「損保の闇 生保の裏―ドキュメント保険業界」柴田 秀並
2024/09/06公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(88点)
要約と感想レビュー
損害保険会社の裏
中古車販売・修理ビッグモーターが、顧客の車を意図的に破壊して、保険金不正請求していた問題について取材した一冊です。50%がビッグモーター関連、30%が損害保険会社の闇、20%が生保の裏といった配分です。
ビッグモーターは中古車販売に伴って必要となる自賠責保険を、損害保険会社の事故車の入庫誘導の数に応じて割り振っていました。損害保険会社は自賠責保険契約を増やしてもらうため、ビックモーターへの事故車の紹介を競い合っていたのです。特に東京海上ではビッグモーターを含めた「指定工場」への案内数を代理店の「ノルマ」としていたという。
また、損保ジャパンではビッグモーターに「完全査定レス」の例外を認め、ビッグモーターの言い値の修理費を支払っていました。損害保険会社では、損害調査部門がサンプル調査で自社での見積もりと、工場側が出してきた見積もりを比べ、乖離率を測定しています。損保ジャパンでは7%を超過する乖離率が2期続けば、「完全査定レス」の対象から除外するルールでしたが、営業が介入し、ランクは維持されたという。
損害保険会社は、表向きは質の高い修理工場をお客様に紹介していると説明していましたが、実際には、多数の保険契約をもらえる修理工場を優先して紹介していたのです。
損保ジャパンは数字欲しさゆえに・・「完全査定レス」の導入だ。工場から修理の見積もりが来た際、通常はアジャスターという専門社員が関与する・・アジャスターの関与を省略できる「簡易検査」を認めていた(p50)
ビッグモーターの闇
こうしたビッグモーターへの損害保険会社の忖度が行われている中で、ビッグモーターに変化が起こります。2015年、ビッグモーター社長の長男兼重宏一が取締役に就任すると、売上アップのために修理代金をいかに引き上げるか策をめぐらしはじめたという情報が、損害保険会社の出向者から損害保険各社に届きます。
実際、ビッグモーターでは事故車修理1件あたりの利益を、14万円とするノルマを課していたのです。そして取締役副社長の宏一は、環境整備点検の名目で工場をチェックし、清掃が行き届いていない工場長、ノルマ達成できていない工場長を降格、左遷させていました。
工場長は降格、左遷されないためにはノルマをどのような手段を用いようと達成しなければならなかったのです。そして、不正を知りながら、強く対応できない損害保険各社の対応が遅れ、事件がここまで大きくなったのです。
(ビッグモーター)工場長への厳しいプレッシャー・・2020~2022年の3年で延べ47人の工場長が降格処分を受けている(p91)
保険業界の裏
このようにお客様のためのサービスとなっているのかどうか疑わしい事例が、保険業界には多いという。例えば、複数社の商品を扱う生命保険の乗り合い代理店では、顧客にふさわしい保険を選んでいるように装いながら、実際は手数料が多い保険会社の商品を推奨するケースが横行しているという。
また、医療保険を売るときに、月8万以上の医療費が補助される高額療養費制度や傷病手当金などの公的保険などを説明せず、医療保険を販売するケースも多いのです。
さらに損害保険の代理店への手数料においても、現在の手数料ポイント制度は、代理店の「規模」と「成長性」で手数料を補正するもので、様々な損害保険会社の保険を売ると、手数料が少なくなってしまいます。したがって、お客様にふさわしい会社の保険を紹介しにくい制度となっているという。
民間保険を売るときに、公的保険をきちんと説明すべき・・生保幹部からは口々に反発の声があがっていた(p213)
生命保険の闇
それ以外にも、生命保険と投資信託を組み合わせた変額保険や、目標到達型の一時払い外貨建て保険は手数料として6%以上抜かれるので、あえて買うメリットのない商品だという。例えば、変額保険では保険料を投資信託で運用するのですが、運用費として20%も引かれるものがあるという。それならば、生命保険と投資信託を別に入ったほうが、同じリスクで手数料を安くできるのです。
お客様のためと言いながら、自分の収入となる販売手数料の大きい、お客様にわかりにくい商品を勧める営業マンが存在する業界なのだと思いました。著者は朝日新聞記者ですので、朝日新聞の闇や裏にも切り込んでいただきたいものです。柴田さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・企業代理店・・代理店を作れば、手数料分が自社グループの実入りとなるため、事実上の値下げ効果をもつ。親会社の出向・転籍者を役員や社員にできるなど、余剰人員の受け皿にもなる(p182)
・小規模の専属代理店に対しては手数料ポイント制度で追い詰める一方、ディーラーなど優良な兼業代理店には異常とも言える「本業支援」ですり寄る(p289)
・仕組み債は・・証券会社は販売の段階で・・自ら組成した場合、販売価格との差は2~3割は普通だった・・業務改善命令を受けた千葉銀行は・・利回りを強調し、傘下の証券子会社で仕組債を買うように誘導していた・・購入客の半数超を70代以上が占めたという(p272)
【私の評価】★★★★☆(88点)
目次
第1章 ビッグモーターの告発者
第2章 損保ジャパンの過ち
第3章 SOMPOHDの転落
第4章 企業文化
第5章 損保業界の膿
第6章 金融庁と生命保険業界
第7章 「生保レディ」
第8章 保険本来のあり方とは?
著者経歴
柴田秀並(しばた しゅうへい)・・・1987年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2011年、朝日新聞に入社し、現在は経済部記者。金融担当が長く、かんぽ生命保険の不正募集などを取材。社会部調査報道班に在籍中は国土交通省の統計不正や同省OBによる人事介入問題の取材にも携わった
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