7年前の古い本ですが、外貨建て一時払い保険と、かんぽ生命のあやしい営業の実態について報告した一冊となっています。


まず、外貨建て一時払い保険とは、外貨で保険に入るという商品です。例えば1000万円を外貨に替え、保険料として保険会社に一括で払い、生保はそれを外債などで運用するという商品です。外貨建て一時払い保険のメリットは、外貨の高い利子が期待できること。デメリットは為替リスクがあることです。販売を行う銀行のメリットは、3~8%という高い手数料です。当時、外貨建て保険は、銀行による販売だけで年間4兆円を超え、高齢者に為替リスクや高い手数料を説明せずに銀行が販売していたため、トラブルが急増していたという。


2017年当時の販売資料では、積立利率に手数料が入っておらず、外貨建て保険の質的な利回りが、積立利率よりも0.75%も低い商品があったという。そこで金融庁は実質的な利回りの表示を銀行や保険会社に指導していたのですが、特に銀行の反対が強かったという。三井住友銀行が、最後まで抵抗していたというのです。


著者が驚いたのは、その後の「外貨建て保険の利回り表示三井住友銀行、わかりにくさ解消」というタイトルの新聞記事が出たことです。金融業界が4月から実質的な利回りの表示を順次進める方針であるが、三井住友銀行は「業界に一歩先んじて対応する」と書いてありました。角度をつけることで有名な朝日新聞の記者である著者も、三井住友銀行のPR上手にはびっくりしたようです。


意見交換会で、「(実質的な利回りを記載した)補助資料を渡さなくても罰則はないのか?」と再三質問していたのが、何を隠そう三井住友銀行だった(p117)

かんぽ生命の闇

日本郵便のかんぽ生命の不正については、地方で一人暮らしをする80歳の男性が、1年間に保険料として500万円近く払っていた事例を紹介しています。また、80歳近い認知症と診断された女性は、郵便局員に言われるままに月6万円の保険料を支払っていたという。郵便局では、局員に言われるがまま契約してしまうような高齢者を「ゆるキャラ」と呼んでいたという。


こうした日本郵便で不正な保険販売が相次いだ背景は、厳しいノルマと営業成績の数字さえ上がれば評価される組織体質があったという。保険の販売実績に応じて5段階にランク理由され、下の2ランクに分類された人は、「成長期待社員」として「懲罰研修」と呼ばれた研修に強制参加され、この場でプライドを傷つけるような叱責が行われていたというのです。


そもそも日本郵便の横山社長が、局員との対話の中で、「高齢者の方は、郵便局のファンです。この方々が生きている間は郵便局を助けてくれる。お亡くなりになった瞬間に遺族の方が「何をしているのか」となる」と発言しており、組織的に課題があったと考えられるのです。


ここからは私の推測となりますが、かんぽ生命は民営化したことで、郵政時代の悪いところだけが残り、民営化の悪いところと組み合わさって、最悪の組織になってしまったのではないかと感じました。つまり、郵政時代の良い商品がなく、規律がゆるいところが残り、民営化の業績最優先だけが導入されたのです。そのため、儲けてさえいれば不正をしても処罰されず、逆に評価されていたのです。


(日本郵便の)横山社長は「高齢者はファン」と言ったが、一部の悪質な局員は、簡単に保険に入ってくれる高齢者を「ゆるキャラ」「半ぼけ」などと呼んでいた(p262)

保険販売手数料の闇

最後に、どこの会社の保険でも販売できる「保険の窓口」のような相互乗り入れ代理店の手数料が、保険業界に議論を巻き起こしていることが説明されています。


生命保険業界には、3つの形態があります。1つ目は、保険のおばさんに代表される外交員を社員として大量に雇って義理人情で保険契約を取っている従来の保険会社です。
2つ目は外交員を持たず、代理店に保険契約を取ってきてもらい手数料を払う外資系保険会社などです。
そして3つ目はネット経由の保険です。


ちなみに、30歳男性が死亡保険金1千万円で払込期間10年を定期保険に入った試算では、大手生保Aは月額2660円、大手生保Bは月額2470円、ネット経由の中堅生保Cは月額1068円、新興生保Dで月額990円と営業経費・手数料の大きさがわかります。例えば、医療保険(月払い)なら初年度は毎月保険料の40~100%が代理店の手数料となります。


金融庁としては高額な代理店への手数料は、顧客の利益のためにならないとしていますが、代理店から言わせれば、大手生保は大きな費用をかけて営業職員を抱えているのは、問題ないのか、と主張するわけです。本来は、保険の保証内容と金額、外交員の取り分(営業手数料)を明確に示すべきなのでしょう。「保険の窓口」でも手数料を明示しているのでしょうか?


保険業界については、海外の保険の仕組みを含めてもう少し勉強してみたいと思います。柴田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・富国生命は外貨建て保険を扱わない。桜井祐記専務は語る。・・販売を強行すれば、短期的な数字のために、長年培ってきた生命保険会社の根幹である信頼が失われてしまう(p95)


・保険業界が最も恐れるのは、保険会社の保険商品に対しても、投資信託のように「共通KPI」をつくるよう金融庁が求めてくることだ(p123)


・ある税理士は語る。中小企業の社長さんは、どこかに自分の知らない、うまい「節税策」があるはずだと信じ込んでいます。だから、「それを教えてくれ」と、魚でいえばエサを求めて「パクパク」している状態なのですよ。簡単にひっかけることができます(p194)


▼引用は、この本からです
「生命保険の不都合な真実」柴田秀並
柴田秀並、光文社


【私の評価】★★★★☆(82点)


目次

第1章 空虚な最高益
第2章 安心を奪う「外貨建て保険」
第3章 生保と銀行の「共犯関係」
第4章 「営職」vs.「乗り合い」
第5章 「節税保険」の罠
第6章 かんぽ生命は、闇だらけ


著者経歴

柴田秀並(しばた しゅうへい)・・・1987年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2011年、朝日新聞入社。広島総局や西部報道センター(福岡)経済グループなどを経て、2018年から東京経済部に所属。保険や銀行担当を経て現在は金融庁を担当し、かんぽ生命の不適切販売問題も取材している


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