「お金の流れで見る明治維新」大村 大次郎
2023/02/22公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
戦争とはお金しだい
タイトルどおりお金の流れで、明治維新を解釈するという一冊です。興味深いのは、戦争とはお金があるかないのかが物を言うということ。薩長の新政府軍は、鳥羽伏見の戦いの直後、大阪・京都の商人を集め、「300万両を拠出して欲しい」と太政官から通達しています。その時点で集まったのは、わずか20万両でした。
それでも新政府軍は江戸に部隊を進め、幕府側は江戸城を無血開城します。実は幕府側に軍資金がなかったため、戦いを避けたとも言われています。もし、幕府側がフランスから資金を調達できていれば、日本の国内はさらに戦争が続き、混乱していたのでしょう。
新政府軍が江戸に無血入城後も、新政府は軍費が不足していました。ここでも新政府は内国債を発行することにし、募債に応じないものは、それ相応の取り計らいをするという脅迫的な内容となっていました。新政府軍が優勢であったということもあり、明治2(1869)年の段階で新政府は267万両を調達し、その金で東北、北海道へ侵攻することができたのです。
小栗が、フランスから600万ドルの借款をしようとしていた・・フランス側が借款の条件として、北海道の鉱山の採掘権などを提示(p113)
薩長は借金を踏み倒す
薩摩藩、長州藩が明治維新で、軍事クーデターを実行できたのは、財政改革に成功していたからです。薩摩藩は500万両の借金がありましたが、250年の無利子分割払いにして、借金を帳消しにしています。その代わり、密貿易に商人たちを関与させることで、彼らを納得させたという。実際、薩摩藩は黒糖の専売と密貿易で250万両も蓄財していたというのです。
同じように長州藩も140万両の借金がありましたが、借入金の3%を37年間払いで111%を払えば完済というスキームで借金を帳消しにしています。そして同時に防長三白(塩、紙、米)と呼ばれる長州藩の特産品の発展に務め、そこから得られた資金で明治維新のための武器を調達したというのです。日本も防衛費増額のために永久国債や100年国債で、資金を調達しようとするのかもしれませんね。
長州藩の借金は約140万両・・借入金の3%を37年間払い続ければすべて完済・・37年間で利子が11%しかつかない(p60)
明治維新で人の移動が自由になる
明治維新で日本の人口が急速に増えたことを不思議に思っていましたが、農民に土地の所有権を与えたことが大きかったようです。それまで農民は藩の領地を耕作し、年貢を納めなければならなかったのに、明治政府は、藩の領地を無償で農民に与えたのです。明治6年から明治45年の40年間で米の収穫量は2倍となっています。
人の移動が自由になり、商工業の発展という要因もありますが、人口増加を可能とする農業の発展という背景があったわけです。明治維新について新しい知見を教えてもらえました。大村さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・小栗上野介・・・万延二分金は、それまでの貨幣の10倍以上の5000万両分も大量発行された・・横須賀製鉄所を建設したといわれている(p98)
・小栗上野介は、兵庫商社という会社も設立した・・生糸は、海外販売価格の2分の1、3分の1程度の値段で買い叩かれていた(p104)
・明治14年の帝国年鑑によると、旧武士のうち、明治新政府で官職にありつけた者は全体の16%に過ぎなかった(p225)
【私の評価】★★★★★(90点)
目次
第1章 幕府も諸藩も破綻寸前
第2章 財政再建を果たしていた薩摩と長州
第3章 第三の勢力「海援隊」とは?
第4章 幕府財政を立て直した怪物
第5章 長州征伐でついに幕府が財政破綻
第6章 大政奉還と戊辰戦争の金勘定
第7章 幕末経済を動かした「ニセ金」
最終章 明治維新で誰が得をして誰が損をしたのか?
著者経歴
大村大次郎(おおむら おおじろう)・・・元国税調査官。国税局に10年間、主に法人税担当調査官として勤務。退職後、ビジネス関連を中心としたフリーライターとなる。単行本執筆、雑誌寄稿、ラジオ出演、等で活躍している。税金・会計関連の著書多数。一方、別のペンネームでこれまでに30冊を超える著作を発表している
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