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「ブラックアウト 迫り来る電力危機の正体」井伊 重之

2022/12/09公開 更新
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「ブラックアウト 迫り来る電力危機の正体」井伊 重之


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

電力供給余力が減っている

電気料金値上げの報道を見て、購入してみました。電力業界についての書籍は少ないので、貴重な一冊です。電力危機の定義がはっきりしていませんが、原発が停止している中で、電力自由化政策で市場競争を加速させたため利益のでない老朽火力が廃止され供給余力が減ってきているのは事実です。


2021年1月、西日本地域を中心に電力需給が逼迫した原因は、発電所のトラブルや寒波の影響もありますが、新電力にシェアを奪われることで電力会社が需給予測が難しくなってきていることが大きい要因です。そもそも購入に数か月の時間が必要なLNGの在庫が、火力発電所に2週間分しかないのです。この少ないLNGで発電所のトラブルや天候による再エネの発電量変動を調整しようというのが間違いなのでしょう。


さらに原子力発電所がほとんど停止しているため、ベースロードを支えている石炭火力も新規建設がストップしています。再エネの大量導入によって、石炭火力でさえ昼間は太陽光の発電量の分だけ出力を下げて、夕方から最大出力を出すようになっています。このような予測困難な需給状況の中で、電力系統を常に安定されられるのか不安になります。


2021年1月、西日本地域を中心に電力需給が逼迫した際、経産省が電力会社が利用者に対して「節電」という言葉を使うことを認めようとしなかったということが紹介されています。経産省が、電力会社をコントロールしていることがわかります。


(経済産業省)同省は一貫して節電要請には慎重な立場を示してきた・・・逼迫警報を初めて発令することで、これまで同省を挙げて進めてきた電力自由化が「失敗した」との批判を避けたいという思惑がそこにあったのではないか(p24)

サハリン2LNGは日本の輸入量の1割

興味深かったのは、ロシアに没収された「サハリン2」の権益についての日本の反応でしょう。ウクライナに侵攻したプーチン大統領はLNG開発事業「サハリン2」の権利を新たに作る新会社に移管すると一方的に宣言しました。


27.5%出資していた英シェルは撤退を表明。ところが日本の三井物産、三菱商事は新会社への出資を決めたのです。私は三井物産らしくないな、と不思議に思っていましたが、経済産業大臣からの要請によるものだったようです。政治家から国家の意思として強い要請を出せば、それを拒否するのは民間企業には不可能でしょう。「サハリン2」の600万トンは日本の輸入量の1割弱。これが大きいのか、どうなのかということです。


そういえば、昨年東京電力と中部電力の発電部門を統合した「JERA」が、カタールとの550万トンのLNG長期契約を更新しませんでした。こちらのほうが日本国にとって重要な問題のように感じます。こちらには介入しないのですから、日本政府はどこかで方針転換したのか、それとも何か別の背景があるのでしょうか。


サハリン2・・・三井物産などの大手商社は、新会社への出資に対して慎重な姿勢を示していた・・・萩生田光一経産省が三井物産に新会社への出資を直接要請した(p141)

エネルギーの安定供給が危機にある

今年、中国電力や東北電力は2000億円の赤字を予想しています。燃料費の上昇に対し、燃料費調整制度の上限に到達したために、電気料金を上げることができないからです。来年4月から規制料金の値上げを申請しているという。


2021年に中国で石炭価格が上昇し、電力価格が規制されていたため発電すると赤字なので輪番停電が発生しているという報道がありました。さすが中国は現実に合わない規制をするなど残念な国だと馬鹿にしていましたが、日本も同じだったのです。日本国が中国と違うのは、電力会社が赤字でも電力を供給しているということだけなのです。中国人と日本人の国民性の差が、ここに現れているのでしょう。


著者が言うように、最近のエネルギー政策は環境性にばかり重点が置かれ、一番重要な安定供給が蔑ろにされてきたのです。定性的な表現が多く、図表が少ない印象でしたが、よく取材されていると思いました。評価としては★4とします。井伊さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・スタート時点の2012年度の事業用メガソーラーの買い取り価格は、1キロワット時あたり40円・・・せいぜい20円台後半だろうと予想していた・・と関係者が口を揃える(p109)


・経産省は電力自由化で新電力に市場参入を促し・・電力会社に対して卸取引所に余剰電力を限界費用(燃料費)で供出するように求めた・・・自ら発電した電力を取引所経由で安く購入した新電力により、自分たちの顧客を奪われる構図となった(p66)


・(原発の)規制委員会は「標準処理期間は2年」としている。だが、実際は審査期間が10年近く・・規制委が発足した当時は「安全審査は半年程度」とされていた(p192)


・特重施設の完成遅れによる原発停止・・・自民党幹部は「・・米国で同じような規制を講じれば、当局は損害賠償を請求されるだろう」と指摘する(p235)


▼引用は、この本からです
「ブラックアウト 迫り来る電力危機の正体」井伊 重之
井伊 重之、ビジネス社


【私の評価】★★★★☆(83点)


目次

第1章 首都圏が震えた日
第2章 迫り来る電力危機の正体
第3章 再生可能エネルギーの蹉跌
第4章 世界で加速するエネルギー危機
第5章 原発を活用するには
第6章 ブラックアウトに備える



著者経歴

産経新聞東京本社論説委員室論説副委員長。産経新聞グループ入社後、経済部で経済産業省、外務省、国土交通省、財務省などの官庁のほか、自動車・電機、鉄鋼・化学、エネルギーなどの民間業界を担当。入社以来、ほぼ一貫して経済関係を取材している。経済部次長、副編集長を経て2009年10月から論説委員(経済・エネルギー担当)。2022年7月から現職。このほか、政府税制調査会(内閣府)、産業構造審議会(経済産業省)、社会資本整備審議会(国土交通省)などの委員も兼務している。


電力業界関係書籍

「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」
「ブラックアウト 迫り来る電力危機の正体」井伊 重之


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