元東京電力社員が考える「原発は『安全』か: たった一人の福島事故報告書」竹内純子
2021/01/24公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★☆☆☆(68点)
要約と感想レビュー
東京電力は必要最低限の安全対策
元東京電力社員であり、2011年の福島原発事故の後に東京電力を脱出した竹内さんによる福島原発事故の調査報告書です。技術系の方ではないのですが、聞き取り含めて福島原発事故について、よく調べていると思います。
東京電力の原子力部門のスタンスは、原子力安全委員会の指針を守っていれば問題ない。だから必要最低限の安全対策に留めて、できるだけコストダウンするというものでした。例えば、「外部電源は2回線以上」と指針にあるので、福島第一原子力発電所の送電線は2系統あるのですが、なぜか変電所は新福島の1箇所だけ。バックアップするために「外部電源は2回線以上」と決めているのに、なぜ変電所が1箇所なのか。東日本大震災では新福島変電所が損傷し、福島第一の外部電源がなくなってしまったのです。3回線の外部電源を持っている火力発電所を見たことのある私には、東京電力の設備構成を理解できません。
さらに、安全審査指針では、長時間の全電源喪失事象を「想定する必要なし」としていました。安全審査指針に書いてあるとおりにコストダウンを進めていたのが東京電力だったのです。国の設計指針を作成した人も断罪されるべきなのでしょう。
従前の設計指針では「外部電源は2回線以上を設置」としか定められていなかったが、これが各々独立した系統(1つの変電所または開閉所のみに連系しているものではないこと)であることが求められるようになった(p156)
東京電力には2度チャンスがあった
また地震、津波についても神様は国と東京電力に何度も事故を防ぐチャンスを与えています。2001年の同時多発テロにより米国では原発の全電源喪失への対策が打たれており、本来なら日本も対応するべき状況でした。
また、2007年の中越沖地震によって東京電力柏崎刈羽原発に被害を与え、変圧器周りで火災が発生しました。2008年頃の東京電力の社内文書で15.7mの津波の可能性が記載され社内で対策の有無・必要性が検討されていたのです。国と東京電力はこうしたチャンスをすべて自ら逃していたのです。
2001年の同時多発テロ事件をきっかけに、アメリカでは福島で行われたような消防車による注水や仮設バッテリーによる水位計や安全弁の機能回復、仮設圧縮機による格納容器ベント等、全電源喪失に対して有効となる対策が整備された・・・保安院では、我が国ではテロの危険性が低いであろうとの考えや、機密情報の管理の観点から検討は進まなかった(p131)
東北電力は必要最大限の安全対策
本書では表面的な事実を羅列するのみですが、やはり東京電力の原子力部門には国の設計指針さえ守っていれば「異常に巨大な天災地変」により事故が起こったとしても1事業所当たり1200億円を賠償すればあとは国が面倒を見てくれると安心していたように見えます。
一方地元の東北電力の女川原子力発電所を見れば、敷地高さは15mと高く、津波の引き潮を想定して取水口は掘り込み、電源系統も3系統準備されている。コスト度外視でどうすればより安全になるかを考えているようにしか見えないのです。
東京電力から東北電力の女川原子力発電所を見れば、国の設計指針を超える安全対策を行っており迷惑と思っていたことでしょう。しかし神様は東京電力にこの事故を与え、東北電力の女川には敷地ギリギリの津波を与えたのです。
当時の1Fの設計想定であった約6mの津波を大きく超える津波が発生する可能性について考慮すべき、という指摘は以前からなされていた・・・津波への対策はとられなかった・・・再評価を超えるようなモデル計算は不確実性が大きく、専門家の多くは否定的だったことによる(p126)
東日本大震災は「異常に巨大な天災地変」ではない
東京電力は実質国有化され、発電部門は中部電力と統合され、小売、送配電も分割さればらばらにされてしまいました。東京電力からすれば、国の定めた設計指針を守っており、東日本大震災が「異常に巨大な天災地変」でないとすれば何なのか!と言いたいことでしょう。
東京電力は賢いがゆえに神様に断罪され、国に切られてしまったと私には見えます。竹内さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・今回の地震においては、送電鉄塔の倒壊、開閉所設備の損壊等により外部の送電系統から発電所に電力を供給することができなくなったが、非常用ディーゼル発電機は、点検中の1台(4号機の2台のうち1台)を除いてすべて自動的に運転を開始した(p44)
・深層防護の考え方を徹底すれば、それでも津波が建屋まで達した時にどうするかという次の一手を構築しておくべきだった。非常用発電機を同じ場所に複数設置するのではなく、1つを配電設備とともに高台に設置しておくだけで、あれほどのシビアアクシデントは防げたはずである(p124)
・内閣府低線量被ばくリスク管理WGの出した報告書では「20mSv/yを被ばくすると仮定した場合の健康リスクは、例えば他の発がん要因(喫煙、肥満、野菜不足等)によるリスクと比べても低く、放射線防護処置に伴うリスク(避難によるストレス、屋外活動を避けることによる運動不足等)と比べられる程度であると考えられる」とされているが、1mSvが安全と危険の境目であるかのような解釈が広まり、住民が帰還できない状況も生み出している(p80)
・全国の原発がほぼ2年にもわたって全基停止していた期間にも、供給力不足による大規模停電は発生しなかったが・・・火力発電のための燃料費の増加分が2013年実績で3.6兆円(1日100億円)、震災以降2015年末までの累計で14.7兆円にもなり、莫大な国富が海外に流出した(p87)
【私の評価】★★☆☆☆(68点)
目次
概論 福島第一事故はなぜ防げなかったのか―真のリスクを直視できなかった日本の原子力界
第1章 福島第一原子力発電所で何が起きたか?
第2章 原子力のリスクと安全をどう考えるか―福島第一事故の真の原因を探る
第3章 原子力発電所の安全は十分確保されたのか
第4章 これからは安全か、安心か
著者経歴
竹内純子(たけうち じゅんこ)・・・特定非営利活動法人 国際環境経済研究所理事・主席研究員。21世紀政策研究所副主幹、筑波大学客員教授。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1994年東京電力入社。2012年より現職。国立公園尾瀬の自然保護に10年以上携わり、農林水産省生物多様性戦略検討会委員や21世紀東通村環境デザイン検討委員、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会委員等を歴任。地球温暖化国際交渉や環境・エネルギー政策に関わり、国連気候変動枠組条約交渉にも毎年参加している
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