「日本いまだ近代国家に非ずー国民のための法と政治と民主主義」小室 直樹
2011/11/20公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(88点)
要約と感想レビュー
日本は官主主義
日本国は民主主義であり、議員内閣制、三権分立などの政治体制をとっているわけですが、この本では、日本は本当の民主主義ではないということを論証していきます。
法律は、官僚が作っている。司法権も、官僚が法律を解釈して通達を出しているのです。「六法全書」に載っていない行政に関する法律を役人が勝手に作って運用しているのです。役人は平然と判例を無視して、自分の解釈して運用するのです。だから、検察が有罪とすれば、ほとんど有罪となる。司法、行政、立法の三権分立は、官僚による独裁体制が確立しているのです。
そして著者が若手官僚達に話を聞いてみると、「このところ通産省は地盤沈下だ」というらしいのですが、地盤沈下とは、「有力な天下り先が減った」という意味だというのです。日本は官主主義なのです。
官僚の最大の動機は何か。「プロモーション(昇進)である・・」(マクス・ヴェーバー)そして次に大切なものは何かと言えば、部下と権限である。(p129)
ロッキード事件で自由は死んだ
自由、民主主義というものは、イギリスなどで血の代償を払って得たものです。そして、非常に金のかかるものなのです。そして簡単に死んでしまうものでもある。
著者は、ロッキード事件でデモクラシーは死んだとしています。免責保障された外国人の証言だけで、田中角栄は有罪になってしまうのです。これでは、だれでも勝手に有罪にすることができるではないか、ということです。
また、日本では検事が有罪と考えた事件が、裁判所で無罪になる例は殆どありません。日本には裁判所はないも同然なのです。
デモクラシー裁判の要は手続きにある。結果にあるのではない(p332)
原則を簡単に曲げる日本
この本を読んで、日本は原則を簡単に曲げてしまう国だと感じました。尖閣諸島問題では、中国漁船船長を釈放。ハイジャック犯の要求どおり、赤軍を釈放。そして長期的には、何か大切なものを失ってしまうのではないでしょうか。
著者は最良の官僚は、最悪の政治家であると表現しています。たぶん、民主主義や自由というものを獲得するために、日本が苦労しなかったためかもしれません。小室さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・立憲政治の基礎・・・選挙公約は飽くまでも守らなくてはならない・・・対立政党の政策を勝手に盗んではいけない(p103)
・贈収賄は悪いに決まっている。しかし、それは畢竟、市民道徳に過ぎない。政治指導者(君主)の道徳は、これとは違う。それは、徳(生命力の発揮。英語のvirtue)によって国民の経済生活を確保することに尽きる(p173)
・デモクラシーという言葉は、「暴民政治」という意味であった。プラトンが理想とした政治形態は、哲人王による支配である。(p235)
・ヒトラーは皇帝にはならなかったが、皇帝以上の権力を握ってしまった。だから大統領と首相の両方を置いて、牽制させる。フランスの場合には、大統領と首相で、きちんと権限を分けている(p264)
・アメリカは銃社会であることを失念していると、あなたは殺され、加害者は無罪放免になるかもしれない・・・もっと恐ろしいのが法律である。歯止めを失った法律である(p289)
・戦後、「嫌がる日本国民を、軍部が無理に戦争に引きずり込んだ」と言い触らされてきたが、これは、真っ赤な嘘である。・・・特に、朝日新聞の戦争熱中振りは、刮目されてよい(p56)
ビジネス社
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【私の評価】★★★★☆(88点)
目次
プロローグ 誤解だらけのデモクラシー理解
第1章 大いなる資質を具えた政治家とは―田中角栄だけが、唯一のデモクラシー政治家である理由
第2章 官僚は、どう操縦するのか―角栄は、彼らを「生きたコンピュータ」と評した
第3章 果たして金権政治は"悪"か―デモクラシーは膨大なコストをかけて購うもの
第4章 政治家の「徳」とは何か―「運命を下僕にする力」こそ為政者の要件
第5章 デモクラシーとは何か―果たして「国民主権」が守られているのか
第6章 暗黒裁判だったロッキード角栄裁判―江戸時代のままの日本人の法意識こそ問題
著者経歴
小室 直樹(こむろ なおき)・・・1932年生まれ。大学卒業後、フルブライト留学生となり渡米。マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ハーバード大学で、経済学、心理学、社会学、統計学を学ぶ。その後、東京大学大学院法学政治学研究科修了、法学博士。社会、政治、経済について評論家として活躍。著書多数。
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