【書評】「「世界で戦える人材」の条件」渥美育子
2020/05/06公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
異文化理解の教育
著者は、IBM、フォード、ゼロックス、デュポンなどのグローバル企業向けに異文化理解の教育を行なってきました。
異文化理解とはどういうことかというと、例えば、日本では問題が発生すると、良い悪いにかかわらず謝罪してしまう。米国ではこれではだめで、最初からCEOが記者会見をして、問題解明と対策を陣頭指揮することを表明するのが誠意ある対応なのです。
こうした文化的な違いを全世界の国別にどうすればいいのか体系化し、教育しているわけです。
日本では、問題が起きたら「情報収集が先で、今は意見を言えない」と対応し、その後お詫び会見をして深々と頭を下げる、というのが誠意ある行動とされる。だが、これは米国では通用しない(p138)
異文化理解の分類
この本では世界を4つに分類しています。法的規範(リーガルコード)文明圏、道徳的規範(モラルコード)文明圏、宗教的規範(レリジャスコード)文明圏、混在(ミックスコード)文明圏です。フランス、イタリアなどのカトリックの南部ヨーロッパ諸国がモラルコードだというのには、ちょっと驚きました。
モラルコードの国では、統一されたルールの重要性は、なかなか理解しにくいという。つまり、ワイロを権力者に支払って発展途上国の案件を取る、などというビジネスに違和感を持たないというのです。ワイロは法的規範(リーガルコード)文明圏には通用しないのです。
そうした文明圏を頭に置いたうえで、国別の歴史、伝統、文化を示し、現地人の価値観を合う要因と、反発を引き起こす要因を整理しています。できるだけ相手国の文化を理解し、地雷を踏まないようにするということなのでしょう。
メキシコ人は最初に全体像を知ってから、個々のポイントを理解しようとする・・・重要なことは会って話すべきという考えがあったのに対し、米国人は重要案件もメールで送ってすませるなど、ここでも齟齬があった(p145)
異文化の差
日米だけでも、異文化の差は大きいという。例えば、モラルコードの日本では「本音と建前」という言葉がありますが、これをリーガルコードの人に英語で解説しようとすると、即座にダブルスタンダード(二重基準)だと捉えられてしまいます。著者は、建前は「舞台の上の現実」、本音とは「楽屋の現実」だと説明したという。
品質についても日米間の食い違いが大きく、日本の過剰品質を著者が「母親が「素晴らしい赤ちゃんであってほしい」と願うように、モノづくりに携わる日本人は最高の製品であってほしいと魂を込めて作るのだ。製造は創造(Creation)なのだ」と説明したら、米国人が目に涙を浮かべていたという。
これだけ新型コロナウイルスが広まったのも、グローバル化の進展のためだと思います。これからグローバル化は後退するかもしれませんが、すでに世界の国々はつながっているのです。
文化の違いは折り合わないところもあると思いますが、折り合わないことを理解することが大事なのでしょう。渥美さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・リーガルコード文化圏・・・神と人とが直接向き合うキリスト教新教(プロテスタンティズム)と、そこに不随する倫理性にあるといえる(p128)
・モラルコードにはカトリックも含まれるので、旧約聖書への理解は欠かせない。そしてレリジャス(宗教)コードであるイスラムについては、何をおいてもイスラム教の戒律の理解は不可欠である(p153)
・どのように倫理やリーガルコードを身につければいいのか・・・「法の支配」で立ち向かうこと・・・たとえば尖閣諸島問題では、中国との関係悪化による経済問題なども生じ、歯切れのいい対応ができていなかった。あくまで「法」をもってこうした問題に立ち向かわねばならない(p163)
・相手が大変協力的だったために、親切のつもりで「次はディスカウントする」と言ってしまったのである。あとで偶然、当時の内部資料を見る機会があったが、「価格体系が標準化されておらず、プロフェッショナルとは言えない」というコメントが書いてあった。日米のビジネス習慣には、このように大きな違いがある(p28)
・中国人は国を挙げて目標を設定し、どんな手段をとってでも必ずそれを達成する行動パターンが顕著である。そこにいわゆる「中華思想」が入ることで、世界の制覇という最終目標が生まれてくる・・元々中国人はこうしたマインドセットを持っている肝に銘じたほうがいい、ということだ(p207)
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第1章 日本人女性起業家、米国で躍進する
第2章 グローバリゼーションとの出会い、そして衝撃
第3章 「文化」という要素から世界が見えた!
第4章 本当の「グローバル化」を理解する
第5章 グローバルマインドを心に設定する「道1」
第6章 "文化の世界地図"で、世界を俯瞰的に見る「道2」
第7章 倫理とリーガルマインドを強化する「道3」
第8章 日本のDNAを磨き、日本型グローバル人材を目指す「道4」
第9章 21世紀の学習方法に切り替える「道5」
著者経歴
渥美育子(あつみ いくこ)・・・社団法人グローバル教育研究所理事長。株式会社グローバル教育社長。青山学院大学卒。青山学院大学助教授を経て、ハーバード大学研究員となる。1983年にボストン郊外で米国初の異文化マネジメント研修会社を設立。「タイム」誌に紹介されるなど一躍話題となり、数多くのグローバル企業で人材育成や世界市場戦略策定を担当。2007年に帰国後は、多くの日本の大企業においてグローバル人材教育を担当する一方、子どものグローバル教育の普及にも尽力している。超党派政策シンクタンク「国家ビジョン研究会」教育分科会副会長
異文化関係書籍
「異文化理解力 ビジネスパーソン必須の教養」エリン・メイヤー
「異文化理解の問題地図」千葉 祐大
「「世界で戦える人材」の条件」渥美育子
「武器になるグローバル力 外国人と働くときに知っておくべき51の指針」岡田 兵吾
「フランスの悪魔に学んだ3秒仕事術」本谷 浩一郎
「日本人が海外で最高の仕事をする方法―スキルよりも大切なもの」糸木 公廣
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