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「フクシマのあとさき―複眼的エネルギー論」山地 憲治

2021/03/01公開 更新
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「フクシマのあとさき―複眼的エネルギー論」山地 憲治


【私の評価】★★★★☆(82点)


要約と感想レビュー

民主党はFITを高価格買取りに変えてしまった

著者は再生可能エネルギー買取制度(FIT)成立に新エネルギー部会の部会長として関わりました。著者の審議会では、一律価格での買取を提案していたのだという。つまり、コストの安い再生可能エネルギーから優先して導入していくということです。ところが東日本大震災が発生し、FITが菅首相が辞める3条件の一つとして政局化する中で、民主党は原価プラス利潤という高価格での買取りに変えてしまったのだという。


著者は民主党が国内メーカーを支援するためにこうした高価格で買い取る方式を選んだが、それは海外メーカーとの競争を考えれば甘い判断だ、と断定しています。(実際、太陽光パネル国内生産は20%弱)私は欧州で電気料金が2倍となる要因となったFITが、なぜ日本に導入されたのか疑問でしたが、民主党の短絡的な判断の結果だったのだ、と納得しました。


・FIT法案は、東日本大震災の当日の午前中に閣議決定された。その時の審議会案では、再生可能エネルギー発電の電気の買取価格は、先行して余剰買取が始まっていた住宅用太陽光以外は一律価格とするという提案をした。ところがその後、国会で当時の菅首相が辞める時の3つの条件の一つがこの法律ということになって慌ただしい審議が行われたが、結局同年8月末に法律が成立した時には買取価格の決定方式は全く異なるものになった・・・原価プラス利潤で買うということになった(p30)


電力システム改革は電力業界への憎しみによるもの

印象的だったのは、東日本大震災後の電力全面自由化や送配電会社の法的分離、電力卸市場の整備といった電力システム改革の理由が原子力事故を起こした東京電力と電力業界への憎しみによるものと批判していることです。ただでさえ再生可能エネルギー買取制度によって太陽光や風力が大量導入され、電力系統が不安定になる中で、電気の安定供給を新たな電力市場に頼ることには大きなリスクがあると警告。


著者は「電力業界の弱体化を契機に政治経済的利害の力学が働いた」とも書いています。5年前に書かれた本ではありますが、利害や感情で決定された電力システム改革は安価で安定した電力の供給を殺すと予言している点は注目したいと思います。


・事故を起こした東京電力を憎み、原子力を推進してきた電力体制を変革したいという心情は理解できなくもない。また、電力業界の弱体化を契機に政治経済的利害の力学が働いたとみることもできる。しかし、利害や感情のような動機による電力システム改革だとしたら、角を矯(た)めて牛を殺すことになるだろう。(p78)


再エネ賦課金が電気量料金を上昇させている

著者は地球温暖化について、温室効果ガスの排出→大気中濃度の上昇→気温上昇→温暖化による被害という因果連鎖の間には、それぞれ科学的不確実性があるとしています。しかし、政治主導による地球温暖化対策の政策決定において、科学的不確実性への考慮がないことを批判しています。


つまり、温室効果ガスを減らすために、これだけ高い買取価格にすることで、電気料金に上乗せされる賦課金が増えて電気料金がってよいのか、問題視しているのです。この不確実な温室効果ガスと地球温暖化を理由に、確実に電気料金を高くして、日本国の経済成長を低下させることが問題なのです。


著者は東京大学から電力中央研究所に就職、その後、東京大学教授、地球環境産業技術研究機構の理事としてエネルギー関係の審議会に参加しています。そういう点では電力業界寄りである点は補正して読む必要があるのでしょう。山地さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・必要な時に要求される出力を出せる能力をkW価値というが、風力や太陽光はkW価値がほとんどない・・・風力にkW価値がないので火力設備は削減できないが、風力が優先的に電力供給を行うので火力の設備利用率は下がる。しかも、風力が出力している時は限界費用が低下するので卸電力料金が低下する。これでは火力の経済性は大幅に低下し設備を維持するインセンティブが失われる(p32)


・地球温暖化は現象としては観測されているが、それが人為的な原因によるものかについては、今回のIPCC報告でも「可能性が極めて高い」と記述されるにとどまっている(p81)


・スマートメーターを通して電力需給状況に対応した料金を提示すれば、需要家に対して、きめ細かく時間帯ごとの需要を調整するインセンティブが生まれる(p191)


▼引用は、この本からです
「フクシマのあとさき―複眼的エネルギー論」山地 憲治
山地 憲治、エネルギーフォーラム


【私の評価】★★★★☆(82点)


目次

序論 エネルギーミックスと地球温暖化対策
第1部 エネルギー・環境政策について
第2部 「学術と社会」に関する考察
第3部 旅の中で考えたことなど
エピローグ デマンドサイドへの期待



著者経歴

山地憲治(やまじ けんじ)・・・地球環境産業技術研究機構理事・研究所長。1950年生まれ。1977年東京大学大学院修了、工学博士。同年、電力中央研究所入所。その後、米国電力研究所客員研究員、電力中央研究所・エネルギー研究室長等を経て、1994年東京大学教授、2010年より現職


再生可能エネルギー関係書籍

「フクシマのあとさき―複眼的エネルギー論」山地 憲治
再生可能エネルギーの真実」山家公雄子
「エネルギー・シフト」再生可能エネルギー主力電源化への道」橘川 武郎


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