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「一下級将校の見た帝国陸軍」山本 七平

2006/04/10公開 更新
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「一下級将校の見た帝国陸軍」山本 七平


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー


帝国陸軍の虚構の世界

帝国陸軍の実態を、内部から観察し、その実態を分析した一冊です。著者によれば、帝国陸軍では、現実を直視しない、精神論だけの虚構の世界が作られていました。


つまり、大本営や方面軍司令部の参謀たちが勝手にシナリオを描き、そのシナリオに応じて師団の参謀たちは空虚な"大熱演"を演じ、その熱演に自ら酔って発した放言が、命令となり指示となって、それによって人びとが次から次へと死んだというのです。


こうした精神絶対主義は、帝国陸軍だけではなく、日本人の本質から産まれてくるものである、という著者の主張が、私の経験でもまったくその通りと思わざるを得ないのが恐ろしいところです。


不思議なことに、精神力を否定するかに受け取られそうな言葉は、絶対だれも口にはしない。そして、軍隊外の人間には、徹底して口にしなかった。ここには奇妙なタブーがあった。そしてこれは、戦後社会にも存在するある種のタブーと同根のもの(p41)

どうすればできるか考えろ

「できません」などとは言えない。言えば、「どうすればできるか考えろ」というのが、日本の日常風景ではないでしょうか。例えば、参謀本部は、昭和初期から南方方面占領の作戦計画を立てていたのですが、占領軍が「現地自活」することが規定の方針だったという。つまり、現地に対して無知であり、何一つ真剣に調査していなかったかの証拠だというのです。


また、日本の組織の中には、学歴至上のキャリア組のようなものを作り出し、現場のノウハウはたたき上げの人に任せるといったお役所のような組織も多いと思います。そのような組織は、現状維持には最適ですが、根本的な変化が求められるときには、最悪の組織となるようです。


「従って、調子のいいときはいいし、その組織の運営の仕方だけで対処できる間はこれが一番いいんですよ。だが、組織そのものの中身を変えて対処しなければならない場合は、だめですな。結局、壊滅するまで同じ行き方を繰り返しながら、それ以外に方法がないという状況になっちまうんです・・・」(p54)

大砲はあるが砲弾がない

帝国陸軍ではこの砲は世界の最高峰というのが自慢の種だったという。確かにその通りなのですが、砲弾を運ぼうとすれば、補給能力が必要なのにだれも考えず、砲が立派ならそれでよいという態度であったという。


同じ例として、「技術の日産」を思い出しました。カルロス・ゴーン以前の日産は、危機的状況にありながら、「技術の日産」と広告しながら、今までどおりの車作りしかできませんでした。「技術」が立派ならそれでよかったのです。


しかし、カルロス・ゴーンという指揮官を得て、変化することができたということなのでしょう。だんだん暗い気持ちになってくるのですが、そうした日本人の気質を理解しつつ、自分はいかにしていくべきか、ということを考えさせてくれる一冊として★3つとしました。


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この本で私が共感した名言


・渦中にいる者は不思議なほど、大局そのものはわからない。(p60)


・われわれは、前述のように、「戦争体験」も「占領統治体験」もなく、異民族併存社会・混血社会というものも知らなかったし、今も知らない。知らないなら「無能」なのがあたりまえであろう。(p96)


・今の今まで「絶対にやってはいけない」と判断を下していたそのようなことを、なぜ急に一転して「やれ」と命ずるのか・・・「戦闘機の援護なく戦艦を出撃させてはならない」と言いつつ、なぜ戦艦大和を出撃させたのか(p112)


▼引用は下記の書籍からです。
「一下級将校の見た帝国陸軍」山本 七平


【私の評価】★★★★☆(83点)


目次


"大に事える主義"
すべて欠、欠、欠...。
だれも知らぬ対米戦闘法
地獄の輸送船生活
石の雨と花の雨と
現地を知らぬ帝国陸軍
死の行進について
みずからを片づけた日本軍
一、軍人は員数を尊ぶべし
私物命令・気魄という名の演技
「オンリ・ペッペル・ナット・マネー」
参謀のシナリオと演技の跡
最後の戦闘に残る悔い
死のリフレイン
組織と自殺
still live,スティルリブ、スティルリブ...
敗戦の瞬間、戦争責任から出家遁世した閣下たち
言葉と秩序と暴力
統帥権・戦費・実力者
組織の名誉と信義



著者経歴


山本 七平・・・1921年生まれ。青山学院高商学部卒。戦時中は、砲兵少尉としてフィリピン戦線を転戦。戦後、山本書店を設立し、聖書、ユダヤ系の翻訳出版に携わる。著書多数。1991年12月死去。


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