「若き数学者のアメリカ」藤原 正彦
2018/04/19公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(91点)
要約と感想レビュー
数学者の藤原 正彦さんが若き頃、米国の大学で教鞭を取ったときの思い出です。作家の新田次郎の次男だけあって自分の感情と失敗談を面白く描写してくれます。海外に出ると未知への不安と、母国を客観的に見れるために愛国心が刺激されるのはだれでも同じ。
例えば、ハワイでは真珠湾を遊覧船で回りアメリカ人の視点での解説に、「不意打ちは許せないというのは意味をなさぬ。戦争はすべて不意打ちだ」などとつぶやいています。ラスヴェガスで負け続けているのにギャンブルをし続けたことを、単に勝負に負けて悔しいというだけでなく、「アメリカ人になめられて悔しい」という思いがあったと表現しているのです。
・三島由紀夫は、ドイツのハンブルク港で、船のマストにかかる日の丸を見た時、突然涙が流れ落ちてどうしようもなかった、とどこかに書いていた。私もこの急性愛国病にかかってしまったようだった(p27)
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米国の大学は、実力主義と言われますが、実は実力至上主義のグループと実力だけではないというグループが対立しているというのが印象的でした。この実力至上主義は、ユダヤ人とともにアメリカに輸入されたという。アメリカの歴史は200年ちょっと。アメリカ文化は、移民の増加とともに変わっているのです。
日本も似たようなものですが、正規の教授ではない助教授、講師は、長期の身分の保証がありません。契約期限で雇用を延長してもらえるのかどうかわからないので、パーティなどで主任教授夫人が、若い研究者たちに取り囲まれたいへんモテるという。
・研究至上主義のAグループと、教育も研究と同等に重要であるとするBグループの二つが、事あるごとに対立を続けていたのである(p226)
試験が終わると、自分の成績に納得しない学生たちが文句に来るのに辟易しながら、未知の土地で異言語で数学を教える著者の苦労と学びが、浮かび上がってきました。どうしてこんなに正直に自分の気持ちを書けるんだろう。内観ができているのだと思います。藤原さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・昔から数学者と賭博との関係は深いらしくそもそも数学における確率論と呼ばれる分野は、トランプゲームに興味を持ったパスカルによってその発端が開かれたと言われている(p53)
・外国人は、「ひでえ」「ズラカル」「おやのこさいさい」などの言葉は、知っていた方が便利としても、自ら使う必要は全くないし、むしろ使用しない方がはるかに賢明なのである(p71)
【私の評価】★★★★★(91点)
目次
1 ハワイ――私の第一歩
2 ラスヴェガス I can't believe it.
3 ミシガンのキャンパス
4 太陽のない季節
5 フロリダ――新生
6 ロッキー山脈の麓へ
7 ストラトフォード・パーク・アパートメント
8 コロラドの学者たち
9 精気溢るる学生群像
10 アメリカ、そして私
著者経歴
藤原正彦(ふじわら まさひこ)・・・1943(昭和18)年、旧満州新京生れ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。お茶の水女子大学名誉教授。1978年、数学者の視点から眺めた清新な留学記『若き数学者のアメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞、ユーモアと知性に根ざした独自の随筆スタイルを確立する。
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