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「誤解だらけの電力問題」竹内 純子

2021/06/11公開 更新
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「誤解だらけの電力問題」竹内 純子


【私の評価】★★★★☆(81点)


要約と感想レビュー

電力会社は利益の出ない火力発電所を廃止

2020年12月下旬から1月まで電力需給がひっ迫し、いつもは10円/kWh以下で推移していたスポット市場の価格が200円/kWhを超える状況となりました。また、経済産業省は今冬の2022年1~2月は東京電力管内で電力予備率がマイナスとなると発表。電力供給力の不足が問題となっています。


今、電力業界で何が起こっているのか、考えるためにこの本を手にしました。2014年と古い本ですが、現在の状況を予言しているところもありますので、ご紹介します。


2014年に出版されたこの本が予想するのは、2012年に導入された再生可能エネルギー買取制度(FIT)によって電力価格は1.5倍となり、電力自由化によって電力会社は利益の出ない火力発電所を廃止して、結局、国はそれを禁止するであろうということです。


市場で電気が余り、なんと電気が「負の価格」で取引される事態も発生・・・電力事業者の経営は悪化し、発電所の閉鎖が続きました。ドイツ政府は2013年から、10MW以上の発電所を保有する電力会社に許可なく設備を廃止することを禁じました(p61)

ヨーロッパでの失敗が繰り返される

なぜこうした予想ができるのかといえば、2014年の時点で既に、ヨーロッパでは再エネ賦課金の増大で税も含めて電気料金が2倍となる国がでてきていたのです。また、電力自由化と再エネが増えることで電力市場価格が低迷し、赤字となった発電所が廃止され電力供給力が不足することとなったのです。つまり、ヨーロッパと同じ政策を導入すれば、同じ結果になるだろう、ということです。


ただ、日本とヨーロッパとの違いもあります。まず、ヨーロッパは電力・ガス供給のネットワークが網の目のように張り巡らされていることです。日本は島国で、送電系統は東西で50Hzと60Hzで分断され、ガスパイプラインも一部にしかありません。島国の日本はヨーロッパに比べて、系統が脆弱なのです。


特に北海道を見てみると、北海道電力の主力発電所である苫東厚真発電所の2号機は60万kWが停止しただけで供給力は一気に10%下がってしまいます。本州とは直流でつながっているといっても、電力供給力に常に余裕を持つのは難しいのです。


ドイツ・・・2000年と2010年では電気料金が1.8倍に上昇している・・・FITによる再エネ賦課金は大きな伸びを示しており、2014年には6.24セント/kWhと前年比約18%も上昇、平均的家庭の負担が年3万円程度にもなっています(p57)

電力不足は想定の内のはず

電力会社からすれば、これまで地域独占で電力の供給責任を負っていましたが、電力自由化によって市場メカニズムによって電力の安定供給を保障するのであれば、それに従いましょう。利益のでない発電所は廃止するしかないというロジックです。


実際、東京電力の発電部門と中部電力の発電部門を統合したJERAは、高コストで利益を生まない石油火力の廃止・LNG焚コンベンショナル発電火力の廃止を進めており、これが東京電力管内での供給力不足の原因となっています。


2011年の東日本大震災による東京電力福島第1発電所の炉心溶融によって、経済産業省の東京電力支配と電力自由化が進みました。電力自由化して再エネ買取制度を導入すればどうなるかは、業界の関係者、つまり電力関係者、政治家、官僚、学者は当然ながら知っていたことなのです。したがって、現在の電力不足となっているのも想定の内のはずです。


マスコミの皆さんはこうした現実を直視していただき、日本のためになる現実に即した報道をしていただきたいと思います。竹内さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・再エネの平均的稼働率は太陽光で10%、風力で20%程度です・・・あるときは100で、次の瞬間ゼロということもありますので、その発電に合わせて人間がコントロールできる火力発電が必要です(p60)


・今まで原子力発電によってまかなっていた電力量を火力発電で補うためには、追加の燃料費が年間3.6兆円程度必要となるのです。国民ひとりあたり約3万円の負担増、電気料金は約2割上昇(p169)


・基本的に競争がない公益事業である電力会社の発想は「チャレンジは失敗のもと」「だからやらない」になりがちでした・・・全面自由化されれば、消費者も「新しいサービスを試す」「電力会社間を比較する」などの行為を活発に行うことで、電力会社もチャレンジせざるを得ない環境に追い込まれることでしょう(p218)


▼引用は、この本からです
「誤解だらけの電力問題」竹内 純子
竹内 純子、ウェッジ


【私の評価】★★★★☆(81点)


目次

序 エネルギー政策の理想と現実
第1部 エネルギーに関する神話
第2部 エネルギーに関する基本
第3部 電力システムの今後
補論 電力システムと電力会社の体質論



著者経歴

竹内純子(たけうち じゅんこ)・・・NPO法人国際環境経済研究所理事・主席研究員、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会委員、21世紀政策研究所「原子力損害賠償・事業体制検討委員会」副主査。慶応義塾大学法学部法律学科卒業。1994年東京電力入社。2012年より現職。


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