「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」佐藤 優
2005/07/19公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(91点)
要約と感想レビュー
この世の中には完全なる正義、完全なる悪というものはありません。同じ事象も、ある立場からみれば正義、ある立場から見れば悪という側面を持っています。そうした視点で、一時期、新聞を騒がせた鈴木宗男と田中眞紀子と外務省の戦い、それから波及したようなムネオハウスがらみでの鈴木宗男の逮捕を考えるためには、逮捕された外務省佐藤優氏が書いた本書は最適の一冊でしょう。
・「この事件は横領でも背任でもどっちでもいける。こっちが背任にしたのは、カネに触っていない東郷を捕まえるためだった。あんたと前島だけならば横領でよかったんだ・・・これは鈴木宗男を狙った国策捜査だからな。だからあんたと東郷を捕まえる必要があった(p233)
この本を読んで驚くのは、マスコミで報道される鈴木宗男氏と著者のイメージと、本書で描かれる両氏のイメージの格差です。私は、著者の佐藤優氏は人生をかけても筋を通す、かなり優秀な人であると感じました。検察が考えるように、国策捜査で捕まる人たちは皆さんたいへん能力があるので、検察に協力して前面自供し、早期に社会復帰してもらわなければならないというのに説得力があるのが悲しいのですが、それが日本の現実なのでしょう。
・「下手に偽計業務妨害だけが部分無罪になったりすると、こっち(検察)は組織の面子に賭けて上にあげるぜ。時間が数年無駄になる。呑み込んじゃった方が全て速く終わるぜ」正直言って、長期裁判は嫌だ。ここで呑み込んでしまいたくなった。しかし、ここは筋を通さなくては一生後悔することになると思った。(p332)
見せしめ裁判というものは、社会の規律を正しくするという意味で大事なものなのでしょう。ただ、それが権力闘争の結果であったり、一時の世論に沿ったものであるだけでなく、より一段高い視点からも考えるべきものだと思います。それは見せしめ裁判というものが、個人個人に与える影響だけでなく、組織に影響し、最終的には社会全体に影響するからです。水が澄めば見た目はきれいではありますが、逆に魚が住まなくなってしまうようなことがあれば、それは本末転倒ということでしょう。とはいえ、事件の両面を見るという視点だけでなく、日本の政治・外交のあり方、そして日本の現実を考える良書と判断し★5つとしました。
この本で私が共感した名言
・モスクワで親しくしていたソ連時代の政治犯のことばを思い出す。「強い者の方から与えられる恩恵を受けることは構わない。しかし、自分より強い者に対してお願いをしてはダメだ。そんなことをすると内側から自分が崩れる。矯正収容所生活とは結局のところ自分との戦いなんだよ」(p13)
・田中さんは『世の中には、家族、使用人と敵しかいない』と公言しているんだけど、君や東郷に対する目つきは敵に対する目つきだ(外務省幹部)(p52)
・「いや、俺たち外務省員のプライドが大切なのだ。田中大臣なんかに負けてられない」(野上)「その点について私は意見が違います。プライドは人の目を曇らせます。基準は国益です。」(p99)
・田中女史の、鈴木宗男氏、東郷氏、私に対する敵愾心から、まず「地政学論」が葬り去られた。それにより「ロシアスクール」が幹部から排除された。次に田中女史の失脚により、「アジア主義」が後退した。「チャイナスクール」の影響力も限定的になった。そして、「親米主義」が唯一の路線として残った。(p118)
・外務省が私の報償費(機密費)に関する領収書を全て任意提出したということを伝え、その一部を私に提示した。私の情報源の名前も記載されていた。外務省が「門外不出にする」といった書類が検察に渡されたことは、私にとって大きなショックだった。(p245)
・外国公務員への贈賄に関するこの法律が、法実務的観点から欠陥があることと、このニュースが表に出て、三井物産の清水社長が引責辞職したので、うち(検察)の上の方には『もうこれでいいじゃないか』という感じもあって、ああいう線引きになったんだよ(p344)
・「何で丸紅は見逃されているの」「僕たちも丸紅は三井から五千万円ももらってけしからんと怒っている。しかし、国策捜査だから鈴木さんと関係のある三井物産だけがやられて丸紅はおとがめなしなんだ」(p344)
▼引用は、この本からです。
【私の評価】★★★★★(91点)
著者経歴
佐藤 優(さとう まさる)・・・1960年生まれ。日本の作家。学位は神学修士(同志社大学・1985年)。同志社大学神学部客員教授、静岡文化芸術大学招聘客員教授。在ロシア日本国大使館三等書記官、外務省国際情報局分析第一課主任分析官、外務省大臣官房総務課課長補佐を歴任。
2002年に鈴木宗男事件に絡む背任容疑で逮捕される。2005年に執行猶予付き有罪判決(懲役2年6か月、執行猶予4年)を受け東京高等裁判所、最高裁判所は上告を棄却し、判決が確定した。
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