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【書評】「プアジャパン―インフレ世界を生き抜く資本戦略」 橘 玲

2026/07/24公開 更新
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「プアジャパン―インフレ世界を生き抜く資本戦略」 橘 玲


【私の評価】★★★☆☆(76点)
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要約と感想レビュー


日本経済の現状分析

「マネーロンダリング」「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」などベストセラー作家の橘玲氏による資産防衛戦略を説明した一冊です。著者が示す日本経済の現状分析から見ていきましょう。


過去30年間で日本人の給与の中央値は9%下落しましたが、共働き世帯が2000年の4割から6割に増えたことで、実質GDPは17%増大しています。著者はこれを「みんなが平等に貧しくなったことで格差が拡大しなかった」と分析し、「不都合な現実」と表現しています。


現実の分析としては概ね妥当ですが、どこが「不都合」なのか理解できずに読み進めました。


高齢者世帯は年金や医療・介護で年間230万円の再配分を受ける一方、母子世帯は15万円の再配分しかないと指摘し、政府が「こどもまんなか社会」を掲げながら実態は「老人まんなか社会」だ批判しています。


少子化対策という観点からは重要な問題提起と感じましたが、同時に高齢者世帯と母子家庭を同一に比較してよいのだろうかと疑問にも思いました。


インフレについては「デフレに最適化したライフスタイルの前提が崩壊」と著者は危機感を煽るような表現をしていますが、単に「ようやくデフレから脱出した」とも言えます。


この本全体を通じて、意図的な煽りを感じる場面が随所にありました。


「供給能力の低下によって引き起こされる逃げ場のないインフレ」に放り込まれることになるのです(p57)

日本の経済政策

アベノミクスについて著者は、量的緩和で市場のお金を増やして円安になっただけで、日本経済の景気は浮上しなかったと批判しています。しかしこの評価には違和感を覚えます。


アベノミクスは金融緩和・財政支出・民間投資という3本の矢で構成されており、金融緩和による円安が輸出企業を潤したのは事実です。


景気が十分に回復しなかった要因の一つは、財務省が消費増税を断行したことにあるでしょう。また財政支出においても、公共事業の費用対効果を測る「社会的割引率」を4%と高く設定したまま変えなかったことで、財政出動が不十分になったという事情もあります。


約557兆円が日銀の当座預金口座に「ブタ積み」されていると批判もしていますが、問題の本質は金融機関と馴れ合いを続ける財務省と日銀のあり方にあるというのが、より正確な見立てではないでしょうか。


著者の説明は正しいものがほとんどですが、短絡的な表現をしている部分もあります。例えば、著者は「日本人はさらに貧乏になり、デフレ脱却による経済復活の夢が潰えると、この国にはなんの希望もなくなってしまった」と書いています。


視点を変えれば、「財務省のバブル後の金融引き締めと増税に日本人は耐えてきたが、金融緩和による円安でデフレを脱出したものの、金利上昇を日銀・財務省が放置して上昇してきた景気に冷や水を浴びせようとしている」と考える人もいるのではないでしょうか。


どの政権も「成長戦略」を掲げながら、成長できなかった・・これから日本がスタグフレーションに向かうという可能性はけっして低いものではありません(p59)

著者のお勧め戦略

経済分析の部分に疑問はあるものの、著者が示す個人の資産防衛戦略は、全体として妥当なものです。


現役世代にとっての最大の資産は自分自身であり、注力すべきは自分の能力を高め続けることです。いつでも転職や独立ができる実力を持つこと。働いて稼げる期間をできるだけ長くすること。世帯内の働き手を増やすことが、最も確実な戦略だと著者は主張しています。


さらに、将来のリスクには金融商品で保険をかけることが可能です。例えば、インフレへの備えとして、円預金よりも金利の高い日本国債購入。長期的な視点ではNISAで日本株インデックスを積み立てる方法があります。


為替変動への保険としては、NISAで世界株インデックスを積み立てる方法があります。円安で物価が上がれば投資の利益で相殺でき、円高で損失が出ても物価が下がることで相殺される、という論理です。


なお著者は書いていませんが、株式を購入するということは資本家になるということであり、市場の変動に一喜一憂しない精神力が必要になります。どのような変動があっても10年・20年と持ち続けることができるか、試されるのです。


NISAこそが最強の投資戦略・・通常の株式投資では配当や売却益に約20%の税金が課せられますが、NISAではこれらがすべて非課税になります(p161)

お勧めできないデリバティブ

この本の最後約70ページは、インフレ時代の資産運用術(上級者編)としてデリバティブ(金融派生商品)の解説となっています。


デリバティブで利益を得た人物を主人公とした小説形式の記述もあり、一見すると推奨しているように見えますが、著者の主張は「デリバティブは素人は絶対に手を出してはいけないギャンブル」というものです。


金融機関がデリバティブを組み込んだ複雑な金融商品を、金融知識の乏しい個人に売り込もうとしているという警告も示されています。理解できない金融商品に手を出してはならないのです。


全体を振り返ると、おどろおどろしい未来の日本を小説形式で描いたり、危機感を煽るような表現が随所に見られる一方で、著者のお勧め戦略そのものは国債購入やNISAでのインデックス投資という堅実なものでした。


煽りや単純化が目立ち、王道の内容と疑問の残る内容が混在しており、編集上の判断や何らかの事情があったのかもしれません。


橘さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・日銀は、国債市場で買いオペや売りオペをすることで、通貨の発行量と金利を操作するという大きな力をもっているのです(p89)


・「5世帯に1世帯がミリオネア」のアメリカ・・・リベラルで平等な社会では、社会がゆたかになればなるほど、そこから取り残されるのは「自己責任」・・・10年、あるいは5年以内に、アメリカと同じことが起きるのは間違いないでしょう(p251)


・いまの為替市場がもはや実需の世界ではない・・・貿易などの実需は、すべての為替取引の2%から多くても5%なのです(p109)


・購買力平価(PPP)レートで、現在は1ドル=94円前後とされています。それに対して現在のドル円レートは1ドル=160円前後ですから、この「正しいレート」よりも4割以上割安です(p116)


▼引用は、この本からです
「プアジャパン―インフレ世界を生き抜く資本戦略」 橘 玲
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橘 玲 (著)、プレジデント社


【私の評価】★★★☆☆(76点)


目次


第1章 〈近未来小説〉日本人を待っていた浅い眠り 2026年版
第2章 プアジャパンの現実と日本型スタグフレーション
第3章 金利と為替を理解する
第4章 インフレ時代の資産運用術 初級者編
第5章 インフレ時代の資産運用術 上級者編


著者経歴


橘玲(たちばな あきら)・・・作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラー


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