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「ウイルスは悪者か―お侍先生のウイルス学講義」髙田礼人

本のソムリエ 2021/12/24メルマガ登録
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「ウイルスは悪者か―お侍先生のウイルス学講義」髙田礼人


【私の評価】★★★☆☆(77点)


要約と感想レビュー

 2019年末に中国の武漢市で新型コロナウイルスの感染が初めて報告されましたが、その直前の2013年から2016年に西アフリカでエボラ出血熱が流行しました。欧米でも感染が報告され、新型コロナのように「パンデミック(世界的大流行)」が起こる寸前でした。3万人が感染し、1万人以上が死亡しています。著者はその頃、20年間エボラウイルスの研究を続けており、薬剤候補をサルに投与し効果を確認していたのです。


 しかし、ヒト向けの治療薬の開発には膨大なコストがかかるだけでなく、臨床試験に必要な患者がいつどこで発生するのかわからず、市場性も少ないのですから、製薬会社もエボラ治療薬に資金を出そうとはしなかったのです。一方、アメリカでは著者の開発していた治療薬と同じコンセプトの未承認薬がエボラを発症したアメリカ人2人に投与されており、この2人の容態は回復しました。著者は日本の製薬会社に提案したもののまったく見向きもされず、悔しい思いでエボラ出血熱の流行を眺めるだけだったのです。


・薬をつくるのには膨大な時間とコストがかかる・・・動物モデルで安全性と有効性が確認された薬剤候補を、今度はヒトで確かめていく・・・創薬というのはきわめて大きな経営リスクを伴う(p102)


 面白いのは、当時のエボラ出血熱の流行時でも新型コロナに適用されている技術が使われており、抗体カクテルにしろ、ウイルスベクターワクチンも未承認段階ながら臨床試験段階に進んでいたということです。今回の新型コロナのパンデミックが起こり、ウイルスの遺伝子情報が公開されると短期間に大量のワクチンを製作・供給できたのは、こうした長年の研究が結実したということなのです。


 この本を読んでわかるのは、資金の豊富な欧米に比べ、著者は日本で研究資金を国や製薬会社から引き出せず、技術的には感染症の治療薬を開発できるのに開発できないという著者の悔しさです。これは国力の差によるものなのか、資金を配分している人の能力の差なのか、国民性によるものなのか、私にはわかりません。


・遺伝子から人工的にウイルスを作出するリバースジェネティック法によって、・・・遺伝子からウイルス粒子がつくり出され、さまざまな実験が行われている(p268)


 著者はウイルス研究の過程で、捕獲したネズミの内蔵をすりつぶしてウイルスがいないか確認する試験で、試料の入った注射器の針を自分の指に刺してしまう事故を起こしています。一歩間違えば、感染症にかかる可能性もあり、危険と隣り合わせの研究であることが伝わってきました。


 そして新型コロナではワクチン開発で欧米に遅れをとっていますが、技術的には日本でも開発できないわけではない、ということもわかりました。日本には、何が足りないのでしょうか。高田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・どこで発生するか分からない病気に対しては、臨床試験の計画を立てること自体が難しい(p102)


・エボラと高病原性鳥インフルエンザ、症状が似ている・・『鳥エボラ』とでも説明した方がピンと来るんじゃないかな(p128)


・香港のライブバードマーケットにいたニワトリたちは、抗生物質を含んだ餌を食べて育ってきたに違いない・・・薬剤耐性菌は、抗生物質が周囲に存在する環境で生まれてくる(p233)


・生きたニワトリが密集しているライブバードマーケットは、ウイルスの感染が広がりやすい環境だ(p293)


・Aソ連型は・・・1933年のウイルスがどこかの研究室から漏れ出たものだと推測されている・・スペインかぜの系統に連なるものだ・・・1977年にソ連かぜとして復活した(p302)


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▼引用は、この本からです

髙田礼人, 萱原正嗣 、亜紀書房


【私の評価】★★★☆☆(77点)


目次

プロローグ エボラウイルスを探す旅
第1部 ウイルスとは何者なのか
第2部 人類はいかにしてエボラウイルスの脅威と向き合うか
第3部 厄介なる流行りもの、インフルエンザウイルス
エピローグ ウイルスに馳せる思い―ウイルスはなぜ存在するのか



著者紹介

 髙田礼人(たかだ あやと)・・・1968年東京都生まれ。北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター教授。93年北海道大学獣医学部卒業、96年同大獣医学研究科修了、博士(獣医学)。
97年同大獣医学研究科助手、2000年東京大学医科学研究所助手を経て、05年より現職。07年よりザンビア大学獣医学部客員教授、09年より米NIHロッキーマウンテン研究所の客員研究員。専門は獣医学、ウイルス学。エボラウイルスやインフルエンザウイルスなど、人獣共通感染症を引き起こすウイルスの伝播・感染メカニズム解明や診断・治療薬開発のための研究を行っている


 萱原正嗣(かやはら まさつぐ)・・・1976年大阪府生まれ神奈川県育ち。大学卒業後、会社員を経て2008年よりフリーライターに。理系ライター集団「チーム・パスカル」所属。人物ルポから人文・歴史、社会科学、自然科学まで幅広いテーマを執筆。


ワクチン関連書籍

「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」峰宗太郎
「ワクチンは怖くない」岩田健太郎
「10万個の子宮:あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか」村中 璃子
「ワクチン鎖国ニッポン―世界標準に向けて」大西 正夫
「ワクチン学」山内一也、三瀬勝利
「新型コロナワクチン: 遺伝子ワクチンによるパンデミックの克服」杉本 正信


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