「医学部の大罪」和田 秀樹
2019/05/31公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(94点)
要約と感想レビュー
医学部の多い県では老人医療費が高い
6年前に和田さんが病院、医学部について改善提案した一冊です。いきなり最初に、医学部の多い県では 平均寿命が短く、老人医療費が高いという話題から入ります。その原因としては、日本では実験、データに基づかない治療・健診が多すぎる点を指摘しています。高齢者の薬漬けや、根拠のないメタボ診断、副作用のある抗うつ剤SSRIの大量販売、効果の少ないガン検診などが紹介されています。
例えば、日本老年医学会は最近「高齢者に薬を使いすぎるな」としていますが、これまで高齢者を薬漬けにしてきた張本人だという。日本老年医学会の専門医が多い県ほど、平均寿命が短く、医療費がかかっているというのです。また、メタボリック・シンドロームについても、その基準は、エビデンスに基づいたものではなく、提唱者である大阪大学の松澤佑次名誉教授が製薬会社から数臆円の研究費を受けとっていたという。
同じように糖尿病の治療についても、アメリカので行われた大規模な調査では旧来型の、正常値にまで糖尿、血糖値を抑える治療はやらないほうがいいという結論が出たという。ところがこれが、日本ではまったく無視されているのです。また、高齢者は多少血糖値が高くても、死亡率が低下しないという日本の論文も無視され続けているという。
さらに、新型抗うつ剤SSRIについては、認可された当初は、日本の精神科の業者たちは画期的だ、素晴らしいとキャンペーンを張りましたが、すでにアメリカではSSRIの服用により、自殺者や犯罪者が出ていたという。日本でもその後、池田小の連続児童殺傷事件、秋田の連続幼児殺傷事件、全日空機のハイジャック犯や川崎の小学生投げ落とし事件の犯人などが、SSRIを服用していたというのです。
・宮城県で、4万4000人を対象に調べたところ、メタボ検診に引っかかるような太めの人のほうが、痩せ型の人よりも、6年から8年、寿命が長いことが明らかになったのです(p109)
日本では教授になると勉強しなくなる
こうした日本の医療の問題の原因として、医療の世界では競争原理が働かないことを指摘しています。例えば、医師免許を取ってしまえば、医師としての地位を維持できる。医学部の教授になってしまえば、定年まで居座ることができる。だから努力しない。アメリカでは金を調達出来る人が教授になり、研究を進めるのですが、日本では逆に、教授になるとまったく勉強しなくなるというのです。
教授が勉強しないからガンについては、日本では放射線治療、緩和医療、免疫学が遅れており、古いタイプの外科医が力を持っているという。そのためアメリカではガンの治療は、放射線治療と外科治療が半々ぐらいの割合なのに対し、日本では外科的に切除する治療が主流なのです。また、近藤先生が日本で提唱した乳ガンの乳房温存療法は、15年も無視されたという。日本では臨床の現場で指導医として研修医を指導する人よりも、論文をたくさん書いた人のほうが出世して教授になるわけで、厚生労働省は、論文ばかり書いて臨床をやらない医師が教授になるのはまずいと主張していますが、文部科学省はを無視し続けているというのです。
・「いったん教授になったら、定年まで居座ることができる」という仕組みが・・・日本の医学の進歩を遅らせる大きな要因となっています(p78)
がん検診でがんは減らない
衝撃的なのは、検診で早期発見する価値のあるガンというのは、乳ガン、子宮ガン、直腸ガンなど数種類しかなく、がん検診でがんは減らないとの記載です。つまり、ガン検診で助からないガンを検診で見つけても、あまり意味がないのです。逆に余命一年なのに、抗ガン剤を飲まされたり、仕事を辞めさせられたりして、人生の最後を苦しみながら死んでいく人が多いというのです。
実際、フィンランドの保健局が行った大規模な調査研究で、最初の5年間、4カ月ことに健康診断を受け、数値が高い者に治療や投薬、食事指導が行われた介入群に対し、何もしない放置群のほうが、ガンなどの死亡率、自殺者数、心血管性系の病気の疾病率や死亡率が低かったという。日本の医学部は研究でも、臨床でも、世界的にまったくレベルが低く、仕組み自体に課題があるとしています。そしてそれを誰も言い出せないのが、現在の日本の医学界なのです。
それでも日本の医療が維持できているのは、現場の医師が真面目なこと、他の医師に負けたくないという思いを持っているからではないか、としています。もう少し医療の世界を調べてみたくなりました。和田さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・高齢者の正常値というのは、よくわかっていない・・・そもそも、「正常値」の多くは、「この値がいちばん病気になりにくい」という根拠のある値なのではなく、要は、「平均値プラスアルファ」にすぎない(p53)
・「余命3カ月」のウソ・・「余命3カ月です」と宣言しておいて半年生きたら、「先生のおかげです」ということになる・・だから、医者はなるべく短く言う・・心ある医者は余命宣言はしない。「それはね、本人の免疫機能次第ですから」とか、そういう言い方をする(p88)
・アメリカに留学したときにいちばんびっくりしたのは、MR(製薬会社の医薬情報担当者。要するに営業マンです)が来て薬を紹介されたとき、研修医ですら、まっさきに副作用について、しつこく聞くことでした。次のゴルフの打ち合わせと、薬のよいところしか聞かない日本の医者とは大違い。それは、アメリカでは、もし薬で副作用が出たら、処方した医者も訴えられるからです(p139)
・さまざまなかたちでの製薬会社から医師へのキックバック・・写真週刊誌は、大学教授の家を、大学からもらっている年収を添えて紹介する特集でも組んでみたらいいんじゃないかとすら思います。「年収1500万円 田園調布150坪」「年収1200万円 成城100坪」とか(p142)
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2013-11-15)
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【私の評価】★★★★★(94点)
目次
第1章 超高齢社会に対応できない医学部
医学部の少ない県ほど、寿命が長く、医療費も少ない
第2章 ガンも減らず、ガンで死ぬ人も減らせない医学部
ガン検診の普及でガンが増える不思議
第3章 心の時代に背く医学部
四十未満の死因第一位の自殺にも対応できない
第4章 製薬会社の治験機関でしかない医学部
メタボブームのインチキはなぜ起こったか?
第5章 優秀な学生をバカにして送り出す医学部
大学病院に研修医が集まらなくなっているわけ
第6章 医療行政を歪める医学部
既得権の権威主義から競争原理の働く実力主義へ
ちょっと長いあとがき 先進医療立国日本に向けて
著者経歴
和田秀樹(わだ ひでき)・・・1960年大阪府生まれ、精神科医。東京大学医学部卒、東京大学付属病院精神神経科助手、アメリカ・カールメニンガー精神医学校国際フェローを経て、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学)、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。老年精神医学、精神分析学、集団精神療法学を専門とする
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