「翻訳夜話」村上 春樹、柴田 元幸
2020/08/05公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(83点)
要約と感想レビュー
■ノーベル賞も狙える小説家である
村上春樹。彼は翻訳家でもあると
知っていましたが、暇さえあれば
翻訳しているのだという。
村上春樹にとって翻訳とは、
生き生きとした気持ちになれる時間。
小説を書く時間は、それに没頭して
消耗してしまう。
対照的に翻訳する時間は、
好きな文章の中に浸かる
楽しい時間なのだという。
村上春樹にとって、翻訳とは
自分をリフレッシュさせてくれる
ちょっと効率のよくない読書なのです。
・翻訳というのは言い換えれば、「もっとも効率の悪い読書」のことです。でも実際に自分の手を動かしてテキストを置き換えていくことによって、自分の中に染み込んでいくことはすごくあると思うんです(村上)(p111)
■若き村上春樹は、
優れた英語の文章に興味を持ち
趣味でお気に入りの英語の小説を
翻訳していました。
それは優れた文章というものが、
どうして優れているのか、
どうして素晴らしいのか
解明したかったからだという。
仏教の経文を書き写す「写経」という
修行がありますが、
翻訳とは村上春樹にとっての
「写経」のようなものだったのです。
村上春樹にとって翻訳の重要性は、
彼の最初の小説が最初は英語で書かれ、
それを日本語に置き換えてできたという
エピソードからもわかります。
・結局、自分で文章を解体して、どうすればこういう素晴らしい文章を書けるのかということを、僕なりに解明したいという気持ちがあったんだと思います。英語の原文を日本語に置き換える作業を通して、何かどういう秘密のようなものを掘り出したかったのかな(村上)(p57)
■村上春樹の透明な文体の秘密を
垣間見たような気がしました。
優れた英語の文章の良いところを
取り入れつつ、自分の日本語の
文体を育てていったのです。
つまり村上春樹は、
英語の小説で文章の訓練をしながら、
日本語で小説を書いていると
言えるのではないでしょうか。
村上さん、
良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・翻訳なんて手間のかかる地味な仕事だから、ほんとに好きじゃないとできないです。好きだというのは努力が苦にならないということでもあるから(村上)(p51)
・文章の説得力って、語彙が少なくても関係ないんですよね。語彙が少なくてすごくいい文章を書く人もいっぱいいるし。だから、僕も最初の小説を書いたとき、とりあえず英語で書いて、それを全部日本語に訳し直して日本語にしたんです。つまり、英語で文章を書くときは、当然のことながら日本語に比べて語彙が少ないですよね。で、少ない語彙でも書こうと思えば書けちゃうんですよ(村上)(p235)
・僕は文章というものがすごく好きだから、優れた文章に浸かりたいんだということになると思います。それが喜びになるし、浸かるだけじゃなくて、それを日本語に置き換えて読んでもらうという喜び・・(村上)(p110)
・翻訳をする場合、とにかく自分というものを捨てて訳すわけですよ。ところが、自分というのはどうしたって捨てられないんです。だから徹底的に捨てようと思って、それでなおかつ残っているぐらいが、文体としてはちょうどいい感じになるんだね(村上)(p35)
・文章にとっていちばん大事なのは、たぶんリズムなんですよね・・・原文ではひとつの文章を二つに分けたり、原文では二つの文章をひとつにまとめたりするのも、つまるところリズムのためです(p66)
・Living Well Is the Best Revengeという本がありますね。このタイトルをそのまま訳すと、「優雅に暮らすことは最良の復讐である」と。でもそう出し抜けに言われてもなんのことだかわからないですよね・・・意地悪されて、踏みにじられて、頭にきて復讐しようと思って、復讐というと相手を殴ったり、相手をいじめ返したりすることだけど、そうじゃないんだと。そんなことは意に介さず、あるいは意に介してもしらんぷりをして、優雅にチャラチャラと楽しく暮らせば、それが相手に対するいちばんの復讐になるんだということなんです(村上)(p24)
▼引用は、この本からです
村上 春樹、柴田 元幸、文藝春秋
【私の評価】★★★★☆(83点)
目次
フォーラム1 柴田教室にて
フォーラム2 翻訳学校の生徒たちと
海彦山彦―村上がオースターを訳し、柴田がカーヴァーを訳す
フォーラム3 若い翻訳者たちと
著者紹介
村上 春樹(むらかみ はるき)・・・1949年生まれ。小説家。ジャズ喫茶の経営を経て、1979年『風の歌を聴け』でデビュー。1987年『ノルウェイの森』は400万部を売るベストセラーとなる。『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』など著書多数。
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