「ワクチンは怖くない」岩田健太郎
2020/05/11公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(97点)
要約と感想レビュー
なぜワクチンの訴訟からの免責がないのか
感染症の専門家としてテレビでよく見かける岩田健太郎医師の、ワクチン行政への提言です。海外と比べると日本のワクチン行政には様々な課題が見えてくるという。
なぜ海外ではワクチンの副作用は免責なのに、日本ではワクチンへ訴訟があるのか。米国ではワクチンでのインフォームドコンセントや有害事象の報告、そして有害事象に苦しむ方の救済制度ができており、ワクチンメーカーへの訴訟もルールに基づいているという。
日本では2013年の予防接種法の改正で、医療機関から副反応報告を義務化するようになりましたが、被接種者の補償のシステムは明確ではないという。報告した医療者やメーカーの訴訟からの免責もなく、定期接種よりも任意接種での補償額が低いのも問題だというのです。
また、海外で定期接種となっているおたふくかぜやA型肝炎ワクチンはなぜ、日本では任意接種なのか。なぜ、日本で肺炎球菌ワクチンは、65歳、70歳、75歳・・5歳刻みでしか予防接種を受けることができないのか。海外と比べるとワクチン行政に改善してもらいたい点が、他にもいろいろあるのです。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)やA型肝炎ワクチンなどは任意接種です。しかし、医学的に吟味すれば本来、定期接種に組み込むべきワクチンです・・・せめて医療保険に収載すべきなんです。医療保険は病気の治療に行うべきで、予防は関係ないという主張は詭弁です(p217)
日本はワクチン発展途上国
なぜ日本がワクチン発展途上国と呼ばれているのでしょうか。著者の答えは、ワクチンに詳しくない国会議員、官僚がワクチン接種の運用をこと細かく決めているからだという。つまり、ワクチン行政の理念と仕組みを創るべき政治家、官僚が、メーカーのロビー活動に影響を受け、財務省に口を出され、あるべき理念、仕組みを打ち出せていないのです。
日本の政治家にも官僚にも、ジャーナリストにもビジョン、理念はないと断罪しています。そのため、ワクチンのプロの仕事なのに具体的なワクチン接種の運用方法まで、法律の条文に加えようとしてしまうのです。日本のワクチン行政が遅れているのは、それぞれの役職が適材適所におらず、プロの仕事をできていないという。
勢い、仕事している感を出すために、ワクチン接種の運用方法にまで国会議員や官僚が口を出しているという。現状の日本の予防接種の運用方法は、素人の官僚が条文を書き、国会が決定しています。年3回専門家が予防接種の運用を決める米国に比べ著しく硬直化した、非科学的なものとなっているというのです。あまりに本質的な現状分析で、暗くなってしまいました。
日本では予防接種推進専門協議会というのが2010年に設立されました・・・しかし、予防接種法改正が行われ、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会が設立されたため、予防接種推進協議会がACIPのような意思決定機能をもつことができなくなってしまいました。分科会のメンバーは厚労省が選びますが、その人選の根拠は不明で公開されていません。例えば、新聞記者がメンバーに入っています(p218)
ワクチン行政の見直し
著者の提言は、政治家と官僚に細かいワクチンの運用ではなく、ワクチン行政の理念と仕組みを作ってほしいということです。具体的には、専門家が推奨される接種を決める。副作用の補償を明確にし、医師、メーカーは免責とし、必要な定期接種はいつでも無料または保険適用にするということです。
アメリカではワクチン業界から独立して科学的に予防接種の方針を決定できるACIP(予防接種諮問委員会)という仕組みがあるという。一方で、日本の委員会では、専門家でもない官僚や政治家が意思決定に口を出し、財務省の役人が口を挟み、背後に利益相反や思惑のある人たちがロビー活動をしているという。個々の予防接種の運用やワクチンの是非を、予防接種の素人である官僚や新聞記者や政治家が決めているのです。これが非論理で非科学的なことが横行する日本社会な現実なのです。
グローバル化し、世界の感染症が拡散している現在、早急にワクチン行政の見直しが必要なのではないでしょうか。今回の新型コロナウイルスでの対応でも、著者は同じことを言いたいのではないかと思いました。重要な提言ということで★5としました。岩田さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・池田氏はHPV(子宮頸がん)ワクチンで神経系の副作用が起きるという結論ありきでデータを集め、それを操作し、印象強く発表しました。朝日新聞も同様に、HPVワクチンの副作用で苦しむ人がいてかわいそうだ、このワクチンはけしからん、という結論ありきで記事を書いています(p78)
・他人の血液から作る血液製剤は感染症のリスクをはらんでいます・・・しかし、遺伝子組換えによる免疫グロブリンならば、このような感染症のリスクはほぼありません・・現時点では遺伝子組換えによる免疫グロブリン製剤は日本の医療現場では用いられていません(p119)
・予防接種には本来的に利点と欠点があります。接種者に健康をもたらすこともあれば、不健康をもたらすこともあります・・・多数の方にワクチンを接種していればある一定の確率で不健康のほうが健康よりも大きくでてしまう方が出現します・・・しかし、その制度を越えてさらに訴訟を起こしたいという動機はどこからくるのでしょう(p223)
【私の評価】★★★★★(97点)
目次
第1章 子宮頚がんワクチンとメディア―ワクチンの現在
第2章 感染症と戦う―ワクチン・免疫とは何
第3章 「あなたの健康」を目指せ!―ワクチンの未来と理念
著者経歴
岩田健太郎(いわた けんたろう)・・・1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター感染症リスクコミュニケーション分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授
子宮頸がんワクチン関連書籍
「変異ウイルスとの闘い―コロナ治療薬とワクチン」黒木 登志夫
「ワクチンは怖くない」岩田健太郎
「10万個の子宮:あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか」村中 璃子
「ワクチン鎖国ニッポン―世界標準に向けて」大西 正夫
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