【書評】「芸術と青春」岡本太郎
2026/08/27公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(89点)
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要約と感想レビュー
芸術家の両親に育てられる
岡本太郎といえば、「太陽の塔」「芸術は爆発だ!」など変人芸術家というイメージがあります。しかし、この本を読むと、むしろ欧米流の論理や現実主義の知的な人物に見えます。
岡本太郎の父・岡本一平は人気漫画家、母・かの子は著名な歌人・小説家です。そんな芸術家の両親から、著者は一般家庭の子どものような躾をほとんど受けなかったと書いています。
こうした芸術家の両親の影響もあって、著者は幼い頃から絵が得意で、描くことが好きでした。しかし中学生頃になると、「何のために描くのか」と考えるようになり、絵を描くことそのものが悩みや苦痛にもなっていったようです。
元来、母は武蔵野の一角、多摩川のほとりに代々続いた豪家、「大和屋」大貫家の長女に生まれ、生来の奔放な特異な性格から、秘蔵娘として伸々と育てられた(p109)
パリで遊び悩んだ青春
著者は18歳で両親とともにフランスへ渡り、その後、十年余りをパリで過ごしています。
岡本太郎にとって当時の芸術家とは、一晩中遊んでいる人たちでした。踊り、喋り疲れた朝、寝る前に温かいカフェ・オ・レとクロワッサンを食べる。それが芸術家の日常だというのです。
そうした芸術家を真似て、太郎はキャバレーの踊り子たちと友達になり、楽屋にまで入り込む。官許の賭博場には昼間から入りびたり、「バカラ」ですってんてんになって朝を迎えることもしょっちゅうだったという。まさに青春です。
その一方で、岡本太郎は絵描きとしての自分について悩んでいました。18歳のとき、オランダ、ベルギーを一人で旅して名画を見て歩いたものの、先人の傑作をただ見て回るだけの旅行が乞食のようであり、無意味にさえ思えたというのです。
著名な芸術家を両親に持ち、パリに遊学しているからといって、それが自分の才能を保証してくれるわけではありません。むしろ、「パリまで来て自分は何をしているのか」という問いが、未熟な太郎には負担だったのでしょう。
パリに帰ったときの感激は素晴らしい。世界にこんな明快で、優美で、心の奥までしみ入る情緒のあるところはない(p32)
岡本一平とかの子の結婚生活
岡本太郎のパリ滞在の最初の三年間は、父・一平、母・かの子と近くに住んで、三人で劇を見たり、画商街を歩いたり、カフェで夜更けまで芸術論を交わしたという。この三年間のヨーロッパ生活が、岡本家にとって生涯で最も美しく、幸福な時代だったと著者は振り返っています。
ただし、岡本太郎の目から見ると、父・一平と母・かの子の結婚生活は、二つの大きな問題がありました。
一つは、情熱的なかの子が一平に「永遠の恋人」であることを求めていたことです。しかし、実際の夫婦の関係の中では、夜の関係はなかったとほのめかしています。
もう一つは、かの子は「芸術家・岡本一平」と結婚したつもりでした。しかし一平は生活苦から漫画を描き始めます。最初は生活のための一時的な手段だった漫画が、そのまま本業になっていったのです。
芸術に情熱的に取り組む母と、生活の現実を考えざるをえない父。この正反対の性格のぶつかり合いが悲劇だったと岡本太郎は総括しています。
かの子の晩成時代、一平はただ生活を支えるために描き、それを売って、かの子が充分に小説家として伸びられるように、ひたすら土台をかためていった(p158)
岡本太郎は欧米的だった
パリで十年を過ごした岡本太郎は、私にはヨーロッパ帰りらしい知的な合理主義者に見えました。海外生活の長かった白洲次郎と同じ雰囲気を感じるのです。
例えば、日本女性が欧米で「世界で最良」と評価されていることについて、それが欧米男性の都合にかなっているからの好評だとすれば、面白くないと評しています。
また、日本の女性が感情をほとんど表に出さないことにも驚いています。ヨーロッパの女性なら、悩ましいほど色っぽい目の動きや身ごなしで挑んでくるに違いない、とパリでずいぶん遊んだことを白状しているのです。
「芸術は爆発だ!」というイメージとは裏腹に、パリで哲学を学び、遊び、自分の芸術に悩んだ一人の青年が浮かび上りました。岡本太郎さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・私は宇宙において微小な一匹の蟻と何ら異なるところのない存在である・・・だが、この一匹の蟻が傷ついて、己の胸からふつふつと血のほとばしり出るのを眺めるとき、自己の破滅と同時に、大宇宙が破壊するのだと観る(p98)
・私は近頃「対極主義」という新しい芸術の方法論を提起している・・・二者を矛盾する両極として立てるのである(対極の定め方は、合理・非合理、古典主義・浪漫主義、動・静、吸引・反撥、愛・憎、遠心・求心等)・・・矛盾を逆にひき裂くことによって相互を強調させ、その間に起る烈しい緊張感に芸術精神の場があるという考えである(p101)
・父の死・・・私は人々に言った。「おやじは立派に仕事を成し遂げて死んで行ったのです。おやじ自身、死ぬことをいつも凱旋だと言っていました。皆さん、こんなことは普通のことではないでしょうが、おやじにとっては、これは晴れの出発ですから、岡本一平万歳を三唱してください」(p169)
▼引用は、この本からです

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岡本太郎 (著)、光文社
【私の評価】★★★★☆(89点)
目次
1 青春回想
2 父母を憶う
3 女のモラル・性のモラル
著者経歴
岡本太郎(おかもと たろう)・・・1911年、漫画家岡本一平と歌人岡本かの子の間に東京に生まれる。1929年、渡欧。パリ留学中に抽象芸術運動に参加、1940年、帰国。戦後、前衛芸術運動を再開。パリ、ニューヨークなどで個展を開催。1954年、『今日の芸術』を発表。1970年、大阪万博に『太陽の塔』を制作。「芸術は爆発だ!」発言など、表現者としても多彩な才能を発揮。1996年没
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