【書評】「患者のカルテに見た自分」中沢正夫
2017/06/06公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(89点)
要約と感想レビュー
精神科医の仕事は身の上相談
精神科医が診察を通じて感じていることをまとめたエッセーです。精神科医の仕事で、圧倒的に多いのは、身の上相談だという。親とケンカしたとか、友人とうまくいかないとか、配転になったとか、失恋をしたといった相談が電話という形でやってくる。そして、それに応じることが大切な治療だというのです。
だから、精神科の名医とは、患者さんが、話す、訴える、怒る、泣く、黙る、言い澱む、笑うのを素直に受け止め、スクリーンになることであるという。
精神科には精神を病んだ人がやってきますが、実は誰でも可能性があるのです。家庭内暴力も職場内のいじめも、強い人が弱いふりをしていると攻撃したくなるらしいのです。だれもがイライラすることがあるのです。そうした狂気をだれもが持っているということです。
また、社会生活に伴う張り合い、生きがい、よろこびは、忍耐と抑制と苦しみと背中合わせであるというのです。もしその苦しみが過度になれば、心の病気になってしまうこともあるわけです。苦労が生きがいにもなり、自殺の原因にもなるというのが、現実なのでしょう。
身を避けようと徳を積もうと、T君の暴力がやむはずはない。この両親の一貫性のなさこそ、この暴力の主因であり、権威の失墜こそ、暴力のエネルギーなのである(p82)
狂気と才気は紙一重
驚いたのは、素敵な恋人がいると妄想していた人が、治療が成功して正気に戻って自殺してしまった事例です。夢の中で幸せだった人が、治療の結果、現実に直面し、悲観してしまう。正気に戻ったからこそ、自殺してしまったのです。
また、心の病気が重いときにすばらしい絵を描いていた人が、病気が治ると平凡な絵しか描けなくなることが多いというのです。"治さねばよかったのかな?"と思ってしまうらしいのです。狂気と才気は紙一重なのです。人の心とは本当に不思議なものだと思いました。
そんな矛盾や挫折を抱えながら、精神科医は目の前の患者さんと向き合っているのです。中沢さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・彼は、「時」を止めている。1970年、20歳で止めているのである・・彼にいだいていた憐みは次第にうすれていき、うらやましさに変わっていった。あんな風に生きられたらいい、一生のうちで一番躍動していた時期を体験しつづける人生ができたら・・(p37)
・恋愛結婚ぐらい奇妙なものはない・・相手がどんな「人間」なのか、実は、さっぱりわかっていないことが多い・・人は、いっしょに住んでみて、そこに見知らぬ相手を見出して愕然とするのである(p104)
・よほどよい老人病院でないと、老人の自立度に合わせた介護はしてくれない。例えばオシッコにしても、介護すれば自立しそうな人がいても、そんな手のかかることはできないと全員にオムツをさせてしまう。その結果、失禁が定着してしまう・・(p124)
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【私の評価】★★★★☆(89点)
目次
第1章 不可解だから、心
第2章 現代、という波乗り
第3章 病の、人模様
第4章 私自身のための精神療法
著者経歴
中沢正夫(なかざわ まさお)・・・1937年、群馬県に生まれる。「心の病」治療の権威として、また地域・家族ぐるみの精神衛生活動の先駆者として知られる精神科医である。東京のど真ん中の病院で現代人の心の守り人となり、現在も臨床医として第一線にいる
精神科医関係書籍
「あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから」平光源
「自己評価の心理学―なぜあの人は自分に自信があるのか」
「「苦しい」が「楽しい」に変わる本 ー「つらい」を科学的になくす7つの方法」樺沢 紫苑
「精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方」
「精神科医は腹の底で何を考えているか」春日武彦
「人生に、上下も勝ち負けもありません 精神科医が教える老子の言葉」野村総一郎
「患者のカルテに見た自分」中沢正夫
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