50万年気候変動の歴史「チェンジング・ブルー気候変動の謎に迫る」大河内直彦
2021/01/25公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
地球は大きな気候変動を繰り返してきた
本書は地球の古気候、つまり過去に10万年くらいの周期で氷期と間氷期を繰り返してきた気候変動の研究をまとめたものです。こうした過去の気候変動は南極はグリーンランドの氷床コア、インド洋や太平洋の海底コアなどの分析から得られたもので、すべての傾向が同じであることから事実なのでしょう。
地球は人類が大規模に地下資源を燃焼しはじめる前から、大きな気候変動を繰り返してきたのです。CO2の多い少ないによって気候変動するのではなく、その他の要因で過去の地球の気候は大きく変動してきた事実があるわけです。
地球温暖化を危惧する気候学者たちの脳裏には、こういったダンスガード・オシュガー・イベントや、ヤンガー・ドリアス・イベントの知見がある。気候はゆるゆると変化するものではない。ジャンプするものなのだ(p297)
気温が変化してからCO2濃度が変化
ここでは、ほぼ事実と考えられることと、研究者の推論とをわけて考えることが大事でしょう。事実としては次の3つです。
1.現在は氷河期の10万年程度ごとに訪れる間氷期にあり、1万年が経過していること。
2.間氷期以外にも急激に温暖化し、急激に寒冷化している期間もあること。
3.二酸化炭素・メタン濃度も気温と連動して変化しているが、気温が変化してから濃度が変化していること。
ここで注目すべきは、二酸化炭素・メタン濃度と気温は連動しているのですが、二酸化炭素・メタン濃度が増加するのは、気温が上昇するよりも後、1万9000年前よりも後なのです。つまり、二酸化炭素やメタン濃度の変動は気候変動の「原因」ではなく、気候変動による「結果」なのです。つまり、そして地球温暖化効果のある二酸化炭素を放出したことにより地球が温暖化している、ということは、あくまで研究者の推論なのです。
そもそも現在氷河期にある地球の気候が、10万年サイクルで間氷期(温暖期)を繰り返しているかも解明されておらず、数多くの研究者が太陽活動、火山活動、海洋深層水の影響、宇宙線強度の変動など、いくつかのモデルを提案しています。地球の気候変動の現認については、推測の域を出ておらず、300年前の小氷期でさえ解明されてはいないのです。
1970年代には地球が寒冷化傾向にあり、氷河期が来るのではないか、という漠然とした不安が蔓延しました。現在の地球温暖化問題は科学ではなく、1970年代の地球寒冷化問題と同じように漠然とした不安により推進されてきたのです。
1970年代前半に流布していた地球は寒冷化していくという考えは、すでに間氷期が1万年近くつづき、そろそろ次の氷河期に向かう頃ではないか、という漠然とした危惧が背景にあった(p327)
恐怖の推論をもとに保険をかけるのか
著者は本書の最後に、最近の研究の結果、温室効果ガスが、地球温暖化を引き起こしていると「ほぼ」確かなものになった、と結論づけています。なぜ、「ほぼ」なのか。それは著者が、地球温暖化が一部研究者の推論であることと、地球がこれまで温暖化と寒冷化を繰り返してきた歴史を知っているからです。
したがって、万が一のことを考えて「保険」をかけたいということなのでしょう。つまり、著者は人類が、なんらかの理由で地球温暖化が進んでいる中で、人類が赤外線を吸収するガスを大気に加えることで、地球の気候をもて遊んでいること自体が問題、という考え方なのです。
私には、地球温暖化に関わる関係者が、恐怖の推論をもとに保険をかけること、推論により政治的な運動により国家の税金を動かそうとしていることが問題ではないかと感じました。大河内さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・気候変動のからくりの理解なしには、いくら高速のコンピューターを使ってシミュレーションしたところで、数字合わせが関の山だ(p6)
・最終氷期のもっとも海面が低かった時代、すなわち氷床がもっとも大きく成長していた時代は、1万9000年前に突然起こった氷床の融解によって終焉を迎える。このときの海面上昇は、15メートルにも及ぶものであった(p71)
・南インド洋の海底コアに記録された過去50万年にわたる酸素同位体記録をスペクトル解析した結果、インブリーらは、その中に10万6000年、4万3000年、2万4000年、1万9000年という、ミランコビッチ理論の周期とぴったり一致する周期を見出した(p106)
・大気から降ってくるエアロゾル粒子の量が、氷期にはグリーンランドも南極もともに、1~2桁も大きかった・・・現在に比べて、氷期の大気は桁違いに埃っぽかったのだ(p266)
・グリーンランドで採取された3本のアイスコア中に見られるヤンガー・ドリアス・イベント。いずれの場合も、ヤンガー・ドリアス期の開始時(1万2900年前頃)と終了時(1万1500年前頃)には、酸素同位体比の急激な変動を示している・・・終了時の温暖化は、わずか100年足らずで起きている・・・その4パーミル近い同位体比の急上昇は、6℃近い気温の上昇に相当する(p283)
・15世紀初めから19世紀終わりにかけては、北半球ではその前の時代に比べて、わずかに0.2℃ほど低い。これが小氷期である・・・興味深いことに、この小氷期の中でも、もっとも寒かった17世紀中頃は、太陽の表面にできる黒いしみ、すなわち太陽黒点の数が顕著に減少した時代とよく一致している・・・紫外線放射の減少の二次的な影響、火山活動の活発化にともなうエアロゾルの増加、深層水形成量の低下、宇宙線強度の変動など、いくつかの可能性が模索されている(p316)
・地球温暖化問題には、倫理的な側面がある・・地球温暖化とは、大気という共有財産に、いわばゴミを捨てていることに起因している。この展に関して、1987年にブロッカーが発表した、ある論文中のフレーズが的を得ている。・・・過去100年間に人類が放出した温室効果ガスが、地球温暖化を引き起こしていると、われわれが証明できないという事実は、さして重要なことではない。むしろ赤外線を吸収するガスを大気に加えることにより、われわれの気候に対して、ロシアン・ルーレットで遊んでいること自体が問題なのだ(p343)
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
第1章 海をめざせ!
第2章 暗号の解読
第3章 失われた巨大氷床を求めて
第4章 周期変動の謎
第5章 気候の成り立ち
第6章 悪役登場
第7章 放射性炭素の光と影
第8章 気候変動のスイッチ
第9章 もうひとつの探検
第10章 地球最後の秘境へ
第11章 気候が変わるには数十年で十分だ
第12章 気候変動のクロニクル
第13章 気候変動のからくり
著者経歴
大河内直彦(おおこうち なおひこ)・・・1966年、京都市生まれ。独立行政法人海洋研究開発機構生物地球化学研究分野・分野長。専門は生物地球化学。クロロフィルやアミノ酸など各種有機化合物を用いた、過去および現在の地球環境の解明法の開発とその応用。
気候変動関係書籍
「異常気象の正体」ジョン・D.・コックス
「チェンジング・ブルー気候変動の謎に迫る」大河内直彦
「地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来 」横山 祐典
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