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「八百長―相撲協会一刀両断」元・大鳴門親方

2020/08/06公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

1996年、「若貴フィーバー」の頃に書かれた大相撲の実体について暴露した一冊です。私が大相撲に興味を持ったのは、貴ノ岩が日馬富士から暴行を受け、日馬富士は引退、内閣府に告発した貴乃花(貴乃花親方)が廃業し、角界を追放された事件です。


この本を読んでわかったのは日本人は日本人同士で八百長をしており、外国人は外国人同士で八百長をしているということです。著者が現役の若い力士に聞いてみると、幕内には40人の力士がいるが、その中で100%のガチンコ力士はたった11人しかいないという。だからモンゴル出身の貴ノ岩が、別の部屋のモンゴル出身の日馬富士と酒を飲んで、暴行を受けたということは、若乃花の指導でガチンコだった貴ノ岩が制裁を受けたと想像することができるのです。


もともと大掛かりな八百長の始まりは、昭和38年秋場所で、4場所休場していた柏戸(かしわど)(鏡山親方)が全勝優勝したことだという。当時、石原慎太郎が八百長発言をして告訴に発展したといういわくつきの事件なのです。八百長で横綱・大関に星をひとつ売れば50万円、60万円になるので、1場所で300万円ぐらいになるという。10万円や20万円しか祝儀をくれないタニマチのお座敷に行きたがらない力士が多いというのです。


・外国人力士の小錦、武蔵丸、曙が組んで星を回していることについては、協会内部でも批判の声が上がった・・・当然注射力士からも敬遠されてしまう(p199)


貴乃花親方が内閣府へ提出した告発状の内容もよくわかっていませんが、八百長を放置する日本相撲協会を公益財団法人として不適切な組織として、告発するものであったと想像できます。八百長をしなければ、勝てないから上に上がれない。つまり、日本相撲協会の役員になるような人はほとんどが八百長をしていると推察できるわけです。そうした中で、現役時代からガチンコで横綱となった貴乃花親方が内閣府へ相撲の現実を告発してしまったのでしょう。


日本相撲協会としては、自分が抹殺されるのか貴乃花親方を抹殺するのかという状況だったと考えられます。そもそも、注射をほとんどやらなかった力士で協会に残っているのは、大受、大潮(式秀親方)、富士櫻(中村親方)、出羽一門の義ノ花や羽鷲山といった力士くらいだという。こうした正統派の親方たちは、協会に残っていますが、要職にはついていないのです。


この本が出版される5月の前月、著者は原因不明の呼吸障害で死亡しました。貴乃花親方も引退したことで命が助かったのかもしれません。


・注射が存在しなければ横綱や大関は簡単には生まれない。ガチンコで横綱になった貴乃花や大乃国(芝田山親方)は神業に近いというのが、親方衆の一致した評価だ(p210)


本当かどうかわかりませんが、大乃国は十両時代に八百長やっていたのに、入幕と同時に八百長をやらなくなってしまったという。そのため千代の富士が「大乃国に挨拶するな」と号令を出して、支度部屋で無視されるようになっていたというのです。こうしこともあって、著者がNHKの相撲中継の解説者として千代の富士の53連勝中の土俵で、アナウンサーの「この連勝はいつまで続くんでしょうね」の質問に、「止めるといってもガチンコの大乃国(芝田山親方)しかいないんだからね」と生放送にもかかわらず答えてしまったという。


また、小錦は協会の外国人差別のために横綱になれなかったといわれていますが、実際は千代の富士の八百長によって勝つことが難しかっったというのです。さらに小錦は注射(八百長)を覚えたことでだんだん稽古をしなくなってしまったという。


日大アメフト部の危険タックルで有名になった田中英寿日大理事長についても、日大相撲部出身者をいろいろな部屋に分散して入門させており、大相撲を支配するための方策と言われているという。田中英寿という人は理事長になって日大を支配しただけでなく、大相撲も支配していたのです。


25年前と古い本ですので、現在の大相撲とは状況が大きく違っていることが予想されます。しかし、八百長や、年寄株の売買による一門どうしの相撲協会内部の勢力争いは、現在も続いているように感じます。本当のところはどうなのでしょうか。大鳴門親方、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・引退、廃業したからといっても、それまでに借りた星が消えてなくなるということにはならない。やむなく引退した場合、星を買い取る形でお金を支払うか、残った同部屋の力士から星を返してもらうというのがしきたりとなっている(p194)


・野球賭博のように勝敗が暴力団のシノギを左右するようなことがあればともかく、相撲は八百長が当たり前の世界と暴力団も知り抜いているため、あまりバクチの対象にはなっていない。そのため、寄って来るのは根っからの相撲好きという暴力団がほとんど(p95)


・暴力団は力士たちのいいタニマチ・・九州場所では、私は北の富士の取組みに対し、右翼団体の名前で毎日毎日懸賞を何本も出してくれたりもした・・・文部省が絡んできたために、協会も仕方なく、うるさいから縁を切ろうとしたのだが、暴力団の側からすれば、「何を今頃になって。苦しいときには助けてやったのに、一方的にそれはないだろう」(p74)


・年寄株の取得が3億円、部屋の土地購入と建築費で5億円以上が必要なご時世だ・・・それは部屋経営だけで返済できる額でもない。そのためタニマチの世話にならなければならないのだ(p152)


・年寄株というのは、一門内で売買した場合には・・2億円~2億3千万円といったところが相場。ところが、一門外に売ればこれが1.5倍以上になる。それには理由がある。年寄株ひとつは理事選の票に直結する・・一門の協会内での力関係が変わることにもなる(p20)


・相撲協会教会には元税務署長の事務長が天下りしているため、「各部屋への税務調査はない」というのが、親方たちの間では常識となっている(p50)


・横綱審議委員会のメンバーに、NHKをはじめ、朝・毎・読のトップを巻き込んでいるのも、マスコミ対策に他ならない。地方新聞社の河北新報の一力一夫主を入れたのも二子山前理事長の個人的なタニマチだったからだ(p214)


▼引用は、この本からです

元・大鳴門親方、鹿砦社


【私の評価】★★★★☆(83点)


目次

八百長密議
陣幕はなぜ俺を告訴しない
監察委員会のメンバーは八百長常習者ばかり
年寄株の内幕
暴力団は力士たちのいいタニマチ
黒い交際と女漁り
国民栄誉賞横綱も八百長まみれ
横綱・輪島も八百長だらけ
地方場所こそおいしい部屋持ち親方
チケットで懐を温める親方衆
協会が外国人力士を追い出すキッカケ
スカウトの辣腕は佐渡ヶ嶽親方
今も花盛り、八百長相撲
地方巡業はSEXと博打旅行



著者経歴

大鳴門(おおなると)親方・・関脇高鉄山(こうてつやま)。本名・菅 孝之進(すが こうのしん)。1942年(昭和17年)生まれ。1957年(昭和32年)朝日山部屋に入門。十両優勝1回、幕内準優勝2回。敢闘賞、技能賞各1回受賞。最多出場記録史上2位。関脇まで昇進。引退後、1975年(昭和50年)に大鳴戸部屋を設立。


大相撲関連書籍

「一生懸命: 相撲が教えてくれたこと」貴乃花 光司
「新版「週刊ポスト」は大相撲八百長をこう報じてきた角界の闇に斬り込んだ30年間の取材記録」
「大相撲新世紀 2005-2011」坪内 祐三
「八百長―相撲協会一刀両断」元・大鳴門親方


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