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「医療経済の嘘」森田 洋之

2021/03/17公開 更新
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「医療経済の嘘」森田 洋之


【私の評価】★★★★★(90点)


要約と感想レビュー

病院が減っても死亡率は横ばい

病気を治したいと医師になった著者は、療養病院で胃ろうや気管切開され、意識ないまま骨と皮だけの患者を見て、医師を辞めよう、と考えたという。そうした病院では、管を抜こうとする患者がいると手足を縛って動けなくしてしまうこともあるのです。なぜなら、もし患者が医療ミスで死亡したら訴えられる可能性があるからです。


こうした問題意識を持ちながら、著者は、財政破綻した夕張市で「住民に近い地域医療」を実践する村上智彦医師と出会い、理想の医療と出会うことになるのです。夕張市では171床の総合病院が閉院となり、19床の診療所だけになりましが、なぜか死亡率は増えなかったという。在宅医療が増え、老衰で亡くなる老人が増えたからです。


病院閉鎖後、夕張の医療費は減っています・・・夕張市民のSMR(死亡率)は、やはり病院閉鎖前後で比較しても総じて横ばいというところでしょう。率ではなく、死亡の実数も横ばいです(p36)

病院は病床を増やして利益を出す

著者が指摘するのは、病床を増やして薄利多売でなんとか利益を出している日本の医療の現実です。診療報酬はだんだんと減っていきます。だから患者を増やして売上を維持するのです。


安定した糖尿病の患者も月2回来院させる。高齢者の認知症も精神病院で受け入れる。寝たきり高齢者も病院で寝ていてもらう。こうやって収支はギリギリなのです。患者さんのためを思って、薬を減らして、来院回数を減らし、できるだけ自宅で最後の時間を過ごしてもらおうとすると赤字になってしまう。おまけに、できるだけ患者さんの人間らしい生活を尊重して胃ろうや気管切開をしなければ誤嚥(ごえん)による肺炎で死亡するリスクがあり、遺族から訴えられる事例さえあるのです。


「誤嚥(ごえん)事故訴訟・病院側と和解 遺族に600万円」入院中に一人で食事をしていた80歳男性の患者さんが、おにぎりを誤嚥して窒息死してしまったことによる訴訟です(p137)

病床が病人を作っている

日本では1人あたり入院医療費と人口当たりの病床数とに比例関係があるという。地域により病気になりやすさが変わらないとすれば、病床が病人を作っているのです。つまり、1人あたり入院医療費の高い高知県、徳島、香川他四国各県、鹿児島、長崎、熊本他九州各県、北海道などは病床を増やして病人を作り、医療費が増えているのです。


2016年には、日本老年歯科医学界の全国大会で医師から「食べちゃダメ」と言われて、胃ろうなどの管から栄養を補給されている方々のうち8割の方が、実は食べることができた、という報告がありました。「胃ろう」が造られている患者は、そうでない患者の介護に比して、労力がかからず、それに比べて報酬が高いので、「胃ろう」があることが介護施設入所の条件になることが多いというのです。


反対に1人あたり入院医療費の安い岩手県、愛知県は、九州、四国、北海道のように、そこまでなエグイことはとてもできないということなのでしょう。医療についてはもう少し調査してみたいと思います。森田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・多くの研究の結果、『病院の存在や非存在』と『住民の死亡率(SMR)』のあいだに因果関係はないことがわかっている(p7)


・後期高齢者の1人あたり入院医療費では1位が高知県の68.2万円と最低額の岩手県の34.1万円の2倍、高齢者意外の市町村国保の1人当たり入院医療費でも、1位が鹿児島県18.6万円と最低額の愛知県10.6万円の1.76倍(p20)


・高齢になっても最後まで諦めずに病院で胃ろうも気管切開も、中心静脈栄養も、できることは何でもしてほしい、という選択は尊重されるべきでしょう。でも本当に8割の人がそれを希望しているのでしょうか?(p120)


・夕張では孤独死も結構ありました。実はそれに対して、「うらやましい」と言う人もいます。なぜでしょうか?・・・それまでの生活が「孤独」ではなく、地域の人々と楽しく関わりながら暮らしていてその末にコロッと逝けたのであれば、それはある意味「うらやましい」と思える、ということです(p76)


▼引用は、この本からです
「医療経済の嘘」森田 洋之
森田 洋之、ポプラ社


【私の評価】★★★★★(90点)


目次

第1章 なぜ高い医療費を払っても健康にならないのか?
第2章 病院ゼロ、高齢化率日本一の夕張市で起こったこと
第3章 人口10人・高齢化率100%の集落から見た新しい医療のあり方
第4章 医療市場の不都合な真実
終章 みんなが幸せに暮らせる「本当の医療」とは



著者経歴

森田洋之(もりた ひろゆき)・・・医師、南日本ヘルスリサーチラボ代表。鹿児島医療介護塾まちづくり部長、日本内科学会認定内科医、プライマリ・ケア指導医、鹿児島県参与(地方創生担当)。1971年横浜生まれ。一橋大学経済学部卒業後、宮崎医科大学医学部入学。宮崎県内で研修を修了し、2009年より北海道夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て、鹿児島県で研究・執筆・診療を中心に活動している。


日本の医療問題関連書籍

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「続 ムダな医療」室井一辰
「医療の限界」小松 秀樹
「大往生したけりゃ医療とかかわるな」中村 仁一
「神の手の提言―日本医療に必要な改革」福島 孝徳
「在宅医療の真実」小豆畑 丈夫


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