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【書評】「夏帆―The Tale of KAHO」村上春樹

2026/07/21公開 更新
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「夏帆―The Tale of KAHO」村上春樹


【私の評価】★★★★☆(80点)
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要約と感想レビュー


絵本作家の不思議な世界

「正直いって、君みたいな醜い相手は初めてだよ」26歳の絵本作家・夏帆は、初対面の男にこう告げられます。


それから夏帆には初対面が続きます。アマゾンからやってきたありくいの夫婦、刃物を研ぐ孤独な男、ホルスタイン柄の猫スカーレット・ヨハンソン。宮崎駿の映画を思わせるような、不思議な世界が広がっていました。


日常の中に突然に現れる非日常の出会いと事件。主人公がその不思議な世界を冒険していくのが村上春樹の世界なのでしょう。


一匹の大きなありくいが彼女の前に後ろ足で立ち、語りかけてきた(p34)

絵本の世界とリアルの世界

ありくいの夫婦は夏帆に「あなたは中央線の武蔵境に引っ越さなくてはなりません。それも今すぐに」と伝えます。夏帆はその指示に従いながら、日々の体験を絵本として描いていきます。


夏帆が書き続けている絵本「ミソラの物語」は、家族に冷たく見放され、深い森の奥に置き去りにされた少女の物語です。夏帆の「彼女を救済しなくてはならない」という言葉こそ、夏帆自身の内面を表現しているのでしょう。


村上春樹自身も、普段の生活をもとに小説を書いていることがあるのではないか。そう感じさせるほど、夏帆は日常を絵本に書き写していくのです。


私は書きかけていた「ミソラの物語」を完成させなくてはならない。家族に冷たく見放され、深い森の奥に置き去りにされた小さなミソラがそのままになっている。彼女を救済しなくてはならない(p233)

村上春樹らしさと新しさ

ヴァルター・ベンヤミンの言葉「善き物語には有用性が含まれている」を語る場面や、クラシック音楽や作家ジャック・ケルアックやジェーン・オースティンが出てくるところ、こうしたところはいかにも村上春樹らしく感じました。


一方で、文中に( )で説明を加える箇所が気になりました。意図的だと思いますが、これまでの村上春樹とは少し異なる印象を受けました。


夏帆への「君は自分の物語を思い通りに紡ぎ出すことができる」という言葉は、「思考は実現する」という成功哲学系の響きも感じました。


すらすら読みやすい一冊でした。村上さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・あなたはあなた自身の世界の物語の中心にいる(p208)


・おまえはな、ここで象に踏み潰される必要があるんだ・・・踏み潰されて、するめみたいにぺしゃんこになっていったん死んでしまい、そうやって初めて生まれ変わることができるのだよ(p320)


・「ねえ、みんなそうやっていつかはいなくなってしまうのよ」、母親はそう言った(p349)


・生物学的に言えばシロアリはアリの一種ではありません。ゴキブリ目の昆虫です。簡単に言えば、小さなゴキブリが集団社会化したのがシロアリなのです(p144)


▼引用は、この本からです
「夏帆―The Tale of KAHO」村上春樹
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村上春樹 (著)、新潮社


【私の評価】★★★★☆(80点)


目次


第一章 夏帆とモーターサイクルの男
第二章 武蔵境のありくい
第三章 夏帆とシロアリの女王
第四章 守護天使、象の卵とスカーレット・ヨハンソン


著者経歴


村上春樹(むらかみ はるき)・・・1949年京都府生まれ。小説家。ジャズ喫茶の経営を経て『風の歌を聴け』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『東京奇譚集』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』などの小説の他、『レイモンド・カーヴァー全集』、J.D.サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』、スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』、トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』『遠い声、遠い部屋』『草の竪琴』など訳書多数。


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