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「「エネルギー・シフト」再生可能エネルギー主力電源化への道」橘川 武郎

本のソムリエ 2021/08/27メルマガ登録
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「「エネルギー・シフト」再生可能エネルギー主力電源化への道」橘川 武郎


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

 経産省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で「エネルギー基本計画」が議論されていましたが,再エネ比率を22~24%から36~38%に引き上げて,原子力は従来の20~22%のままとする案に,著者の橘川(きっかわ)さん一人だけが反対していたので,橘川さんの本を探して読んでみました。


 橘川さんが「エネルギー基本計画」(案)に反対する理由は,原子力の20%に根拠がなく,再エネ比率36%にも根拠がなく単なる数字合わせであり,燃料の購買といった実態経済に影響を与えてしまう可能性があるからです。


 確かに現状でも不安定な再エネをバックアップするLNG火力の燃料タンクが半月分の在庫しかなく、ギリギリの調整を強いられている状況で,再エネ比率36%を既設火力でバックアップできるかどうか確証はないし,原子力の20~22%も再稼働が順調に進み,すべて高稼働する前提でぎりぎり達成の数字なのです。


 経産省の事務局が作成する「エネルギー基本計画」(案)への著者の印象は,再生可能エネルギー主力電源化と言いつつも,再生可能エネルギーの問題点として高コスト,系統制約,調整力の不足などを指摘しており,主力電源化を本気で推進する気がないのではないかと疑っています。


 その問題点は、事実なのでしょう。今後議論される炭素税率にもよりますが,このまま再エネ導入を続けていけば,電気料金がドイツのように2倍になってしまう可能性があるからです。


・再生可能エネルギーに関する第5次エネルギー基本計画のとらえ方・・・指摘されている問題点は,FIT制度による国民負担の増大,系統制約の顕在化,調整力の不足,設備廃棄への懸念,将来的な再投資への不安など(p19)


 では,橘川さんならどうやって再生可能エネルギー主力電源化を実現化するのでしょうか。


 まず,FIT制度(再生可能エネルギー 固定価格買取制度)はあくまで最初の弾みをつける仕組みであり,価格も低くなってきたことからFITは廃止し、再エネは市場価格で勝負してもらいます。その代わりにボトルネックとなっている送電線建設を政策的に支援するとしています。


 また,昼間の余った太陽光の電気はデンマークの例を示して,蓄熱して熱供給に利用することを提案しています。日本では地域熱供給が普及していないので現実的ではないのですが,同じ考え方で電気温水器やエコキュートを家庭に普及させて,ピークで蓄熱運転するようにすれば実現の可能性があるのではないでしょうか。


 また,原子力については数字だけ示して道筋を議論しないのは無責任とし,目標を22%から15%にまで押し下げて,最新設備にリプレースを進めるべきと主張しています。


・デンマークを訪れ,主として地域熱供給(DH:District Heating)の最新状況について調査する機会があった・・・100℃以下の高温水による第3世代(~2020年ごろ)を経て,現在は50℃以下の低温水による第4世代に移行しつつある・・・電気が余っているときには再生可能エネで発電した電力を使って温水を作り,それを貯蔵する(p56)


 こうした橘川さんの主張を聞いていると,確かに今回のエネルギー基本計画(案)は数字だけ示して,どうやって達成するのかまったくノーアイデアで無責任に見えてきました。勝つ道筋もないのにアメリカと戦争を始めた頃と,何も変わっていないのです。


 橘川さんの現状認識については精度が高く、エネルギー関係としては参考にできる希少な一冊だと思いました。正しい現状認識の基に、FIT(再生可能エネルギー 固定価格買取制度)で無理やり導入した太陽光・風力等の不安定電源をどう尻拭いしていくのか、現実的な対策を考えてもらいたいものです。


 橘川さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・実質GDP当たりのエネルギー消費量・・・日本の数値は,英国に次いで低く,世界平均の2.5分の1である・・・日本は「省エネ先進国」(p8)


・蓄電池の低コストの見通しは立っていない・・火力発電所を再生可能エネ電源のバックアップ用に起用すると,火力発電所の稼働率低下につながり,全体的な発電コストを引き上げる(p54)


・石炭火力のウエートを国別に見ると,日本が33.2%,米国が31.0%であるのに対して,中国は67.9%,インドは74.0%に達する・・・ドイツにおいてでさえ,石炭火力のウェートは39.0%(p93)


・もし,国内において,一般供給用および自家用の石炭火力発電の規模が抑制されることになれば,電力コストが上昇するだけでなく,化学工業や鉄鋼業をはじめとして,日本の多くの基幹産業が国際競争力を失うだろう(p96)


・日本では電気の周波数が,東は50ヘルツ,西は60ヘルツと分割されている。送電広域化の流れを受けて東電パワーグリッドは,同じ周波数の東北電力の送電会社と経営統合を志向するだろう(p149)


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▼引用は、この本からです
「「エネルギー・シフト」再生可能エネルギー主力電源化への道」橘川 武郎
橘川 武郎,白桃書房


【私の評価】★★★★☆(80点)



目次

はじめに:加速するエネルギーシフト
序章 人類が直面する二律背反
第1章 「再生可能エネルギー主力電源化」と直面する課題―第5次エネルギー基本計画の検討
第2章 再生可能エネルギーをどうするか―主力電源化への2つのアプローチ
第3章 原子力発電をどうするか―カギ握る使用済み核燃料の処理
第4章 火力発電をどうするか―CCSとCCU
第5章 水素への期待―エネルギー構造全体を変える可能性
第6章 再生可能エネルギー主力電源化の担い手は誰か―ゲームチェンジャーの出現
おわりに:「再生可能エネルギー主力電源化」への道


著者紹介

 橘川武郎(きっかわ たけお)・・・現在、国際大学大学院国際経営学研究科教授、東京大学名誉教授、一橋大学名誉教授。1951年和歌山県生まれ。1983年、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て、現在に至る。その他、経営史学会会長、総合資源エネルギー調査会委員等を歴任


エネルギー関係書籍

フクシマのあとさき―複眼的エネルギー論」山地 憲治
石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門」岩瀬 昇
誤解だらけの電力問題」竹内 純子
「「エネルギー・シフト」再生可能エネルギー主力電源化への道」橘川 武郎


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