「賢者の戦略」手嶋 龍一、佐藤 優
2017/11/11|

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【私の評価】★★★★☆(86点)
テレビを見ているだけでは
見えてこない視点を
教えてくれるところがすごい。
まず、ウクライナについては、
ウクライナが西側の価値観を
共有できる国とは限らないこと。
ウクライナは国としてのまとまりが弱く、
ロシア、中国、北朝鮮などの
武器商人が出入りする
魑魅魍魎の世界らしいのです。
いずれにしろ戦略的に
日本の立場を考えなくては
ならないのでしょう。
・ウクライナが世界有数の武器輸出国・・輸出額は、アメリカが第一位で87億ドル。これは頷けます。第二位はロシアが80億ドルと僅差で続き、第三位は中国で18億ドル。ところが、その次の第四位になとウクライナが13億ドルで顔を出しています(手嶋)(p24)
■そして集団的自衛権の行使を容認する
閣議決定については、
公明党の影響から厳しい制約が
残ったという事実。
安倍内閣と米国が求めていたような
集団的自衛権の行使により簡単に
自衛隊を海外に派遣して武力行使
できるものではないのです。
宗教法人である創価学会を母体とする
創価学会が連立政権に入っていることで
外交さえ影響を受けている。
さらには、外務省にいる創価学会員は
国家に忠誠を尽くすのか、
それとも創価学会に忠誠を尽くすのか、
という疑問を提示しています。
・安倍総理が断行した最重要の人事が、内閣法制局長官の更迭です。後任には小松一郎氏を充てることだったのです・・法制局の長官は内部からというのが不文律でしたから、この人事は霞が関を驚かせました。これによって内閣法制局長官の座を奪われた旧通産省出身の官僚には、外務省OB枠の最高裁判事のポストを譲るなどして周到な布石が打たれました(手嶋)(p179)
■驚くべきことは佐藤氏が
東京地検特捜部に逮捕されていたとき、
ロシア、イスラエル、韓国などの
国々から年間5000万円程度で
リクルートされていたということ。
もちろん佐藤氏はオファーを
断りましたが、
断らない人も数多くいるのでしょう。
スパイ防止法のない日本の
現状を見る思いがして、
背筋が寒くなりました。
手嶋さん、佐藤さん
良い本をありがとうございました。
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■この本で私が共感したところは次のとおりです。
・欧米諸国はウクライナを支えるため対ロ制裁を発動した。それによってロシアはいま中国との連携に傾きつつある。今後、中ロの絆がさらに強まれば、「海洋強国」を呼号する習近平政権は、ロシア産の天然ガスを手に、安んじて東シナ海へ攻勢をかけるだろう(p5)
・欧米と日本が戦略的思考を欠いたまま、プーチンのロシアを追い詰めると、ロシアは中国とイランへ接近を強めていきます。そして、モスクワ・北京・テヘランという「新枢軸」が形成される可能性がぐんと強まります(佐藤)(p15)
・ロシア連邦軍参謀本部のGRU(情報総局)が、情報だけでなく武器の売買も担当している(佐藤)・・しかも活動費は、武器売買を通じて自前で稼ぐと聞きましたが・・(手嶋)だから彼らはものすごく潤沢な資金を持っているんです(手嶋)(p27)
・「イスラム国」が、なぜこれほど急速に勢力を拡大したのか。その裏には、「イスラム国」を利用しようとする勢力があり、彼らに資金と武器と兵士を送り込んでいる存在があるとみるべきです・・サウジアラビアと、さらにカタールの一部勢力からも援助の手が差し伸べられているとみていいでしょう(手嶋)(p69)
・イランが核を保有する事態になれば、これはインテリジェンス業界では誰もが存在を疑わない「パキスタン・サウジアラビア秘密協定」がいよいよ発動される・・つまり「イランに核兵器があるということが確認されたならば、可及的速やかにパキスタンにある核弾頭のいくつかをサウジアラビアの領域内に移転する」・・そうなれば、サウジだけではなく、アラブ首長国連邦も、カタールも、「自衛」のために核を買うでしょう(佐藤)(p87)
・日本ではホルムズ海峡を通って日本に入ってくる石油エネルギーは88%にも達していますが、アメリカは2020年にはエネルギーの需給がバランスすることになり、エネルギーの輸出国になる。アメリカと日本は、エネルギー供給の点では見事なコントラストをなしているんです(手嶋)(p103)
・中国が防空識別圏の設定を発表する三日前に、オバマ政権のスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官がワシントンD.C.で講演しました。そのなかで、彼女は尖閣諸島の主権の帰属に触れ、「アメリカ政府は、日中いずれかの立場をとらない」と明言したのです・・(手嶋)(p155)
・確かに、外務省が握っている大権は、国家条約の解釈権なるものなんですが、条約官僚は自分たちの都合で、その権力を恣意的に使い分けるんですよ(佐藤)(p187)
・創価学会っていう組織は、かつて国家権力による弾圧を受けたことがある。だから壁の内側に自分たちのエリートを送り込んで、国家権力の内在的論理がわかる人材を育成しておく。そして、官僚としての経験を積んだ人が国会議員になって公明党の戦略・戦術を構築していく(p193)(佐藤)
・SGI(創価学会インタナショナル)は、韓国で信者数にして150万人を擁しています。台湾にもしっかりした組織がある。そうした現実を考えると、日本側がナショナリズムを煽ってしまうと、韓国とは独島(竹島)問題、台湾とは釣魚島(尖閣諸島)問題を抱えているわけですから、国際組織であるSGIは分裂状態になってしまいます・・総合的に考えた場合、自分たちの組織を維持するため、平和主義は絶対不可欠なテーゼなんですよ(佐藤)(p205)
・それでは翻って、外務省内にいる創価学会員は、国家と外務省さらには学会のどちらに忠誠を尽くすべきか。一方のSGIは、東アジアに広がる国境を越えた学会員に忠実であるべきか、日本という国家に忠節をささげるべきか(手嶋)(p206)
・2002年に私が東京地検特捜部に逮捕され、外務省から休職を命じられていたとき、ロシアやイスラエル、それに韓国などいくつもの国の「その筋の人」たちから、「うちで働かないか」とリクルートを受けたんですよ(佐藤)(p260)
・実際は、集団的自衛権の行使は、台湾有事が暗黙の前提になっていますから、正々堂々と議論するのが筋でしょう・・「平成の統帥権」を差配する日本版NSCは、台湾有事には日本も介入せざるを得ないと腹を固めているのです(手嶋)(p214)
・キッシンジャーは、第一次世界大戦の本質に真っ向から挑み、多角的な分析を試みています・・「第一次世界大戦は各国が同盟条約を破ったからではなく、各国が同盟条約を忠実に守ったために始まったのである」と喝破しています(手嶋)(p224)
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▼引用は下記の書籍からです。
【私の評価】★★★★☆(86点)
■目次
第一章 二重入り席の火薬庫「ウクライナ』
第二章 近代国家を破壊する「イスラム国」
第三章 「東アジア」での危険なパワーゲーム
第四章 「集団自衛権」が抱えるトラウマ
第五章 「反知性主義」へのレジスタンス