「堕落論 (スラよみ!現代語訳名作シリーズ)」坂口 安吾
2023/11/06公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(80点)
要約と感想レビュー
戦前の日本は統制されていた
堕落とは何?と思いながら読みました。敗戦後に書かれたもので、この本では堕落の例として、未亡人が恋愛をすること、武士道を体現すべき軍人が生きて東京裁判の恥を受けていることをあげています。つまり、戦前の道徳とか義理人情といった社会のルールから逸脱することが、堕落だというのです。
現代の日本も「常識」や「空気」に統制されていると思いますが、戦前の日本はさらに統制されていたということなのでしょう。著者の提案は、義理や人情や道徳といった人間が人工的に作り上げた仕組みを捨てて、自分の心や欲望に素直に生きるということです。
戦争中、作家は未亡人の恋愛を書くことを禁じられていた(p8)
自由であるという堕落
著者は自由を与えられた人間が、逆に無限の自由にとまどい、決定できず、逆に不自由になるのではないかと指摘しています。人間はいじらしくて、かわいく、もろくて、弱いので、無限の自由に耐えられないというのです。
それでも、私たちは堕ちることが必要だろう。堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならないと言っています。つまり、与えられた自由を使ってみることで、本来の自分を発見できるのではないか、ということです。現代社会では若者が自分探しをする傾向がありますが、当時は日本全体が自分探しをしなくてはならなくない状況であったのです。
善人は気楽なものだ・・社会制度というものに全身を委ねて動じることなく死んでゆく。だが、堕落者はそこからはみ出して、たったひとりで荒野を歩いてゆくのだ(p41)
敗戦後の自由への困惑
敗戦直後ということで、戦争体験が著者に大きな影響を与えていることがわかります。
戦前は天皇は神とされましたが、天皇さえ、社会を支配するための作られた仕組みで、天皇は人間であるという事実に直面したこと。
特攻隊を命じた60歳を過ぎた高級軍人が、生きることに未練を残しながら法廷に引きずられてゆく姿を見て、自分でも同じように行動するかもしれないと感じ、人間の生への欲求の強さに困惑していること。
爆撃に怯える一方で、「爆撃がない日は退屈ね」と喝破したおばさんや、破壊に激しく興奮して、生きていることを実感する自分の心の不思議に直面したこと。
戦争はいやなことですが、それでも人々は生きてゆくのです。坂口さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・「生きて捕虜の恥を受けるべからず」というが、こうした決めごとがないと、日本人を戦闘に駆り立てるのが不可能なのだ(p9)
・武士道は・・非人間的であり、反人性的なのだが、その生まれつきの人の性質や本能に対する鋭い観察の結果である点では、完全に人間的なものだ(p11)
・貧しさに耐える精神が、どうして素晴らしい道徳であるものか・・必要を求めてゆくところに発明は起こって、文化が起こって、進歩というものが行われてゆくのだ。それなのに日本の兵隊は貧乏に耐え忍ぶ兵隊(p32)
【私の評価】★★★★☆(80点)
目次
堕落論
続堕落論
日本文化私観
FARCEに就て
風博士
著者経歴
坂口安吾(さかぐち あんご)・・・1906年(明治39年)、新潟生まれ。東洋大学印度哲学科卒業。1946年に発表した『堕落論』が反響を呼び、続く『白痴』によって太宰治、織田作之助らとともに新文学の旗手として文壇に特異な地位を築く。1955年、脳出血により48歳で急逝
(現代語訳)松尾清貴(まつお きよたか)・・・1976年福岡県生まれ。国立北九州工業高等専門学校中退後、ニューヨークに在住。帰国後、国内外を転々としながら小説を執筆
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