「日本の医療の不都合な真実 コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側」森田 洋之
2021/03/08公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(96点)
要約と感想レビュー
日本全体の死亡者数は減った
アメリカでは2020年新型コロナウイルスで死亡した人が40万人。超過死亡も40万人で、アメリカでは新型コロナで40万人が亡くなったことは確実と考えられています。ところが日本では新型コロナウイルスで死亡した人は1万人にもならず、死亡超過どころか日本全体の死亡者数は減ったという。
人口100万人あたりの死亡者数では(2020年8月31日現在)アメリカ553人、イタリア587人、日本10人なのです。つまり、日本では新型コロナウイルスで死亡した人が少ないだけでなく、自粛生活で死亡する人がそれ以上減ってしまったということです。
さらに病院の現場を知る著者の印象では、新型コロナウイルス肺炎で死亡するのは80歳以上がほどんどで、その中には多くの老衰で亡くなっていたであろう人が紛れ込んでいるという。そもそも肺炎で死亡する人は毎年10万人ほどで、その多くは高齢者です。その肺炎の人たち全員にコロナのように人工呼吸器を付けることはありません。肺炎の患者全員に付けていたら、コロナのように人工呼吸器が足りなくなって「医療崩壊」が起きるのです。
第1波最高潮の4~5月でさえ、日本では超過死亡(例年の死者数をもとにした予想死者数を超えた分の死者数)がほぼ発生していなかったのです。たしかに欧米では本当にひどいコロナ被害が出ました。死者数が例年の2倍にもなってしまった国がいくつもあります。(p5)
日本の病床は欧米の10分の1の2%
よく言われる疑問として、なぜ日本では欧米の10分の1程度の病床の2%しか新型コロナ病床が準備されていないのかということです。病床が十分にあれば、緊急事態宣言は回避または短縮できたのではないかという点です。この本では欧米では公的病院が多いこと、そしてドイツの例としてコロナ専門病床に補助金を出したことが紹介されています。
日本の病院は診療報酬を減らされて赤字ギリギリで運営されており、来るかどうかわからない患者のためにコロナ専門病床を作ればすぐに赤字になってしまうという。その点については昨年12月以降日本でもコロナ病床への支援金が出ていますので、これで増えないとすれば、日本は満床を基本に運営されているので短期間に空きをつくれない点を考慮しても、日本医師会が代表する民間病院の言い逃れは通用しないということです。
2020年3月から4月にかけてのドイツの病院事情・・・待機手術を減らしすべての予定手術が延期・・・待機手術中止による空床1床に対し、1日あたり560ユーロ(6万5000円程度)、ICU1床増設に対し5万ユーロ(600万円程度)の助成金が決定したということです。その結果、数日のうちに一気に病棟はガラガラになり、病院にコロナ専門のICU病床も増設されました・・・国としてドイツ全体のICU病床を2万8000床から4万床まで増やす(日本はその時点で6500床)ことが計画された(p100)
新型コロナの自粛は人々の生活を破壊する
新型コロナについて著者が言いたいことは、自動車の運転を止めれば、世界中で交通事故で死ぬ年間約100万人の命を救えるのです。しかし私たちはそんなことはしません。新型コロナによる経済活動の自粛は、自動車の運転を止めるような、人々の生活を破壊する暴挙に見えるということです。
新型コロナで亡くなる人は70歳、80歳がほとんどで特に日本では重症化する人は限定されている中で、旅行業界や飲食業界を殺してよいのかということなのです。
交通事故で3000~5000人、インフルエンザで1万人、自殺で2万~3万人の日本人が毎年死んでいます・・・新型コロナウイルス肺炎は、この世に登場してから通算でまだ千数百人しか日本人の命を奪っていません・・・批判を恐れず率直に言えば、高齢者医療の現場である病院・施設は「ゼロリスク神話」による管理・支配によって、高齢者の収容所になりつつあります(p212)
病床を埋めるために病人が作られている
同じように著者が言いたいことは、日本の医療が本当に人間の幸福に貢献しているのか、ということです。意識のない高齢者を胃ろうと呼吸器で生かしておくことは、本人の尊厳を尊重しているのだろうか。無意味な検査や、不要な薬を出し、病床を増やして病人を作り、医療費を浪費してよいのかということです。
高知県民は1年間に34万円を使って、最も低い静岡県は19万円しか使ってません。高知県は人口10万人あたり2522の病床を持っているのに対して、神奈川県は810床。「病床を埋めるために病人が作られている」のが現実なのです。
これまで読んできたコロナ本の中で、より現実をデータで示しつつ、未来への提言を含むものでした。日本人には受け入れがたい提案もあるかと思いますが、欧米での例も参考によく考えるべきことが医療には多くあるのだと感じました。森田さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・一般的なクリニックの外来には、マッサージ目的やら「栄養の点滴をしてほしい」やら「先生の顔が見たい」やらで訪れる高齢者も大勢います・・・あまり状態に変化がないのに高血圧や糖尿病の薬を毎月もらいに行くこともあるはずです(p147)
・私の経験上、入院している慢性疾患の患者さんの多くは「住み慣れたわが家に帰りたい」と願っています・・・日本人の死に場所は8割が病院ですが、アメリカは4割、オランダは3割です(p159)
・医師を辞めようと思った、とある病院での光景・・・療養病院で、意識なく延命されている患者さんたちが病棟を埋めている現実を見たのです。医療という高度で崇高な技術が、本当に人間の幸福のために使われているのか疑いたくなるような光景がそこには広がっていました(p161)
【私の評価】★★★★★(96点)
目次
第1章 コロナ禍で起きた「おかしなこと」
第2章 人はウイルスとは戦えない
第3章 各国のコロナ対応、その背景と結果
第4章 日本の医療をめぐる7つの誤解
第5章 医療崩壊した夕張で起きたこと
終章 医療に私たちの人生を明け渡さないために
著者経歴
森田洋之(もりた ひろゆき)・・・1971年横浜生まれ。医師、南日本ヘルスリサーチラボ代表。鹿児島医療介護塾まちづくり部長、日本内科学会認定内科医、プライマリ・ケア指導医、元鹿児島県参与(地方創生担当)。一橋大学経済学部卒業後、宮崎医科大学医学部入学。宮崎県内で研修を修了し、2009年より北海道夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て、鹿児島県で研究・執筆・診療を中心に活動。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。2020年、鹿児島県南九州市に、ひらやまのクリニックを開業。医療と介護の新たな連携スタイルを構築している
新型コロナウイルス関連書籍
「日本の医療の不都合な真実 コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側」森田 洋之
「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」峰 宗太郎, 山中 浩之
「インフルエンザ・ハンター」ロバート・ウェブスター
「新型コロナ 7つの謎 最新免疫学からわかった病原体の正体」宮坂 昌之
「新型コロナの正体 日本はワクチン戦争に勝てるか! ?」森下竜一, 長谷川幸洋
「医療崩壊の真実」渡辺 さちこ、アキよしかわ
「コロナ自粛の大罪」鳥集 徹
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