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「医学部の大罪」和田 秀樹

2019/05/31公開 更新
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医学部の大罪 (ディスカヴァー携書)


【私の評価】★★★★★(94点)


要約と感想レビュー

 6年前に和田さんが病院、医学部について改善提案した一冊です。いきなり最初に、医学部の多い県では 平均寿命が短く、老人医療費が高いという話題から入ります。


 その原因としては、日本では実験、データに基づかない治療・健診が多すぎる点を指摘しています。高齢者の薬漬け・・効果の少ないガン検診・・根拠のないメタボ診断・・副作用のある抗うつ剤SSRIの大量販売。


・宮城県で、4万4000人を対象に調べたところ、メタボ検診に引っかかるような太めの人のほうが、痩せ型の人よりも、6年から8年、寿命が長いことが明らかになったのです(p109)


 こうした日本の医療の問題の多くは、医療の世界では競争原理が働かないことを指摘しています。


 例えば、医師免許を取ってしまえば、医師としての地位を維持できる。医学部の教授になってしまえば、定年まで居座ることができる。だから努力しない。アメリカでは金を調達出来る人が教授になり、研究を進める。逆に日本では、教授になると、まったく勉強しなくなるというのです。


・「いったん教授になったら、定年まで居座ることができる」という仕組みが・・・日本の医学の進歩を遅らせる大きな要因となっています(p78)


 日本の医学部は研究でも、臨床でも、世界的にまったくレベルが低く、仕組み自体に課題があるとしています。そしてそれを誰も言い出せない。それでも日本の医療が維持できているのは、現場の医師が真面目なこと、他の医師に負けたくないという思いを持っているからではないか、としています。


 もう少し医療の世界を調べてみたくなりました。和田さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・日本老年医学会・・・最近になってようやく「高齢者に薬を使いすぎるな」というようなことを言い出しましたが、それまで基本的にはずっと高齢者を薬漬けにしてきた張本人です・・日本老年医学会の専門医が多い県ほど、じつは平均寿命が短く、医療費がかかっている(p47)


・高齢者の正常値というのは、よくわかっていない・・・そもそも、「正常値」の多くは、「この値がいちばん病気になりにくい」という根拠のある値なのではなく、要は、「平均値プラスアルファ」にすぎない(p53)


・現在、アメリカでは、ガンの治療は、放射線治療と外科治療が半々ぐらいの割合となっているのに対し、日本は相変わらず、外科的に切除する治療が主流です(p80)


・中間派の医師たちによると、検診で早期発見する価値のあるガンというのは、乳ガン、子宮ガン、直腸ガンなど、数種類しかなくて、あとは、進行が速いか遅いかのどちらかだから、検診をしてもほとんど意味がない(p86)


・結局、ガン検診でガンは減らせません・・助からないガンを検診で見つけても、あまり意味がない・・・それどころか・・余命一年などともうわかっているのに、抗ガン剤を飲まされたり、仕事を辞めさせられたりして、QOLは著しく損なわれます(p86)


・「余命3カ月」のウソ・・「余命3カ月です」と宣言しておいて半年生きたら、「先生のおかげです」ということになる・・だから、医者はなるべく短く言う・・心ある医者は余命宣言はしない。「それはね、本人の免疫機能次第ですから」とか、そういう言い方をする(p88)


・ガンについては、放射線治療は遅れているわ、緩和医療は遅れているわ、免疫学は遅れている・・その一方で、心臓の専門家、メタボ対策、動脈硬化やコレステロール対策の医師と、そして、古いタイプの外科医が威張っている・・(p95)


・近藤先生が日本に持ち込んだ乳ガンの乳房温存療法は、15年もの間、無視されました。新しい治療法をわざと15年も送らせた罪の大きさは、何度書いても書き足りない(p96)


・メタボリック・シンドロームの提唱者である大阪大学の松澤佑次名誉教授が製薬会社から9億円だか11臆円だかの研究費を受けとっていた・・メタボ検診に用いられた基準は、きちんとしたエビデンスに基づいたものではありませんでした(p108)


・糖尿病の治療について、アメリカの国立衛生研究所(NIH)の下部組織の主導により・・行われた大規模な調査がアコード(ACCORD)試験で・・旧来型の、とにかく正常値にまで糖尿、血糖値を抑える治療はやらないほうがいいという結論。ところがこれが、日本ではまったく無視されているのです(p121)


・高齢者は多少血糖値が高くても、死亡率が低下しないという論文を、浴風会の糖尿病の先生が出していたのに、その結果は無視され続けました(p126)


・「フィンランド症候群」のデータも無視・・・フィンランドの保健局が行った大規模な調査研究・・最初の5年間、介入群は4カ月ことに健康診断を受け、数値が高い者にはさまざまな薬剤が与えられ、アルコール、砂糖、塩分の節制をはじめとする食事指導も行われました・・その結果は衝撃的なもので、ガンなどの死亡率、自殺者数、心血管性系の病気の疾病率や死亡率などにおいて、介入群のほうが放置群より高かった(p130)


・アメリカに留学したときにいちばんびっくりしたのは、MR(製薬会社の医薬情報担当者。要するに営業マンです)が来て薬を紹介されたとき、研修医ですら、まっさきに副作用について、しつこく聞くことでした。次のゴルフの打ち合わせと、薬のよいところしか聞かない日本の医者とは大違い。それは、アメリカでは、もし薬で副作用が出たら、処方した医者も訴えられるからです(p139)


・さまざまなかたちでの製薬会社から医師へのキックバック・・写真週刊誌は、大学教授の家を、大学からもらっている年収を添えて紹介する特集でも組んでみたらいいんじゃないかとすら思います。「年収1500万円 田園調布150坪」「年収1200万円 成城100坪」とか(p142)


・新型抗うつ剤SSRI・・・認可された途端、日本の精神科の業者たちはいっせいに、画期的だ、素晴らしい・・大キャンペーンを張ったのですが、じつは、そのときにはすでにアメリカでは・・SSRIの服用により、自殺者や犯罪者が出てきたのです・・・案の定、日本でも、池田小の連続児童殺傷事件、秋田の連続幼児殺傷事件、全日空機のハイジャック犯や川崎の小学生投げ落とし事件の犯人などが、SSRIを服用していました・・すでに副作用が問題となっていた薬を、よく調べもせずに、最新の治療だと嬉々として使いまくった実行犯(p152)


・指導医として、ちゃんと研修医を指導すると評価されると思いきや、不思議なことに、論文をたくさん書いた人のほうが、結局出世する。教授になるわけです・・厚生労働省は、論文ばかり書いて臨床をやらないヤツが教授になるのはまずいんじゃないか・・と言っていますが、文部科学省のほうは、いまだにそれを無視し続けています(p172)


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【私の評価】★★★★★(94点)



目次

第1章 超高齢社会に対応できない医学部
 医学部の少ない県ほど、寿命が長く、医療費も少ない

第2章 ガンも減らず、ガンで死ぬ人も減らせない医学部
 ガン検診の普及でガンが増える不思議

第3章 心の時代に背く医学部
 四十未満の死因第一位の自殺にも対応できない

第4章 製薬会社の治験機関でしかない医学部
 メタボブームのインチキはなぜ起こったか?

第5章 優秀な学生をバカにして送り出す医学部
 大学病院に研修医が集まらなくなっているわけ

第6章 医療行政を歪める医学部
 既得権の権威主義から競争原理の働く実力主義へ

ちょっと長いあとがき 先進医療立国日本に向けて


著者紹介

 和田秀樹(わだ ひでき)・・・1960年大阪府生まれ、精神科医。東京大学医学部卒、東京大学付属病院精神神経科助手、アメリカ・カールメニンガー精神医学校国際フェローを経て、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学)、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。老年精神医学、精神分析学、集団精神療法学を専門とする


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