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「「廃炉」という幻想~福島第一原発、本当の物語」吉野 実

2022/12/25公開 更新
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「「廃炉」という幻想~福島第一原発、本当の物語」吉野 実


【私の評価】★★★☆☆(75点)


要約と感想レビュー

 福島第一原子力発電所の事故から10年以上経ちましたが、今はどうなっているのでしょうか。現在も40年後までに炉という目標は変わっていませんが、実は廃炉の目処はまったくたっていないのです。炉心溶融(メルトダウン)で融けた燃料(=デブリ)は取り出す方法すら、まだ試行錯誤段階なのです。


 発生から40年以上経ったスリーマイルすら、すべてのデブリ取り出しに成功しておらず、現在も原子炉は解体されていないことを考えれば、現状保管が現実的なのでしょう。著者が提案するのは、デブリの取り出しなどより、汚染水処理で発生する放射性のスラリー・スラッジ対策です。スラリー・スラッジ対策なら、目処は立つので、そこに人も資金も投入するべきということです。


 注目すべきは、経産省が東電を破綻させなかった理由でしょう。著者は複数の元経産官僚、財務官僚、政治家も認めた事実として、二つの理由を説明しています。一つは経産省が賠償の矢面に立たされるのを嫌ったから。二つ目は、東電を実質支配し、電力業界をコントロールするためであったというのです。


 心配なのは福島第一原発の防潮堤でしょう。福島第一の現状の防潮堤は、海抜8.5mにある1~4号機の前面を1メートルかさ上げした上、高さ1.5mのL字型コンクリート構造物を並べて海抜11メートルとしています。現在は海抜16メートルの防潮堤を建設する方針だという。東北電力の女川原子力が29メートルの防潮堤を建設していることを考えれば、心配になります。


 吉野さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・1~3号機の格納容器は、水素爆発や事故時の圧力上昇などによって、複数箇所が損傷している・・水がダダ漏れするのは明らかなため、冠水工法は見送られた(p46)


・トリチウム水は、再稼働した日本の原発を含め、世界中の原子力発電所及び核関連施設から放出され続けている(p78)


・22兆円の内訳は、廃炉8兆円、賠償8兆円、除染・中間貯蔵で6兆円だが、まず、賠償8兆円のうち半分の4兆円は、関西電力や中部電力といった大手電力会社が負担する・・2020年以降は新電力も、2400億円を負担する(p218)


▼引用は、この本からです
「「廃炉」という幻想~福島第一原発、本当の物語」吉野 実


【私の評価】★★★☆☆(75点)


目次

第1章 廃炉の「現実」
第2章 先送りされた「処理水」問題
第3章 廃炉30~40年は「イメージ戦略」
第4章 1Fは「新たな地震・津波」に耐えられるか
最5章 致命的な「核物質セキュリティ」違反
第6章 破綻した「賠償スキーム」
第7章 指定廃棄物という「落とし子」
終章 「真実の開示」と議論が必要だ



著者経歴

 吉野実(よしの みのる)・・・1964年、東京都生まれ。中央大学卒業後、新聞社2社での勤務を経て、1999年、在京テレビ局に転職。社会部、ソウル支局、経済部などで勤務。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定取材のため経済産業省担当になったとたんに2011年3月11日の福島第一原発事故に遭遇し、以来、同事故の収束などを取材している。新聞記者時代はゼネコン汚職事件などの経済事件やオウム真理教事件も担当。


福島原発事故関連書籍

「レベル7福島原発事故、隠された真実」東京新聞原発事故取材班
「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」門田 隆将
「原発再稼働「最後の条件」:「福島第一」事故検証プロジェクト最終報告書」 大前 研一
「原発と大津波 警告を葬った人々」添田 孝史
「FUKUSHIMAレポート~原発事故の本質~」
「ザ・原発所長(上・下)」黒木 亮


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