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電力業界の未来「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」

2021/01/28本のソムリエ メルマガ登録
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「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」


【私の評価】★★★★☆(88点)


内容と感想

■化石資源のない日本において
 エネルギーをどうするのか
 ということは国家の命運を決めると
 いって間違いはないでしょう。


 電化率25%の日本においては
 エネルギーの半分を電力の形で
 消費していることになり、
 特に「電力」が重要です。


 電力業界では
 2012年の再エネ固定価格買取制度、
 2016年の電力の全面自由化、
 2018年の非化石価値取引市場、
 2019年のベースロード市場、
 2020年の送配電部門の法的分離、
 2020年の容量市場入札(4年後分)
 と大きな改革が進みました。


 過去の総括原価と地域独占による
 電力会社の供給責任はなくなり、
 市場メカニズムに移行しました。


 2020年末には、寒波とLNG在庫減少により
 電力市場価格が高騰。市場では価格が
 需給により変動するのが当然とはいえ、
 関係者に衝撃が広がりました。


 この本は3年前に書かれたものですが、
 現在の電力業界の改革の実情を
 よく反映しており、電力業界の未来を
 考える良書となっています。


・自由化してからしばらく経つと国全体として発電設備量が不足する可能性があります・・・再エネの普及により従来型電源は雲天や風が吹かない時のみ発電することを求められる都合の良い存在となるからです・・独や英などでは火力電源の廃止が続き、規制機関が事業者に対して、発電設備を維持することへの対価を支払う制度を導入・・(p19)


■本書のUtility3.0へのゲームチェンジ
 の意味は、現在の電力改革の方向性と
 同じで、kWh市場(卸電力市場)、
 kW市場(容量市場)、△kWh(調整力公募)
 を進めるということです。


 これにより需要側で使用電力を調整したり、
 電気自動車のバッテリーを電力貯蔵に
 活用することに対価を支払う仕組みが
 作られることになるのです。


 もちろん現在、電力市場に参入した
 新電力会社は4年後から支払いの始まる
 容量市場の容量拠出金を支払うことで
 支出が増え経営は行き詰まるでしょう。


 しかし、これはこれまで支払うべき
 発電設備を維持する費用を支払わない
 フリーライドだったことが明確に
 なっただけなのです。


・分散型電源だけでは電気の質を保つことができません。電気は、需要と同量の発電が常に必要なので、いざという時に備えて生産設備(kW:発電設備容量)を維持しておくことや需要の変動に機敏に対応して調整する力が必要です・・・kWあるいは調整力の対価が収入の中心になるような仕組みを整備する必要があります(p24)


■電力業界の自由化によって
 電気の品質は下がり、
 FIT賦課金の上昇も相まって、
 電力の価格は欧米のように
 上昇していくことでしょう。


 しかし、これらは市場を作った欧州を
 見ていれば既にわかっていることで
 想定の範囲内です。


 そうした混乱を織り込んでも、
 市場による自由競争で電力業界を
 変えていくことを選択したのでしょう。


 混乱の後に、これまで総括原価のもとで、
 電力の安定供給第一に進めてきた電力業界が、
 新しい形に落ち着くものと考えます。


 なお、本書で「原子力は電力自由化と
 「食い合わせ」が悪い」との記載があり、
 もっともだと思いましたが、食い合わせの良かった
 総括原価の中でも原子力の安全に必要最低限の
 投資しかしてこなかった電力会社があることを
 著者の東京電力関係者3名は
 どう考えているのでしょうか。


 竹内さん
 良い本をありがとうございました。



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この本で私が共感した名言

・総括原価方式でコストの回収が確保されていた時には、1年間に数十時間しかない、最も多くの電気が使われるタイミングでしか稼働しないような発電所であっても、電力会社は維持してきました(p19)


・自由化された市場では投資回収が不確実になる上、原子力は特に政治や規制の方針変更の影響を強く受ける、一旦事故を起こせば事業者は「即死」に近い状況に追い込まれるといった事業リスクが高く、資金を調達することが非常に難しくなります(p26)


・日本でFIT(再エネ固定価格買取制度)が施行された当時、先行してFITを導入していた欧州では、PV(太陽光)の買取価格は日本円換算で20円/kWh前後まで下がっていました。それにもかかわらず、その倍近い40円/kWhでFITをスタートさせた、当時の日本政府の判断は、不可解なものでした(p49)


・仮に全国で4000万台普及した電気自動車の蓄電容量のうち、50%をTSO(送電系統運用者)が自在に活用できるとすると、必要なkW価値の半分近くが蓄電技術により提供されることになります(p101)


・P2G(Power to Gas)で製造した水素による発電は、電力→水素→電力とエネルギー変換ロスが二重に生じるため、元来非効率(40%程度)です(p104)


・パナソニックは電力会社よりも数百倍高く電気を売ることに成功しています・・・電力会社の電気代は、1kWhあたり高くてもせいぜい30円前後・・・電池に入っている電気は1万円以上で売れるわけです(p81)


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▼引用は、この本からです
「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」
竹内 純子, 伊藤 剛, 岡本 , 戸田 直樹、日本経済新聞出版


【私の評価】★★★★☆(88点)


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目次

第1章 電力の未来を読み解く
 1 選択できる未来――2つのストーリー
 2 2050年のエネルギー産業――理解しておくべきポイント

第2章 世の中のあり方が変わった
 1 Depopulation――人口減少
 2 Decarbonization――脱炭素化
 3 Decentralization――分散化
 4 Deregulation――自由化
 5 Digitalization――デジタル化

第3章 ゲームチェンジ
 1 エネルギー小売業界の変革
 2 「限界費用ゼロ」時代の発電ビジネス
 3 原子力に未来はあるか?
 4 ネットワークとUtility3.0


著者紹介

 竹内 純子(編著)・・・NPO法人国際環境経済研究所 理事・主席研究員、筑波大学客員教授。1994年慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力入社。尾瀬の自然保護や地球温暖化など主に環境部門を経験。2012年より現職。政府委員も多く務め、エネルギー・環境政策に幅広く提言活動を行う。


 伊藤 剛(著)・・・アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 素材・エネルギーグループ 統括マネジング・ディレクター。2000年東京大学法学部卒業後、大手シンクタンクを経て、2012年よりアクセンチュア。主に制度設計、企業・事業戦略、組織設計、マーケティング・営業戦略、新規事業立案等の領域で経験を積む。


 岡本 浩(著)・・・東京電力パワーグリッド 取締役副社長。1993年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了後、東京電力(現東京電力ホールディングス)入社。2015年より同社常務執行役経営技術戦略研究所長。2017年より現職。


 戸田 直樹(著)・・・東京電力ホールディングス 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室 チーフエコノミスト。1985年東京大学工学部卒業後、東京電力(現東京電力ホールディングス)入社。2009年電力中央研究所社会経済研究所派遣(上席研究員)。2015年同社経営技術戦略研究所経営戦略調査室長。2016年より現職。


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