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「イスラエル秘密外交: モサドを率いた男の告白」エフライム・ハレヴィ

2023/11/07公開 更新
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「イスラエル秘密外交: モサドを率いた男の告白」エフライム・ハレヴィ


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

イスラエル諜報機関モサド長官

1998年から2002年までイスラエルの諜報機関モサドの長官であった著者は、この本で何を伝えたいのでしょうか。長年モサドの中で活動を続けた著者は、多くの首相や閣僚と仕事をしてきました。著者が具体的にコメントしているのは2度首相を務めたリクード政権のシャミル首相と労働党政権のペレス首相の特徴です。右派リクードのシャミル首相は、実務的な仕事は部下や軍や諜報機関に任せるタイプであり、労働党政権のペレス首相は、大衆の世論を意識して、軍や諜報機関からの疑問の声を抑えこみ、政策を進める傾向があったという。


労働党のラビンとペレスは、パレスチナとの和平案を推し進め、1993年にはイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の間で暫定自治共同宣言が合意されましたが、その後の協議はうまくいきませんでした。著者も、政府上層部が政策決定前に、軍や諜報機関の意見を聞かず「独自行動」に走ると、たいてい失敗に終わっていると語っており、軍や諜報機関はアラブ側に妥協的な政策に対して否定的であることがわかります。 


・閣僚たちが作戦の細部に立ち入るつもりなら、結果に対しても全面的に責任を負うべきだ(p365)

イスラエルの国防政策は日本と正反対

イスラエルの国防政策の基本は、「やられたらやり返す」ことです。テロに対しては、情け容赦ない対テロ攻撃を行うのが基本であり、今回のハマスの攻撃に対しての反撃は基本に忠実であるということなのです。もちろん国際社会や和平推進派の批判は折込み済みであり、政権が崩壊する可能性を覚悟のうえで、テロへの反撃を行うことがイスラエルの安全保障上必要であるというのが軍と諜報機関モサドの考えなのです。


イスラエルの安全保障への考え方については、最終的には政権与党が決定すべき事項であり、強硬派、保守派、極右といわれる右派与党「リクード」は軍と諜報機関の考え方と一致しているということなのでしょう。このようにイスラエルの国防政策は、国家の安全保障は自ら解決するものであり、外部の第三者に問題解決をゆだねないというものであり、国連や国際社会との連携を重要視する日本とは正反対なのです。


・政治基盤が崩壊してすべてを失うのを覚悟のうえで、敵の弱点を突き、情け容赦ない対テロ総攻撃を仕掛けるべきか・・(p485)

北朝鮮は中東へミサイル輸出

1990年代には北朝鮮が中東にミサイルを輸出しており、イスラエルが北朝鮮に、中東へのミサイル輸出を凍結するよう求める工作活動を行っていたことが書かれてあります。また、1997年にはヨルダンでハマスの指導者ハレド・シャメルをモサドの工作チームが暗殺しようとして失敗していた事例も書かれています。


諜報機関モサドの長官まで務めた人ですから、本書に書いてある内容は諜報活動の一環であり、イスラエルやモサドの立場を強化するためのプロパガンダである可能性があります。なぜこうした事例を紹介しているのか深読みしつつ、この本に書けない工作活動も数多く行っているであろうことも考慮したいものです。


日本と全く異なる国家安全保障の考え方にある意味、衝撃を受けました。50年後に地球上にどちらの国家が生き延びているのか、歴史が審判してくれるのでしょう。ハレヴィさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・パリやロンドンの通りでは、イランの工作員が活動し、ムッラー(イスラム聖職者)率いるテヘランの革命政権に敵対する者を暗殺していた(p298)


・「信頼がなければモサドは崩壊する」・・「先見性がなければ民族は崩壊する」という有名なエッセイの題をもじったものだ(p350)


・2007年10月、プーチン大統領はテヘランを公式訪問した・・ロシアがかつての政策を再開し、ふたたび中東における影の黒幕としての地位を確立しようとしている(p32)


▼引用は、この本からです
「イスラエル秘密外交: モサドを率いた男の告白」エフライム・ハレヴィ
エフライム・ハレヴィ、新潮社


【私の評価】★★★★☆(83点)


目次

序章 闇の外へ
第1章 イラン・イラク戦争の終結
第2章 戦争への秒読み
第3章 湾岸戦争の足跡、その光と影
第4章 中東紛争に対する国際的関心
第5章 プロフェッショナル・レベル
第6章 イスラエル・ヨルダン和平条約
第7条 和平条約締結までの三か月
第8章 さまざまな指導者と国の思い出
第9章 時代の変化と優先事項の変化
第10章 メシャル事件
第11章 新長官の最優先事項
第12章 傲慢、尊大、自信過剰
第13章 新時代の到来
第14章 情報の政治的操作
第15章 シャロンの功績
第16章 責任を負うことと責めを負うこと
第17章 現在の新たな視点
第18章 外交 可能なことを実行する技術 
諜報 不可能事を達成する技能



著者経歴

エフライム・ハレヴィ (Efraim Halevy)・・・1934年イギリス生れ。エルサレムのヘブライ大学で法学修士号を取得したのち、1961年にモサド入局。1995年イスラエルのEU駐在大使。1998年モサド長官に就任、以後4年半にわたりイスラエルの諜報・外交活動の最前線に立つ。現在はヘブライ大学戦略政策研究センター所長


イスラエル関連書籍

「イスラエル 人類史上最もやっかいな問題」ダニエル・ソカッチ
「イスラエル ユダヤパワーの源泉」三井 美奈
「イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策」ジョン・J・ミアシャイマー
「イスラエル秘密外交: モサドを率いた男の告白」エフライム・ハレヴィ
「だれも知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる」バヴア(Bavuah)


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