「大相撲新世紀 2005-2011」坪内 祐三
2018/04/05公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(82点)
要約と感想レビュー
大相撲ファンの作家による大相撲の解説です。貴乃花親方の問題を考えるため、この本を手にしました。大相撲はスポーツなのか興行なのか。そんなことを考えつつ、枡席で大相撲を楽しむ著者は、どちらかといえば伝統の大相撲を愛するファンなのでしょう。
著者は相撲を単なるスポーツではなく、日本に特有な興行だとしています。明治の末に相撲を国技と名づけたのは、当時の大衆作家江見水蔭ですが、相撲は国技となってから百年しか経っていないのです。
・私はいつも、デパ地下で買った日本酒と幕の内弁当を持って、それを枡席に広げて、国技館で相撲を楽しむ・・(p84)
まず、八百長については、いろいろな種類があるとしています。まず、暴力団や賭博が関係する八百長があるが、これは犯罪です。
一方で、幕下に落ちそうな一番を買うというのがあるが、金がからめば八百長だが、もし金がからまなければ問題ないというのが著者のスタンスです。つまり、2001年夏場所、膝を亜脱臼していた貴乃花に負けた武蔵丸は八百長なのか。著者は、「気合いが入らなかった」という武蔵丸が好きだという。小泉首相も八百長に「感動した!」のです。
実際、ここで負け越したら幕下に落ちてしまうちう取組の時にいつもと違う動きをしてしまう力士がいるというのです。それに金がからんでいれば八百長ですが、そうでない場合もあるでしょう。人間の情で力が出ない力士がいるはずというのが著者の見立てなのです。
・2001年夏場所、武蔵丸との優勝決定戦で、貴乃花が前日に膝を亜脱臼していたんだけれど負けた武蔵丸(現振分親方)のインタビューがすごくよかった。武蔵丸は、無気力という言葉は使わなくて、「気合いが入らなかった」とだけ言ったんです。あの、小泉首相が「感動した!」と言った一番なんですがね(p225)
また、日本相撲協会についてはその判断、力士の処分について文句があるようです。日本相撲協会の尿検査で大麻陽性反応が出た露鵬と白露山は、警察での取り調べではシロだったのに日本相撲協会から解雇されました。職務放棄を続けていた朝青龍を日本相撲協会は放置しておきながら、モンゴルでサッカーをしていたらいきなり謹慎処分を下したこともあります。
八百長への関与を認めた元春日錦、元千代白鵬、元恵那司の3人のうち2人から蒼国来と星風の八百長について証言を得たことを理由に、蒼国来と星風が解雇を勧告されています。(その後、裁判で勝利し、お相撲へ復帰)「3人のうち2人以上」の証言だけで何故「それらが信用に足ると判断」できるのか、日本相撲協会の判断に不信感を持たざるをえないのです。日本相撲協会には一貫性と透明性がないのです。
著者は、最近のメディアやバラエティ番組を批判しています。暴力団、八百長との関係をテレビは批判しますが、某大手芸能プロダクションはきわめてヤクザに近い筋と言われているではないか。そのプロダクションのタレントのスキャンダルが、テレビで報じられることはないのです。
いつかマスコミにブーメランが飛んでくるのだろうというのです。実態はどうなんでしょう。坪内さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・大相撲の大切な行事に地方巡業がある。勧進元と呼ばれる地元の有力者たち(かつてはその多くがヤクザだったとテレビである関取経験者 実名を挙げれば龍虎 は語っていた)が興行権を買い、彼らがチケットをさばいてくれるのだ。ところが若貴を中心とした相撲ブームの時・・直接自分たちで興行したほうが儲かると日本相撲協会は考え、地方巡業を自主興行制とした・・しかし、ブームは去った・・それが地方場所不振の理由なのだ(p26)
・2007年初めの『週刊現代』の八百長報道と2011年初めの「八百長」の実態はその内容が全然異なっている・・だいいち、その八百長批判キャンペーンの中心にいた武田頼政というノンフィクションライターの言説は・・かなりデタラメが目立った(p57)
・だいいち不思議なのは、警視庁が捜索していたのは野球賭博事件だ。その件のウラを取るために力士たちの携帯電話を押収した。そこで知りえた秘密をすべて第三者に明かしてしまってよいのだろうか・・それをわざわざ新聞記者にばらしてしまう(p252)
・同じ値段の席で、東側や西側の席はもっと下まで空いていても、正面や向正面の席ばかりが売られていく・・つまりテレビによく映る席から埋められていくのではないか、と・・実際、テレビで見ているだけでは、最近の両国国技館の大相撲のそこまでのガラガラぶりは伝わってこない・・私はむしろ、テレビで、その空席をもっと映してしまえば、と思っている(p34)
PHP研究所
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【私の評価】★★★★☆(82点)
目次
「大相撲」と「プロ野球」が終わりゆくマゾヒスティックな快感
空席と季節感
幕下の幕内以上に味わい深い世界を知る
なぜ時津風部屋事件は起きたのか
大阪府立体育会館で私は二日続けて座布団が飛び交う姿を見た
相撲のおかげ
朝青龍問題について知っておくべきこと
時津風部屋問題について
白露山と露鵬のこと
六本木に向かうグルジアの力士とロシアの力士
著者経歴
坪内祐三(つぼうち ゆうぞう)・・・1958年(昭和33年)東京都生まれ、 2020年没。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修士課程修了。月刊誌『東京人』の編集者を経て文芸評論家に。『慶応三年生まれ七人の旋毛曲り』(マガジンハウス)で第17回講談社エッセイ賞受賞。文芸誌『en‐taxi』の編集同人を創刊以来務めている
大相撲関連書籍
「一生懸命: 相撲が教えてくれたこと」貴乃花 光司
「新版「週刊ポスト」は大相撲八百長をこう報じてきた角界の闇に斬り込んだ30年間の取材記録」
「大相撲新世紀 2005-2011」坪内 祐三
「八百長―相撲協会一刀両断」元・大鳴門親方
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