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【書評】「超訳ケインズ経済学 経済に一人勝ちはあり得ない」 大村大次郎

2026/11/02公開 更新
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「超訳ケインズ経済学 経済に一人勝ちはあり得ない」 大村大次郎


【私の評価】★★★★☆(89点)
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要約と感想レビュー


ケインズ経済学とは

イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズの考え方を解説した一冊です。


「不況のときは、政府は財政赤字が出ても財政出動をすべき」というのがケインズの主張です。なぜなら、不況になると失業者が増えるからです。当時、失業者は食うにも困るような状況だったのです。


同じ考え方から、ケインズは第一次世界大戦後、ヨーロッパ復興のために国際借款を実施すべきだと提案しています。つまり、当面必要な食糧や物資を確保し、現地で復興のために働く人の生活を支援しようと考えたのです。また、ドイツへの賠償金も、ドイツが払える程度の金額を提案しています。


しかし、ケインズの提案は十分には受け入れられず、ドイツには多額の賠償金が課せられました。


ドイツは賠償金を支払うために輸出を増やしましたが、通貨を増発しても物自体が不足し、激しいインフレに陥ります。さらに、賠償金の負担や、緊縮財政と増税も国内経済を圧迫しました。


その後、賠償金は減額されたものの、支払い条件がマルクから外貨に変更され、ドイツの金融不安はさらに高まりました。


一方、アメリカでは1928年ごろから、FRBが株式市場の過熱を抑えるために金利を引き上げ、欧州に投資されていた資金がアメリカに戻るようになったのです。


その結果、1929年に世界大恐慌が始まると、金融業者はドイツへの新規貸付を控え、短期債務の返済を要求するようになります。日本のバブル崩壊時に起きた、銀行の「貸しはがし」と同じようなことが起きたのです。


その結果、ドイツでは多くの企業が倒産し、経済危機が深刻化しました。そして、ドイツの賠償金に依存していた英仏などの戦債のアメリカへの返済にも影響が及び、金融危機が世界に広がっていったのです。


世界大恐慌・・ワイマール共和国最後の首相ハインリッヒ・ブリューニングは、ただちに財政支出削減、増税を行おうとしました・・・ケインズ理論とはまるで逆です・・もっと不況になります(p57)

通貨安は労働者にプラス

興味深いのは、イギリスの金本位制への復帰(=ポンド高)政策に対するケインズの批判でしょう。


ポンド高になることで、金持ちにとっては資産価値が上がり好ましいのですが、輸出が減って不況になり、賃金が下がり、失業者が増えて労働者が被害をこうむる、とケインズは批判しているのです。


現在の日本のマスコミでは、円安による物価高で労働者が困っているという報道が目立ちます。しかし、ケインズの考え方からすれば、円安によって輸出が増え、景気が良くなり、賃金が上がって失業が減るのです。


もちろん、円安による輸入物価の上昇が家計を圧迫するのも事実です。ただ、円安にはプラスとマイナスの両面があるのです。


日本のマスコミが正しく、ケインズが間違っているのか?それともケインズが正しく、マスコミが経済の一面だけを切り取って視聴者を誤った方向に誘導しているか?どちらなのでしょうか。


イギリスは・・金本位制への復帰を目指していました・・・ポンドは現状よりも10%高く評価されます。それは資産家(金持ち)にとって有利ですが・・・輸出が振るわなくなって不況になり、賃金が下がったり、失業が増えて、労働者などが大きな被害をこうむります(p73)

財源は国民の経済活動

ケインズの考え方は、「失業者を減らすことを優先する」「経済に一人勝ちはあり得ない」というものです。私はケインズの考え方を、「財源は国民の経済活動にある」と理解しました。


つまり、国民の経済活動が活発になれば税収が増える。逆に、失業者が増えて経済活動が停滞すれば、税収が減り、財政も悪くなるのです。


日本では、デフレ傾向が長く続く中で消費増税を行ってきました。景気が悪いときに国民の負担を増やすのは、ケインズとは逆の考え方です。失われた40年の背景には、こうした政策の影響もあったはずです。


財務省は消費減税の財源を問題にしますが、「財源は国民の経済活動」であるとすれば、消費減税によって景気が良くなり、税収が増える可能性もあるはずです。実際、1997年に消費税率を3%から5%に引き上げた後、翌1998年度の国の一般会計税収は減少しています。


コロナ禍でも100兆円規模の財政出動が行われ、景気がよくなり、税収が増え、国家財政が回復しました。消費税減税でさらに景気がよくなり、税収が増えてしまうかもしれません。消費増税を推進してきた財務省は、これまでの政策の失敗が証明されることを恐れているのではないでしょうか。


ケインズのテーマは「失業をなくすこと」・・・失業率は、そのまま食うに困っている国民の割合を示しているものであったのです(p67)

金本位制とドル基軸通貨の弱点とは

ケインズは「無秩序な国際的な資本の移動は許すべきではない」と考えていました。その理由は次のとおりです。


まず、20世紀初め、イギリスは世界一の植民地を持つ大国だったにもかかわらず、貿易の輸入超過が続き、失業者があふれていました。現在のアメリカのように、イギリス人が母国よりも外国に投資していたことが、国内産業の衰退につながったと、この本では解説しています。


また、1928年ごろ、アメリカは株式市場の過熱を抑えるために金利を引き上げました。すると、その高金利を目指して、欧州やドイツに投資されていた資本がアメリカに戻り、さらに株式市場の高騰をもたらしたのです。


つまり、ケインズはマネーゲームにつながりやすい短期的な投資には制限をかけ、その国の発展を後押しする長期的な投資は歓迎するという考え方をしていたのです。


しかし、第二次世界大戦末期のブレトン・ウッズ会議では、ケインズの国際金融システム構想は受け入れられず、アメリカ・ドルを中心とする国際通貨体制が成立しました。


当初は資本移動の規制も認められていましたが、その後、国際金融の自由化が進むにつれて、短期資本の大規模な移動が世界経済を不安定にしています。


現在、日本のゼロ金利政策は解除され、利上げが進んでいます。日米の金利差の縮小によって海外に流れていた短期的な投機資金が日本に戻り、円高が急速に進む可能性があります。ケインズ流に考えれば、ゼロ金利解除は円高を誘導し、円高によって輸出企業の競争力が低下し、雇用や賃金に悪影響が出ることになるので、労働者としては怖いところです。


大村さん、良い本をありがとうございました。


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発行周期ほぼ平日刊
 
 

この本で私が共感した名言


・ケインズは「ドイツにこのまま多額の賠償金を課せば、ドイツの通貨価値は必然的に急落し、激しいインフレ状態になるだろう」と述べ・・警告どおり、1922年にドイツでハイパーインフレが起こるのです(p16)


・現在の世界経済システムの中で、アメリカが貿易赤字を大幅に削減したりすれば、世界経済は崩壊してしまう・・・アメリカ・ドルを基軸通貨としてきました・・流通量が減れば、世界貿易は収縮してしまい、必然的に世界経済は失速します(p202)


・マルクス経済学では物の価格は、「生産費+資本家の利潤」で決まるとされています。しかし当時すでに物の物価は、需要と供給のバランスで決まることがわかってきていたのです(p106)


▼引用は、この本からです
「超訳ケインズ経済学 経済に一人勝ちはあり得ない」 大村大次郎
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大村大次郎、ビジネス社


【私の評価】★★★★☆(89点)


目次


序章 かなりユニークな人物だったケインズ
第1章 ドイツを苛め抜けば世界経済は崩壊する
第2章 失業は自然に解消するわけではない
第3章 ケインズの新世界金融システム構想
第4章 リーマン・ショックを予言したケインズの警告


著者経歴


大村大次郎(おおむら おおじろう)・・・大阪府出身。元国税調査官。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。


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