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「変異ウイルスとの闘い―コロナ治療薬とワクチン」黒木 登志夫

2023/10/20公開 更新
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「変異ウイルスとの闘い―コロナ治療薬とワクチン」黒木 登志夫


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

ワクチンの副作用

新型コロナウイルスとは何だったのか、自分の中で整理するために関連書籍を3冊ほど読んでみました。その中で一番、整理されていたのでこの本をご紹介します。短期間に開発されたmRNAを利用したフィザー・モデルナのワクチンは、効果のないプラセボ接種も含めた臨床試験で90%以上の有効性を示して医療業界を驚かせました。


また、ワクチンが世界で接種された結果、血栓症や心筋炎などの副作用が報告されていますが、リスクvsベネフィットという観点で見れば、副作用は小さいと考えられています。実際、新型コロナウイルの死亡率から推定されるワクチン接種がない場合の推定死亡者数と、ワクチン接種後の実際の超過死亡者数を比較すれば、ワクチンの効果は明らかなのです。


2021年3月から6月にかけてイギリス、ドイツ、オーストリア、ノルウェーの病院に、血栓症で入院する若い人が増えてきた。・・共通点として、2週間前にアストラゼネカのワクチンを受けている(p118)

日本がワクチン開発に遅れた原因

日本がワクチン開発に遅れた原因は、そもそも日本ではワクチンについて非常に後ろ向きの対応を取ってきたという現実を説明しています。大きな転換点になったのは、子宮頸がんワクチンが原因と思われる副作用をマスコミが報道し、被害者訴訟も起こされて、こうした問題を過度に恐れた厚労省は、子宮頸がんワクチンを「推奨しない」に変更してしまったのです。その他ワクチン接種についても、厚労省は、「罰則ありの接種義務」から「努力義務」と変更してきた歴史があるのです。


世界では、ワクチンに一定の副作用が出るのは想定内であり、データに基づくリスクvs利益で明らかにメリットのある場合は、接種義務とする国が主流です。しかし、日本では「努力義務」でワクチンの安定した需要が見込めないので、日本でワクチン開発は難しいのが現実なのです。今回の新型コロナウイルスの日本国のワクチン開発費は100億円、アメリカは1兆円と大きな差があり、さらに欧米では民間製薬会社がワクチンに多額の投資を行っているのです。


著者はワクチンはシートベルトと同じように義務化するべきであるとしています。シートベルトを締めてたために事故時にシートベルトに締め付けられて死亡する人もいますが、多くの場合は放り出されないことで死亡確率は下がるのです。シートベルトを締めていたので死亡したと、裁判で訴えて、シートベルトを廃止しようとする人がいたら、あなたはどう思うでしょうか。


厚労省は、予防接種法の「罰則ありの接種義務」の方針を、「罰則規定なし」(1976年)、1994年には「努力義務」、ついにはPHVワクチンで「推奨せず」に変更・・その背景に、リスクvsベネフィットという相対的、確率的なワクチンの審査基準を理解せず、少しでも副反応があれば許せないというマスコミがいたのも事実である(p129)

医療崩壊の原因

また、日本では病床数が多いにもかかわらず、医療崩壊の怖れが報道された背景には、8割の民間病院に勧告はできますが命令はできないという状況を説明しています。また、日本の病院では80%の病床稼働率がないと赤字となる構造となっており、通常から病床に空きはほとんどないのです。著者は、自分の病院が2/3程度しか稼働していないので、文科省に呼び出されて、稼働率が低すぎると怒られたことがあるという。


著者の提案は、再度パンデミックが起きたときには、臨時の野戦病院を作ることです。なぜならば、今回、2020年度だけで、空き病床保障だけで1兆1424億円を使っており、これだけの予算があれば、野戦病院がいくつも建てられるからです。


今回の新型コロナウイルスは、日本のワクチン行政の課題と、世界との差を明らかにしました。厚労省も世界標準に合わせるしかないのだと思います。黒木さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・ワクチンは、パンデミックの世界を生き抜くための「シートベルト」である。そう考えれば、シートベルトと同じように、ワクチン接種を義務化してもいいはずだ(p135)


・アメリカの緊急医療・・救急車は優良である・・保険でカバ-される金額を差し引いた後に自分で支払う金額は、高い掛け金の保険に加入していても、基本料金だけで500~1000ドルはかかる(p197)


・スピードが遅い・・政府は、ワクチンのために100億円の研究費を用意したが、その研究費を配分するAMEDは平時の対応をした。いつも通り・・募集要項を作り、公募し、書類審査をし、ヒアリングを行い、・・決まったのは2020年9月末。フィザーBNTワクチン、モデルナワクチンは、すでに第3相の臨床試験が半ばを過ぎていた(p153)


▼引用は、この本からです
「変異ウイルスとの闘い―コロナ治療薬とワクチン」黒木 登志夫
黒木 登志夫 、中央公論新社


【私の評価】★★★★☆(83点)


目次

第1章 パンデミックは続く、変異も続く
第2章 ワクチンの基礎知識
第3章 ワクチン開発物語
第4章 ワクチンをめぐる「困った問題」
第5章 日本のワクチンはなぜ遅れたのか
第6章 治療薬への期待
第7章 医療逼迫はなぜ起こったか
終章 コロナ禍の終わりに向けて



著者経歴

黒木登志夫(くろき としお)・・・1936年、東京生まれ。東北大学医学部卒業。専門はがん細胞、発がんのメカニズム。1961から2001年にかけて、3カ国5つの研究所でがんの基礎研究をおこなう(東北大学加齢医学研究所、東京大学医科学研究所、ウイスコンシン大学、WHO国際がん研究機関、昭和大学)。英語で執筆した専門論文は300編以上。その後、日本癌学会会長(2000年)、岐阜大学学長(2001-08年)、日本学術振興会学術システム研究センター副所長(2008-12年)を経て、日本学術振興会学術システム研究センター顧問。2011年、生命科学全般に対する多大な貢献によって瑞宝重光章を受章。


子宮頸がんワクチン関連書籍

「変異ウイルスとの闘い―コロナ治療薬とワクチン」黒木 登志夫
「ワクチンは怖くない」岩田健太郎
「10万個の子宮:あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか」村中 璃子
「ワクチン鎖国ニッポン―世界標準に向けて」大西 正夫


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