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「異常気象の正体」ジョン・D.・コックス

2020/07/13公開 更新
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【私の評価】★★★☆☆(76点)


要約と感想レビュー

 最近、地球温暖化についての本を読み込んでいます。異常気象といえば大雨や台風などを心配している人もいるようですが、科学者が恐れている異常気象はそんなものではありません。短期間に急激に温暖化するのではないか、または急激に寒冷化するのではないか、というリスクです。


 なぜなら、過去に地球の気温は大きく変動してきたからです。グリーンランドの氷床を掘削して分析してわかっていることは、過去25万年にわたって地球の気温は大きく変動しており、それは気温が現在より10℃も低いうえに、短期間に上下するという過酷なもの。いわゆる氷河期です。


 対照的に、現代は氷河期の間の束の間の暖かい時代であり、間氷期と言われているのです。最近8000年だけが不自然なくらい気温がプラス・マイナス1度くらいの範囲で安定しているのです。ここ8000年気温が安定しているのは、特異な現象なのです。


・1992年のその夏、現実が認識された瞬間は生々しい感触があった・・・「ある限界を超えると、世界のほどんどの地域の気候は寒い時代から暖かい時代へ、急速に変化した。これはつまらない心配事ではなかった。われわれの文明はこれほどの規模の、または速度の気候変動をこれまでに経験したことはないのだ」(p150)


 科学者が恐れている異常気象は、氷河期に発生しているような気温が5℃も10℃も上下する異常気象です。何かをきっかけに気温が5℃も10℃も上下するのか、そのメカニズムはよくわかっていません。何をきっかけに氷河期に戻るのかさえ、科学者はよくわかっていないのです。


 わかっているのは、間氷期は1万年程度で終わっていること。そして現在が前の氷河期終了から1万年ということだけなのです。10万年の氷河期と1万年の間氷期というサイクルを考えれば、いつ間氷期が終わってもおかしくない時期に私たちは生きているのです。


・キャンプ・センチュリーのコア、ダイ3のコア、スイスの湖沼堆積物、デンマークはじめスカンディナビア各地の花粉分布図はいずれも同じことを物語っていた。地球の気候は1万4700年ほど前に突然、氷期から抜け出した。それから、同じくらい唐突に、わずか2000年ほどのちに、気候は1000年はそこら氷期のような状態に舞い戻った。その後、気候条件は急に回復し、徐々に温暖化が始まって、過去1万年間のような比較安定した状況になっていった(p82)


 京都議定書が採択されたのは、1997年ですので、グリーンランドの氷床のデータから氷河期の気候の大変動がわかってきた時期です。推測できるのは、当初地球温暖化を強調していたのですが、場合によっては急激な地球寒冷化する可能性も見えてきたことから、最近は「温暖化」という表現を「気候変動」という表現に変えてきたと考えられるのです。


 さらに、氷河期の気温の大変動をモデル化して完全にシミュレーションできる理論は存在しません。現在のシミュレーションも本当に正しいのかIPCCは確約していません。現在、地球温暖化への対策が議論されていますが、今すべきことは過去の事実と推測を分けて考えるべきなのでしょう。仮に10年後に温暖化したとしても、その原因が人間の活動だとは証明できないし、10年後に寒冷化したとしてもその原因は自然変動なのかもしれないのです。


 現在の技術で予測不可能とされる問題に対して、ある仮説を前提に政治的判断を行うのは合理的ではないように感じました。コックスさん、良い本をありがとうございました。



この本で私が共感した名言

・グリーンランドには、11万年分以上の降雪が3キロ以上の厚さの連続した層となって積もっている。科学者はこの氷床に、リンゴの芯をくり抜くように穴を開けて、円筒形の資料を抜き取る方法を考えた。1990年なかばに彼らが採取した試料は、それまで知られていたなかで最も明確な気候の記録となった(p9)


・なぜ気温が急に下がると、氷期が始まってそれが何万年もつづくこともあれば、そうでない場合もあるのだろう?・・・ダンスガードは問いかけた・・・地球の軌道周期は、北方の地域で太陽光が弱くなる時代に再び移行しはじめていると、彼は述べた・・・日射の条件がそうした展開に有利にはたらけば、それによって大規模な氷河作用が引き起こされるのだろうか?現在の人類の活動は、そうした偶発的な出来事に相当するだろうか?(p76)


・コンピューター・モデル開発者は、ジョンセンがでたらめさを表現した問題に、長年のあいだ取り組むことになった・・・中世温暖期のあと〈小氷河時代〉が訪れ、その間、アイスランドはたびたび海氷に囲まれていたのだ。寒冷な時代のあとには温暖化が起こり、やがて急激に気温が上昇して1920年には最高潮に達した・・「あまりにも突然で、温室効果の増加では説明がつかないほどだ」(p156)


・キャンプセンチュリーの氷床コア・チームは・・・西暦1200年までさかのぼった安定同位体の変動から、2400年、400年、181年、および78年の周期で振動があることがわかる、と彼らは書き、これらの周期はいずれも「太陽の条件が変化することから生じているようだ」とした(p91)


・1976年に、シャクルトンとジョン・インブリー、およびジェームズ・D・ヘイズは・・・地球に達する太陽光の強さに最大の影響をおよぼす周期、つまり2万3000年と4万1000年ごとの周期がともに、過去50万年間の気候変動のうちの約35%の原因となっていた、彼らは概算した・・・かたや、主要な10万年ごとの周期は、過去の気候変動のうち、ゆうに50%と関連づけられていた・・・(p100)


・2002年に、イギリスの自然環境研究会議がまとめた中間報告書は、「寒冷化が一気に進めば、農業、漁業、産業および住宅問題にとって大惨事となりうる」と、指摘した。もっと、イギリスの別の研究は次のように述べているが。「大規模な海流循環の変化が生じうる可能性も時期も、それがどんな影響をもたらすかも、まだ確実に予想することはできない」(p234)


▼引用は、この本からです

ジョン・D.・コックス、河出書房新社


【私の評価】★★★☆☆(76点)


目次

アイスミッテ―過去をのぞく窓の発見
ヤンガー・ドライアス―人類の進路を変えた気候大変動
基盤岩―極氷を貫いて
氷を口説く―極氷を分析する科学の誕生
「六九通り」―今昔の氷河時代の理論
不安定さ―「寒くなって、彼らは死んだ」
収束―急激な気候変動を理論づける
決定的瞬間―サミットの氷に刻まれた「地球規模」の変化
堆積物―世界各地で見つかる急激な変動の証拠
ノンリニアリティ―「原因よりも速く」いかに変わるのか
完新世―文明の揺籃を揺るがした気候の暴走
驚き―不確かな気候のもとに暮らして



著者経歴

 ジョン・D.・コックス(John D. Cox)・・・科学と政治分野を専門に、40年以上のキャリアをもつベテラン・ジャーナリスト。マサチューセッツ工科大学のナイト科学ジャーナリズム・フェローとして地球科学を学ぶ


気候変動関係書籍

「異常気象の正体」ジョン・D.・コックス
「チェンジング・ブルー気候変動の謎に迫る」大河内直彦
「地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来 」横山 祐典


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